会社の労組から縺れた関係 松本清張『鴉:からす』

★松本清張短編小説シリーズ

 

・題名        『鴉』:からす

・株式会社双葉社   双葉文庫 松本清張ジャンル別作品集 社会派ミステリー

・2016年     12月発行

・1962年     1月『週刊読売』掲載

 

登場人物

◆浜島庄作

中堅家電メーカー「火星電器株式会社」に勤める、38歳の会社員。

会社では花形の販売部所属だが梲が上がらず、万年平社員。

同僚は勿論の事、後輩からも出世で先を越され、会社では肩身が狭い身だった。

 

或る時、労組活動をきっかけで今迄の会社に対する鬱憤を晴らすかのように、精力的に活動する。

会社との団体交渉の際、急先鋒となる。

ストを主張するも、直前で委員長の柳田の決断で、ギリギリで回避される。

回避された後、お役御免となり、会社側の報復人事で左遷される。

 

庄作の会社への鬱積は益々募り、それと同時に同じ委員であった柳田に怒りの矛先が向く。

やがて庄作は左遷先で失敗をしでかし、会社から馘首される。

 

馘首された庄作は既に失うものなど、何もない。

庄作の行動は、徐々にエスカレートしていく。

 

◆柳田修二

浜島庄作が勤める、火星電器の社員。総務課に所属で、副課長。

なかなかの美男子で女性社員からもて、仕事もでき上司からの評判も良い。

 

或る日、労使の委員長に抜擢される。

組合委員長として副委員長の浜島庄作と供に、会社側の交渉にあたる。

しかし交渉は難航。組合はストも辞さない構えをみせる。

 

ストの急先鋒だったのは、副委員長の浜島だった。

組合側が強硬ストに突入するかと思いきや、委員長柳田の決断で、ストはギリギリで回避された。

ストを回避した為、急先鋒だった浜島から、ひどく恨まれる。

 

◆火星電器株式会社、労務担当重役

庄作が勤める会社の労務担当重役。会社と労働組合の団体交渉が難航。

柳田委員長を自分の二号が経営するバー「ゼブラ」に呼び、裏取引を持ち掛ける。

 

◆バー「ゼブラ」のマダム

火星電器の労務担当重役の二号。

団体交渉が難航の際、委員長の柳田と労務担当重役の裏取引の場を提供する。

 

◆バー「ゼブラ」に勤める年増ホステス

バー「ゼブラ」に勤めるホステス。

庄作が柳田の情報を得る為、金銭で買収。柳田と会社の労務担当重役との密会情報を庄作に伝える。

あらすじ

中堅家電メーカー「火星電器株式会社」に勤める、38歳の平社員。

会社では販売部所属だが、梲が上がらず、万年平社員。

同僚は勿論の事、後輩からも出世で先を越され、会社では肩身が狭い身だった。

 

或る時、庄作は労働組合の役員になった。

労組の役員となった庄作は今迄の会社への恨みを晴らすかのように、先鋭的に労組活動に精を出す。

ストも辞さない構えで、会社役員と団体交渉に臨んでいた。

 

しかし庄作の意思に反し、ストはギリギリの処で回避された。

今迄労組の団交を引っ張ってきた委員長の柳田修二が、スト直前で回避の判断を下した。

 

スト回避後、庄作は会社側から報復人事を受けた。

万年平社員だったが、更に会社の倉庫係へと左遷された。

 

庄作のサラリーマン人生は、幕を閉じたと言っても過言でない。

庄作は次第に鬱積した日々を送る羽目となる。

 

鬱積した日々と同時に庄作は同じ労組の委員だったが、今回の人事で出世を遂げた委員長だった柳田に、怒りの矛先が向かう。

柳田は他の組合とは異なり、異例の出世で花形の製品部課長となっていた。

 

庄作は柳田が以前労組の会議中、バーのマッチを使用していたのを思い出した。

柳田はバーのマッチ見られ、慌てて隠したのを庄作は見逃さなかった。

 

庄作は連日、柳田が持っていたマッチのバーに通いつめ、常連客となる。

バーのマダムにそれとなく尋ねた際、一瞬であるがマダムは庄作に質問に反応した。

 

これは何かあると睨んだ庄作は、バーの中でも比較的年増で、あまり客を持っていないホステスを買収。

ホステスから、内緒話を聞き出す事に成功した。

 

