老練な刑事と、激情型の刑事が解き明かす七つの大罪『セブン』

★懐かしの洋画名作シリーズ
・題名 『セブン/Seven』
・公開 1995年 米国
・配給 20世紀フォックス
・監督 デビッド・フィンチャー
・製作 アーノルド・コペルソン、フィリス・カーライル
・脚本 アンドリュー・ケビン・ウォーカー
・音楽 ハワード・ショア
・主題歌 「ハーツ・フィルシー・レッスン」
デビッド・ボウイ
目次
出演者
◆ウィリアム・サマセット : モーガン・フリーマン (後一週間で退職する老刑事)
◆デビッド・ミルズ : ブラッド・ピット (田舎から志願して都会に来た若い刑事)
◆トレイシー・ミルズ : グウィネス・パルトロー(デビット・ミルズの妻)
◆ジョン・ドゥ : ケビン・スペイシー (正体不明の男)
◆上司の警部 : R・リー・アーメイ
あらすじ
老練なベテラン刑事、「ウィリアム・サマセット(以下サマセット)」は、殺人事件の検証を行っていた。
検証中、本日配属されたばかりの若い刑事、「デビッド・ミルズ(以下ミルズ)」、がやってきた。
ミルズは仕事に可能性を見出したく、田舎の警察から志願して都会の警察にやってきた程、血の気盛んな刑事。
早速事件に取り掛かろうとするが、いきなりサマセットから肩透かしをくらう。
サマセットは、「自分はあと一週間で退職する、一週間黙って見ててくれ」
とミルズに告げる。
翌日、街で男の死体が発見された。男は自分の家のドアですらくぐり抜けられない程の肥満体で、顔をスパゲッティの皿に突っ込み、死んでいた。
検視をするサマセットは、ミルズに聞き込みを命じた。ミルズはサマセットと同じ立場の刑事だったが、サマセットに本来の巡査の仕事である聞き込みを命じられ、へそを曲げる。
サマセットは現場検証の結果、此の事件は退職前の仕事ではないと判断。上司の警部に事件を他の刑事に担当させるよう懇願する。
しかし警部は、サマセットに捜査担当を命じた。サマセットは事件は猟奇的要素を含み、今後も続くであろうと予言した。
サマセットの予言通り、連続して猟奇殺人が発生する。
事件が起きるにつれ二人は、事件はカトリック教会の「七つの大罪」をテーマを捩り、殺人が行われている事実を突き止める。
全くの偶然で、容疑者が浮かび上がった。二人が容疑者の家を訪ねた際、偶然にも容疑者が帰宅。
忽ち容疑者と二人の刑事との撃ち合いが始まった。
すんでの処で、容疑者をとり残したサマセットとミルズ。
事件は難航するかと思いきや、意外な方向へと進む。更に事件は、衝撃的な結末で幕を閉じる。
「七つの大罪」の「セブン」、サマセットがあと一週間で退職する「七日間」の「セブン」を掛けていると思われる。
引退間際の老刑事と、血の気盛んな若手刑事の対比が見事に描かれている。
何時も意見が食い違っていた二人が、最後に初めて意見が一致するのも又おもしろい。
最初で最後の仕事は、意外な結末で終わる。
尚、この作品はブラッド・ピットの出世作とも言えよう。
見所
サマセットがベッドの脇に置いてある「メトロノーム」は、サマセット自身の象徴。
メトロノームは規則正しく動く。此れ迄、規則正しく日常を過ごし、あと一週間で退職を迎えるサマセットの人生を示したもの。
映画冒頭、サマセットが几帳面に見出しを整えるシーンがそれを物語っている。
何気に似た映像として1952年作、黒澤明監督作品の「生きる」のオープニングが挙げられる。
此方の方が早い為、スタッフが引用したのかもしれない。
一方ミルズは、だらしなく朝を迎え、出勤する姿が全く対照的。
今回は説明をし易くする為、曜日ごとに分けてみた。
月曜日
激太りした男の死体が自宅で発見された。現場検証・解剖の結果、殺人事件と判明。
サマセットは6日で退職の予定。サマセットは捜査を担当する事を辞退する。この事件は続く。引退前の仕事でないと。
「暴食・gluttony」
転勤したばかりのミルズは、ヤル気満々。しかし上司の警部は、今までの経験・知識を考慮。
事件を、サマセットに担当させる。
火曜日
弁護士の死体が発見される。弁護士は名のしれたやり手で、強欲と言われる程、荒稼ぎをしていた。
事件はミルズが担当する事になった。床に書かれた謎の文字「greed」。
更に血で染められた妻の写真。事件は連続殺人の様相を呈してきた。
「強欲・greed」
その夜、サマセットは眠れず、図書館に向かう。七つの大罪を調べる為に。
