戦後の傷跡が残る当時の日本を描いた作品 松本清張『ゼロの焦点』1961年作
★懐かしい日本映画の名作
・題名 『ゼロの焦点』
・公開 1961年
・配給 松竹株式会社
・監督 野村芳太郎 ・脚本 橋本忍、山田洋次
・制作 保住一之助 ・音楽 芥川也寸志
・原作 松本清張 ・企画 若槻繁
目次
出演者
◆鵜原禎子 :久我美子 ◆鵜原憲一 :南原宏治
◆室田佐知子 :高千穂ひづる ◆室田儀作 :加藤嘉
◆鵜原宗一郎 :西村晃 ◆田沼久子 :有馬稲子
◆本多良雄 :穂積隆信 ◆宗一郎の妻 :沢村貞子
◆禎子の母 :高橋とよ
『砂の器』との類似点
『砂の器』の作品と同様、監督を始めとして、似たスタッフが映画に携わっている。
監督が同じで、脚本・音楽も同じ。
脚本に山田洋次が関わっているのも興味深い。出演者も「加藤嘉」、「穂積隆信」が同じ。
砂の器との大きな共通点は、石川県が舞台な事。
砂の器では、犯人の出身地が石川県。
『ゼロの焦点』は、事件の舞台が殆どが石川県。
清張には何かしら雪国には、深い思い入れがあるのかもしれない。
映画は、ほぼ原作を忠実に再現している。
出演者
◆鵜原禎子
演じたのは「久我美子」。往年の名女優。調べてみれば、何やら凄い家系の方。
祖先を辿れば、村上天皇の系統「村上源氏」に繋がる家系。何とお公家さん出身。
往年の方には、1950年作:「また逢う日まで」の「岡田英次」とのガラス越しのキスシーンが有名。
当時はまだキスシーンが公に認められてなかった為、スタッフの苦肉の策だった。
女優の故三ツ矢歌子とは、義理の姉妹の関係。
原作と違い映画は、殆ど一人で推理・調査して事件を解決する流れ。
事件解決までは、禎子の淡々とした口調で述べられていた。
今で云えば、ドキュメンタリー映画のような作り方であろうか。
原作にはないが、劇中では禎子が田沼久子を過去を訪ね歩くうちに、偶然室田佐知子の過去をしる女性に出会う。
写真を確認して貰った後、禎子は室田佐知子が嘗て、人に言えない商売をしていた過去をしる。
劇中、12月の東京では雪が降らないのか、禎子がヒールを履いて金沢の町を闊歩している。
金沢で禎子がヒールで歩く際、とても苦労している姿が見て取れる。
◆鵜原憲一
演じたのは「南原宏治」。
原作ではかなりの箇所で登場するが、劇中では最初の結婚。
金沢に旅立つシーンしかなく、殆ど目立たない。
鵜原禎子の会話中に出てくる程度。
原作とは違い、何か頼りない男として描かれている。
自分が田沼久子と内縁関係にありながら、禎子と結婚。
自分の過ちの処理を室田佐知子に相談するシーンなどが、典型と云える。
鵜原宗一郎
演じたのは「西村晃」。
私のイメージとしてはTV番組、「水戸黄門」の黄門様の印象が強い。
私の好きな黒澤明監督の作品に数多く出演している。
初代「ビルマの竪琴」(1956年)にも出演している。
劇中、鵜原憲一の兄役で出演時間は僅かだが、原作のイメージ通りに何か小狡く、世間慣れした人物を上手く演じている。
◆本多良雄
演じたのは「穂積隆信」。
原作では禎子に付き添い、いろいろ力になってくれる人物。
劇中ではそれ程、重要な役割をしていない。同じ清張の作品「砂の器」では、新聞記者役を演じている。
◆室田佐知子
演じたのは「高千穂ひづる」。宝塚出身らしい。
らしいと書いたのは、記録が殆どみつからない為。
宝塚を辞めた後は女優となり、数多くの映画作品に出演している。
私が見た映画では、同じ清張作品『張り込み』(1958年)に出演している。
彼女は当時、29歳だった。
劇中では、原作のような金沢での上流階級での活躍は、あまり描かれていない。