ホステスの話では労組の詰めの段階の際、柳田委員長と会社の労務担当重役が密かに店でおちあい、何か話していたとの事だった。

 

庄作は咄嗟に、柳田と会社側が密約を交わしたと判断。

何とか柳田の裏切りを、会社の人間に訴えようとしていた。

 

しかし庄作の人望の無さと力では、どうする事もできなかった。

そんな心境で仕事をしていた庄作だった為、倉庫が不審火で火事が発生。

庄作は責任を取らされる形で、馘首(かくしゅ)を喰らった。

 

馘首になった庄作に、もう怖いものなど存在しない。

毎日にような会社の玄関に押しかけ、柳田と会社側の密約、裏取引の事情を喚きたてた。

 

喚きたてた庄作であったが、毎日守衛に外に叩き出された。

しかし庄作は、負けじと柳田と会社との裏取引を詰った。

 

困り果てのは、柳田。

庄作の喚きで、徐々に周囲の自分を見る目が変わっていくのが分かった。

 

柳田は仕事も手につかなくなり、ノーローゼ状態となった。

そんな柳田の憔悴する状況をみて、課の部長は柳田に休職を薦める。

休職と言うのは名目。実質は、柳田が出世競争から外された事を意味する。

 

柳田は絶望に駆られた。

柳田は自分が出世競争から外された時、初めて解雇された浜島庄作の気持が理解できた。

柳田は初めて庄作と会い、今迄の経緯を話す決意をした。

 

そして3ヵ月後、浜島庄作は或る会社の警備員として働いていた。

庄作は以前の会社とは既に、無関係だった。

しかし庄作は、全く違った事で世間を賑わせていた。

 

それは庄作の土地家屋が道路建設の中心地点にあたり、道路公団の買収問題で交渉が難航しているとの新聞記事が、地方面で掲載された。

 

何故交渉が難航しているのかと言えば、まだ庄作が土地家屋を売却する時期ではなかった為。

まだ売却する時期でないと云う意味は。

 

庄作の土地に埋まっている死体がまだ白骨化していな為だった。

白骨化していない為、死体の人物を特定されるおそれがあった。

その埋められた人物とは。

 

必死に庄作は土地買収の役人との交渉を、先延ばしにした。

だが死体を埋めた辺りに、大勢の鴉(からす)が群がった。

その様子を訝った近所の人が、警察に通報した。

 

要点

会社員の浜島庄作は、会社では梲があがらない、38歳の万年平社員。

庄作が勤める家電メーカーは大手ではないが、中堅の家電で従業員約3千人規模の会社だった。

 

庄作はサラリーマンとしては落伍者だった。風貌も左程、ぱっとしない。

人付き合いも上手い方ではなく、上司に対してお世辞が云えるような柄でもなかった。

その為必然的に出世街道から外され、同僚・後輩が既に昇進しても、庄作は万年平社員だった。

 

そんな庄作が何故、会社に居られるかと言えば労働組合(労組)のお陰。

労組が存在していた為、庄作は定時昇給でぬるま湯に浸かり、会社暮らしを続けていた。

 

しかしそんな庄作を上司・同僚は冷たい目で見ていた。

庄作は何時しか会社を憎み始め、会社に対し仕返しを考えていた。

 

仕事のできない庄作に運が巡ってきた。

部署の労組の代表として、庄作が選出された。

庄作が所属する販売部二課は所謂、事務職と呼ばれる。

 

事務職の労組代表は現場とは違い、あまり労組活動に対しあまり積極的でない。

その為部署の皆があまり仕事のできない庄作に、面倒な仕事を押し付けたと云った方が、的確だった。

※暫し近所の町内会・PTA役員でも、似たような事象が行われる。あれと同じであろうか。

 

庄作は部署の労組代表に選ばれた。しかし庄作にとり、それは一つの光明に思われた。

 会社で居場所がなかった人間が、自分の居場所を見つけたようなものであろうか。 

 

労組では改選度に会社に対し、定時昇給(ベース・アップ)を求めた。恒例と言ってよい。

しかし今回の委員は委員長柳田を中心に、会社に対し大幅なベースアップを求めた。

柳田は総務副課長職にあり、頭脳明晰、仕事もできる。

風采も良く、上司からも評価され、将来を嘱望されていた。

 