閉館した図書館に入り、サマセットが警備員と親しく話すシーンをみれば、何かにつけ普段も利用していたのであろう。
サマセットが調べものをしている際に流れるバッハの「G線上のアリア」が殺伐とした事件中、美しく響く。
サマセットが調べる言葉が、後々の伏線となり、重要な意味を帯びる。
口ではミルズに色々言いながらも、ミルズに対する心遣いは忘れない。昔気質の人間と言えようか。
環境の変化、不慣れな土地で初めて担当する大事件。
なかなか捗らない夫を、ガラス越しに心配そうに見つめるトレイシー・ミルズ(妻)の姿がいじらしい。
水曜日
署の事務所で顔を合わすが、何かお互いにぎこちない。
事務所にミルズの妻から電話がかかってきた。用件はサマセットを今晩自宅に招き、一緒に食事をしょうとの誘い。
妻は夫の様子を心配しての事であろう。妻は夫に相談せず、電話を切ってしまう。
その夜、サマセットがミルズ宅を訪れた。食事が進むにつれ、3人は漸く打ち解け始める。
妻のファインプレーといっても良いだろう。食事の最中、サマセットの言葉が心に沁みる。トレイシー(ミルズの妻)がサマセットに質問する。
・トレイシー
「この街は長くいるの?」
・サマセットの返答は
「長するぎるくらいだよ」
何か殺伐とした都会に住み、既に身も心も疲れ果て、うんざりした心の叫びとでも言おうか。
この会話は後の伏線となる。
食事後、サマセットとミルズは事件の洗い直しを始める。
サマセットは一枚の写真を見て、事件の糸口を掴む。写真は殺された弁護士の妻の眼を血でくくったシロモノ
二人は警察の保護下にある殺害された弁護士の妻を訪ね、写真を確認して貰う。
妻が確認した末、殺害現場の絵画が上下逆になっているのが判明する。
二人は手がかりを求め、弁護士事務所に直行する。
日増しに変わっていく夫の姿を見つめるトレイシーが、何か不憫にも見える。
二人は犯行現場の絵画を調べたが、絵画には何の異常もなかった。
しかし絵画が掛けられていた壁に、指紋で書かれた怪しげな文字が発見された。
文字は「Help me 」と書かれてあった。
指紋照合待ちの時の二人の会話が興味深い。サマセットの退職前の心境がよく現れている。まだミルズは若い為なのか、サマセットの心境を理解できない様子。
因みに会話の内容は、
サマセットが
と呟く。
すると若いミルズは、サマセットの言葉を下らないと一蹴する。まだ二人が、ギクシャクしている証拠だろうか。
木曜日
指紋照合の結果、壁に残された指紋は前科のある人間と判明。二人の刑事とSWATは、指紋の男の自宅に向かう。
そこで二人が見た物は。
半ミイラ化された指紋の男の姿。検視の結果、男は犯罪どころか、生きているのさえままならぬ状態。
おそらく何者かが男を薬漬けにし、経過を観察していたのもとも思われる。現場には「怠惰・sloth」の文字。
「怠惰・sloth」
警察が男の家を現場検証中、記者が現場に入りこみ、いきなりミルズの写真を撮った。
ミルズは立腹、記者に対し怒りを露わにする。
その夜サマセットの自宅に、トレイシーから電話がかかってきた。ミルズには内緒で、相談したい事があると。
サマセットは翌朝、トレイシーに会う約束する。
金曜日
トレイシーの相談内容は、越してきた街になかなか馴染めない事だった。
しかしサマセットは、本当はそんな相談に来たのではないだろうとトレイシーを問い質した。
するとトレイシーはいきなりサマセットに、「ミルズとの間に子供ができた」と告げる。
トレイシーは子供ができた事をミルズに告げる事が出来ず、サマセットに相談しに来たのだった。
トレイシーは殺伐とした都会で子供を産み、育てていく自信が持てなかった。
サマセットはトレイシーに、自分も嘗て同じ体験をした事を告げた。自分にも、そんな時代があったのだと。
自分も結婚しようと思った女性がいた。
或る時、女性が妊娠した。それを聞いた時、自分は恐れた。
「こんな殺伐とした世の中に、子供を産むのか」と悩んだ。
悩んだ末、女性に堕胎を勧めた。二人の関係は、それっきりになってしまったとサマセットはトレイシーに述べた。
しかしサマセットは、
「一日たりとも、違った選択をしていたらと考えない日はない」
と付け足し、
「もし産むという選択をしたら、思いっきりかわいがり、おもいっきり甘やかしてやれ」
とトレイシーに助言する。
この時トレイシーはサマセットの話を聞き、どちらを選択したのかは分からない。