ごく普通の社長夫人と云ったような処であろうか。
◆室田儀作
演じたのは「加藤嘉」。
砂の器では、犯人(和賀英良)と一緒に放浪の旅に出る、父親の本浦千代吉役を演じている。
劇中では、原作ほどあまり重要な役柄ではない。見せ場は、最後のシーンだろうか。
◆田沼久子
演じたのは「有馬稲子」。
禎子が本多と室田の会社を訪ねた際、受付にいた女性。
劇中では、外国人と英語で活発に会話している姿が印象的。
原作では、久子は禎子が会社を訪れた後、失踪している。
原作との相違点
登場人物の項目でも述べたが、原作と違い鵜原禎子が主に中心的に動き、事件を解決する展開になっている。
原作では、本多は何もしらない金沢の地で、禎子に色々手を尽くしてくれている。
行方をくらました田沼久子を追い、東京で殺害されるが、映画では殆ど登場しない。
因って、他殺されるシーンはない。映画では、過失死。
室田夫妻宅を訪ねた際、劇中では憲一が結婚する予定の禎子の写真を見せた事になっているが、原作はない。
室田の会社を訪ねた時、受付の田沼久子が禎子の顔を何気にジロジロ見るのは、原作も映画も同じ。
原作では憲一が室田夫妻に禎子の写真を見せたかどうかは分からないが、劇中では久子は、何気に禎子の顔を気にしている様子が伺える。
劇中では、関野鼻の「ヤセの断崖」で「曽根益三郎」こと鵜原憲一が死亡した場所になっている。
原作では鵜原は、福浦の断崖(巌門あたり)で死亡している。
劇中では、石川県の警察が鵜原憲一は自殺。田沼久子も自殺。
鵜原宗一郎殺害は、田沼久子の犯行として処理されている。
原作では曽根益三郎は耐火煉瓦の社員となっていたが、実際は勤務実態がなく、内縁の田沼久子には退職金の支払いはない。
劇中では本社扱いで処理され、田沼久子に七尾支社から退職金が支払われている。
因みに、耐火煉瓦会社の名前は「室田」ではなく、「丸越」となっている。
原作では鵜原宗一郎は、鶴来の旅館で人待ちをしている間に、相手からもらったウイスキーで毒殺されている。
劇中では、旅館内で犯人と会話中、毒殺された設定。
原作最後では、室田佐知子が死を覚悟して和倉の旅館(加賀屋と思われる)を出発。
妻を後を追いかける為、室田儀作も出発する。
儀作が断崖についた時、佐知子は既に荒れた海に死ぬつもりで舟を漕ぎ出していた。
原作では、そこで終了する。
映画では既に事件解決と思われた一年後、禎子が室田夫妻をヤセの断崖に誘い出し、一年前の事件の謎解きをする。
此処で鵜原禎子と室田佐知子が対峙する。
この場面が、映画の最大の見所。
鵜原憲一は、立川での佐知子の過去(たちんぼの過去)をしらなかった。
しかし佐知子は自分の勘違いで、自分自身で鵜原に立川にいた過去を話してしまったと告白している。
劇中では久子は、佐知子と立川時代からの顔馴染みとなっている。
佐知子は当初、久子を殺す目的で呼び出した。
しかし二人が会話する中、二人は互いの身の上に同情。
二人は和解後、久子が誤って毒入りウイスキーを飲み、死亡した設定になっている。
誤って毒入りウイスキーを飲んで死亡した久子の死体を、佐知子が崖から投げ捨てるシーンが何とも言えず物悲しい。
鵜原憲一と田沼久子の接点が、何気に不明。
立川からの関係か、金沢に来てからなのかは定かでない。
最後に室田佐知子が車で走り去り、車ごと崖から落ちて死亡する。
原作では、一人で冬の日本海に小舟で漕ぎ出し、波にのまれ死亡している。
(文中敬称略)
2009年映画版の紹介は、次回にさせて頂ききます。
劇中の曲
・【こんな女に誰がした】 作詞 清水みのる 作曲 利根一郎
歌 菊池章子
・【星の流れに】 改名