松本清張の名作映画『ゼロの焦点』 2009年作 リメイク版

★懐かしい日本映画シリーズ、リメイク版

 

・題名   『ゼロの焦点』

・配給  東宝株式会社        ・公開  2009年

・監督  犬童一心          ・脚本  中園健司

・制作  服部洋、白石統一郎     ・音楽  上野耕路

・原作  松本清張 

 


 

出演者

◆鵜原禎子  : 広末涼子      ◆鵜原憲一  : 西島秀俊

◆室田佐知子 : 中谷美紀      ◆室田儀作  : 鹿賀丈史

◆鵜原宗一郎 : 杉本哲太      ◆田沼久子  : 木村多江

◆本多良雄  : 野間口徹      ◆宗一郎の妻 : 長野里美

◆禎子の母  : 市毛良枝

 

ゼロの焦点:2009年版

今から約10年程前に公開された、1961年のリメイク版。

作品は、かなり現代風にアレンジされている。

 

時代背景がかなり異なっている為、仕方がない部分もある。

しかし大まかな枠・テーマは崩れていない。

前回の作品から既に、48年の月日が流れているのが驚き。

 

※参考:松本清張『ゼロの焦点』1961年作

 

出演された方々は今でも活躍されている為、敢えて説明するまでもないが、例えば「室田儀作」役の鹿賀丈史

彼は石川県金沢市出身の為、今回抜擢されたのかもしれない。

因みに芸名の「鹿賀」とは、石川県の旧名称「加賀国」を捩ったものと謂われている。

 

皆様のイメージとしては、TV番組「料理の鉄人」の司会者が強い。

他に「Gメン75」「野獣死すべし」「天皇料理番」等、出演していた。

 

原作・前回の映画版の相違点と見所

禎子が憲一の行方が分からなくなった時、会社側から同伴者が来ず、禎子一人で金沢に向かっている。

禎子が金沢に到着後、すぐ身元不明の死体が発見され、能登の羽咋に確認に向かう。

前回は室田夫妻の宅を訪問後、身元不明の死体が発見された。

 

原作・前作映画(以下、前作と表記)では、謙一が勤める会社の支社長は、左程意味がなかった。

今回の支社長は、或る意味を含ませていた。

それはあまりにも会社と自己保身に走る、小狡い人間として描かれていた。

それは、典型的な日本のサラリーマンの姿なのかもしれない。

 

前作では室田儀作はあまり重要な役割ではなかったが、今回はとても重要な人物として描かれている。

禎子と本多(鵜原の後任)が室田耐火煉瓦会社を訪れた際、受付で「田沼久子」に出会う。

その時の田沼久子の英語が前作に比べ、あまりにもブロークン・イングリッシュ(片言英語、しどろもどろ)の度合いが激しすぎた。

あまりにも極端すぎたかもしれない。反って、わざとらしさが感じられた。

 

前作と違い室田夫妻は、あまり人間味あふれる人物として描かれていない。

どちらかと云えば、冷たい感じがする人物像として描かれていた。

 

禎子が訪れた金沢では、市長選挙が行われている最中だった。

室田佐知子は、女性立候補者に肩入れしている設定。

 

禎子が金沢滞在中、義兄の鵜原宗一郎が毒殺される。

毒殺現場で犯人が立ち去るのが目撃されるのが、明らかに異なる。

 

前作と比べ(鵜原の後任者)本多は、滞在中の禎子にいろいろ尽力してくれる。

本多は原作と同様、他殺死体となって発見される。

 

但し今回は毒殺ではなく、刺殺死体として。

更に東京でなく、羽咋の田沼久子の家で、死体となり発見される。

 

原作・前作では存在しないが、室田佐知子には画家の実弟が存在する。

今回は弟が幼少にて生活苦の為、佐知子は立川で「立ちんぼ」をしていたと語られている。

 

前作に比べ、妙に金沢の警察署が非協力的。

禎子が鵜原憲一の巡査時代の同僚から話を聞き、当時の田沼久子の下宿先を訪ねた際、久子の他に室田佐知子も一緒に写真に写っていたのは、明らかに原作と前作とは異なる。

 

下宿先の女性(左時枝)が一度だけの登場するが、何気に重要な役。

しかも、なかなかの好演。

 

前回の室田佐知子の源氏名は「エミー」だったが、今回「マリー」となっている。

今回の田沼久子の源氏名は「エミー」で、前作は「サリー」。前回とは異なる。

 

今回の佐知子と久子は立川時代、かなり親しい間柄だった。

鵜原憲一を含め3人は、立川で顔見知りの設定。

 

劇中、進駐軍の売春婦の手入れの場面で、鵜原が故意に佐知子・久子を見逃すシーンが存在する。

鵜原が壁越しに、佐知子・久子の会話を聞いているシーンが印象的。

何気に、今回の映画の見所かもしれない。

 

今回の作品で鵜原憲一は、なかなかの存在感を示している。

前回と違い、今回は敢えて憲一の存在を強く浮立たせているようにも見える。

 

前作と違い久子は過失で死ぬのではなく、自ら崖に身を投げる設定。

最初はドキュメンタリー風で淡々の物語が進むが、後半になるにつれ、見ごたえあるシーンが連続する。

劇中、最後に室田儀作が妻の罪を被り、自殺するのは前作とは大きな違い。

 

前作は「ヤセの断崖」で禎子と佐知子が対決するが、今回は選挙事務所。

過去、何度か石川県を訪れた事がある私としては、出演者の方言が、なかなか上手いと感じた。

何気に語尾に特徴が出ている。

 

原作・前作では登場する人物の人間関係、北国独特の風景を思い起こさせる雰囲気・描写が多かったが、今回は登場する人間模様が中心に描かれている。

 

劇中、鵜原禎子が鵜原憲一の帰京を待つ際、英語の唄『ONLY  YOU』を口ずさむシーンがある。

唄と歌詩が素晴らしく、私もお気に入りの曲。

しかし、だいぶ後になり分かったが、劇中では全く別の意味で使われた。

 

終戦後、占領下の日本では、全く別の意味で「オンリー・ユー」と云う言葉が使われた。

当時の東京では、室田佐知子・田沼久子が行っていた職業の人間(売春婦)を指す隠語として使われていた。

 

つまり「特定の占領軍兵士の契約妻になる」意味が含まれていた。

此の事実を知った時、劇中シーンは後の伏線である事が理解できた。

 

(文中敬称略)

 

劇中の曲

・童謡 【この道】    作詞 北原白秋  作曲 山田耕筰

・洋楽 【オンリ・ユー】 作詞・作曲   バック・ラム

                 歌  プラターズ(1955年)