署に戻ったサマセットはミルズと改めて事件を振り返る。
サマセットはミルズのふと発した発言で、あるヒントを得た。
犯人が事件を起こす時、或いは調べものをする時、図書館を利用したのではないかと推測した。
今回の事件に関係する本のリストを作り、違法ではあるが知り合いのFBIを通じ、本の貸出主を照合して貰った。
照合の結果、疑わしい人物が浮かんだ。
人物の名前は「John Doe」。
名前からして偽名臭い。John Doeとは「身元不明の名前、ありふれた人」の意味。
事件で身元不明の死体があがった時、スラングでJohn Doeと名付ける。(以下、ジョン・ドウと表記)
二人はジョン・ドウの家を訪ねる。訪ねたが、どうやら留守の様子。
そうこうする中に、一人の男が戻ってきた。どうやらジョン・ドウ本人(ケビン・スペイシー)らしい。
ジョン・ドウは二人に気付き、いきなり発砲。そのまま逃走する。
二人は必死追いかけるが、寸での処で逃げられる。
ジョンの自宅を家宅捜査した際、驚くべき事実が判明する。
尚、家宅捜査するまでの二人のやりとりが面白い。何故なら、二人の対照的な性格が表れている為。
彼は前日、事件現場で記者を装い、ミルズの写真を撮った人物と判明。
ジョンの自宅から、今迄の事件に関与したと思われる証拠品が次々と発見された。
今までの事件の犯人は、ジョンと断定された。
家宅捜査の最中、ジョン・ドウから電話がかかってきた。
あまりに手際よく辿りついた賞賛の言葉と、今後の事件を予告させるものだった。
土曜日
ジョン・ドウの部屋にあった写真の女が殺された。どうやら娼婦らしい。
殺された時、ジョン・ドウが娼婦を買った客に無理強いさせ、殺したらしい。4人目の犠牲者。壁には「色欲・LUST」の文字。
「色欲・LUST」
事件の取り調べ後、サマセットとミルズは酒場にいく。二人の会話の中で
サマセットが呟く
「どんな猟奇的殺人を犯しても、ジョン・ドウは悪魔ではない。人間だと」
要約すれば、ジョン・ドウと言う名が示す通り、どんな普通の人も、犯罪を犯す可能性を秘めていると言う事。
この言葉は後にミルズに対し、重要な意味を秘め事となる。
日曜日
サマセット刑事最後の日。警察通信室にジョン・ドウ(以下ジョン)から犯罪を遂行したとの電話が入る。
現場に直行した際、女の死体を発見。壁には「高慢・pride」の文字。これで5人目の犠牲者。
「高慢・pride」
現場検証後、二人は署に戻る。署に戻った時、血まみれになったジョンが出頭する。事件はあと二つ残していたが、何故ジョンは出頭してきたのか。
身柄拘束後、ジョンの弁護士が
「死体をあと二人隠していて、ジョンが自ら案内する。ジョンはサマセットとミルズが同行するなら、死体の有りかを教える」
と告げる。
罠だと、サマセットとミルズは悟る。今迄全く意見が異なっていたが、二人の意見が初めて一致した。
検事・警部の話では、ジョンの手から女性と思われる血液と、もう一人の新たな血液が検出されたと、二人に告げる。
事件の真相を究明すべく、サマセットとミルズはジョンの誘いに乗る。
車中でミルズがジョンに話しかけた際、ミルズに意味ありげに答える。
「人にものを聞かせたければ、ハンマーで人の肩を叩く事だ、そうすれば人は云う事をきく」
このセリフ何か以前も聞いたような、そう以前サマセットがミルズに
「助けが欲しい時は、助けてといっても誰も助けない。火事だと言って叫ぶ事だ」
に何処か似ている。
ただジョン自身も気付いていないが、
「自分のした事が完結した時、人々は自分のした事の大きさを認め、忘れらないものとなる」
と発言するが、これはジョンの誇大妄想と思われる。
確かに重大事件が発生した時、人々は暫くは恐れ戦くが、やはり時間と供に印象が薄れていく。
日々の忙しさと時間の経過で、人間は過去の出来事を忘れか、薄れる様にできている。
この点に関して、ミルズの意見が正しいと思われる。
更に自分(ジョン)が殺した人間は罪深い人間であり、問題はないと主張する点。
この理屈が通れば、人間は誰でも殺人を犯す事が許される。
自警団がエスカレートして、終いには手が付けられなくなるのと同じ。
更にジョンがミルズに告げる。
「事件が完結した時、君(ミルズ)は、忘れられない目撃者となる」
と何かを仄めかす。
3人を乗せた車は、荒れた大地に停まる。ジョンは二人の刑事に、死体は此処に隠してあると。
3人は暫く荒野に佇む。
程なく宅配の車が、此方に向かってやってきた。サマセットは宅配に人間を捕らえ、配達人を尋問する。
配達人の話では、「法外な報酬をもらい、荷物を此処に届けに来た」と答えた。
荷を受け取ったサマセットは荷を開けるかどうか迷うが、意を決して荷を開ける。
荷を開けた瞬間、サマセットは驚愕する。荷の中味は驚くべき代物だった。
荷を見た瞬間、サマセットは咄嗟にジョンの企みを理解した。
荷物の中味は「トレイシーの首」だった。
サマセットはミルズを制御すべく、必死に2人の許に駆け寄った。
その間に、ジョンがミルズに全てを打ち明けた。
自分はミルズの様な家庭を持つ人間に嫉妬した。
だからミルズの外出後、自宅に押し入り、トレイシーを殺害したと。自分は罪を犯した。嫉妬と言う罪を。「嫉妬・envy」、6人目の犠牲者。
「嫉妬・envy」
話を聞いたミルズは、ジョンの話を事実として受け取れず、又余りの衝撃で言葉を失った。
ジョンはミルズが怒り、怒りにより、ミルズがジョンを銃で撃つようにし向けたのである。
ミルズは葛藤と苦悩で、ジョンを打つかどうか逡巡する。
ここが映画最大の見所。
ジョンが呟く、トレイシーには子供がいたと。ミルズは驚いた。
この時ミルズは、初めてトレイシーが身籠っていた事を知る。
話を聞いた時のミルズの表情が、なんとも言えない。2人の血痕は、
トレイシーと、お腹の赤ん坊の二人の血痕だった。
ジョンの話の最中、サマセットが半ば諦めの表情をする。
ミルズはサマセットの表情を見て、ジョンの話が真実と悟る。
ミルズが怒りのあまりジョンを銃で撃ち殺す。「憤怒・wrath」、7人目。
「憤怒・wrath」
「七つの大罪」が完成した瞬間。
7つの殺人、事件終結に7日間。
ミルズがジョンを撃つ寸前、サマセットが再び諦めの表情をするのが印象的。
今日を期にサマセットは退職するが、刑事生活の最後、なんとも後味の悪い退職日となった。
まさかジョンを乗せた護送車の後部座席に、今度はミルズが乗る羽目になるとは。
先程述べたが、人はいつ犯罪者になるか分からないと云う事を物語っている。
追記
物語の設定は、あくまでも都会と云う事で、どの都市かは特定していない。トレイシーの話では、南部から都会に引っ越して来たと述べていた。
劇中最後に犯人をのせて車を走らせるシーンがあるが、
街を出る際、道路標識に「Vermon Ave」(バノン通り)と書かれてある。
推測するに、おそらくカリフォルニア州のロスあたりと思われる。
サマセットが自分の事務所でタイプを打っているシーンがある。
芝居なのか本当なのか分からないが、自信なげに指で一つ一つ打ち、両手で打っていないのが分かる。
年配の方がよくする仕草で、老刑事の為、あまり文明の利器に不慣れなのを表現するのが狙いであろうか。
何気に細かい演出と云える。
図書館の警備員ジョージ「ホーソーン・ジェームズ」は、1994年作:「スピード」でバスの運転手をしていた人物。
ミルズの自宅で事件写真をサマセットが見ている際、地下鉄が通過。家が揺れる。
サマセットはワインがこぼれない為、コップを押さえるシーンがある。
その際サマセットが一瞬驚いて、ワイン入りのコップを見つめる。
此れはおそらく、ワインがワイングラスでなくコップに注がれ、更になみなみついである事に驚いたのではなかろうか。
ジョン・ドウの家宅捜査の映像をみた時、何かロバート・デニーロ主演映画、1976年作「タクシー・ドライバ」が頭を過った。
部屋の様子が、あまりにも酷似していた。
日頃、主人公の鬱積した気持ちが、何かの拍子に爆発。
社会の退廃したモノが攻撃対象となり、犯人は歪んだ正義感ゆえ、その退廃したモノを攻撃の対象とする。
それは明らかに、非合法な行為。非合法行為で犯罪を犯す場面も何か似ている。
劇中には、雨のシーンが多い。
スタッフの話によれば、雨を演出する事で、殺伐とした事件と都会の陰鬱さ、人間の憂鬱さを表現したとの事。
映画全体が何か暗いのも、同様の演出を狙ったとの事。
セブンもなかなか面白い映画だが、ほぼ同時期に公開されたジャン・レノ主演の『レオン』(1994年公開)もなかなかの秀作。
公開された当初、人間の生きる意義を考える上で、とても印象深かった。
殺伐とした現代の都会で、何か人間の醜い部分が露骨に現れたとでもいうのだろうか。
二つの映画は私の今後の人生において、忘れられない映画となろう。機会があれば、いつか『レオン』についても言及したい。
(文中敬称略)