今回の労組はカリスマ的な柳田を筆頭として、会社に対し大幅なベースアップの要求を突き付けた。

庄作は度々委員の会議に出席、此れを機会に普段虐げられていた会社に対し、仕返しをする心算だった。

 

庄作は労組の副委員長に就任した。彼の組合での強硬な意見が認められた結果ともいえる。

庄作は労組を代表して、会社経営陣と団体交渉の場に就く。

 

団交の場では、経営陣も労組も対等の立場にある。

庄作は普段上司の課長・係長クラスにいびられていたが、ここぞとばかりに団交では強硬派の急先鋒として臨んだ。

 

庄作は会社との交渉において、会社側からは誠意が見られないと主張。

各部署を回り、アジ演説を行った。自分の部署でも普段の鬱憤を晴らすかのように演説した。

その時彼は、今迄引き籠りがちの庄作と異なり、水を得た魚の様に生き生きしていた。

 

会社側が労組に対し、最終案とも云える3回目の回答をしてきた。

労組はストか、回避かのギリギリの選択を迫られた。

 

委員長の柳田はスト権行使をちらつかせていたが、此処に来てスト実行に躊躇した。

現場側では、殆どがスト実行に賛成だったが、事務側は戸惑いをみせた。

 

要するに最終段階で事務方・現場方に別れ、足並みが揃わなくなった。

庄作は勿論、スト実行派だった。

庄作は会社に入り、初めて自分の居場所・存在感を見いだせたと気持ちが高揚。

又、満足していた。

 

当然組合員は、スト決行に入るべしと強硬に主張していた。

此処に来て、ストを渋る柳田委員長を無理やり引き込もうとしていた。

 

組合の会議が何度も行われた。

ストに入るか、回避して会社側の提示を飲むかに意見が分かれた。

柳田委員長は何も意見を発せず、ただ皆の意見を聞き、話は煮詰まるのを伺っている様に思われた。

 

労組は柳田の判断にかかっていると言っても過言でなかった。

何度か会議が持たれたが、柳田は暫し会議を中座した。

 

労組の会議も最終決定の段階に入っていたが、例の如く柳田を会議を一度中座。

その後席に戻ってきた。

 

席に戻った柳田はふとタバコに火をつけた。

柳田がタバコに火をつけた時、柳田を胸から取り出したマッチで火をつけた。

その様子を何気に庄作は見つめていた。

 

柳田が付けたマッチは、バーのマッチだった。

柳田は無意識にマッチで火をつけたのであろうが、その仕草を庄作に見られたのに感づいたのか、僅かだが動揺を見せた。

 

柳田は続けてタバコを吸おうとしたが、今回はマッチで火をつけようとしなかった。

何か庄作に見られた為、今度は意識的にマッチで火をつけなかったものと思われた。

 

庄作はこの時点で、柳田の行為に意味がある事など思いもしなかった。

ただ労組の会議が煮詰まり、柳田も焦っているものと理解していた。

 

そしていよいよストに入るかの最終段階において委員長の柳田の下した決断は、スト回避。

柳田のスト回避の理由は、ストに突入すれば、事務方と現場方が分裂。

事務方が第二の労組の設立を目論んでいた為と説明した。

 

ストが回避された途端、祭りの後の様な静けさが訪れた。

庄作は、労組活動では英雄だった。

今度こそ、職場では皆から称賛されるものと勝手に想像した。

処が元の職場に帰ると庄作に対し、冷たい仕打ちが待っていた。

 

先ず職場上司・同僚達は、以前にも増して庄作に対し、冷たい視線と蔑んだ態度で臨んだ。

次は会社から、報復とも云える人事(左遷)であった。

 

庄作は部署の課長から、資材課の倉庫係の内示を受けた。

倉庫係とは文字の如く、陽の当らない、じめじめした職場だった。

謂わば会社側からは、「辞めてくれ」と言わんばかりの仕打ちを受けた。

 

後日人事にて庄作と同様、労組で強硬派だった人間達の粛清が行われた。

一方でスト反対、日和見だった人間には、昇進が約束された。

 

庄作は今回の人事に疑問を感じた。

労組の委員長だった柳田は、総務副課長から花形の部署である製品部課長に昇進した。

 

人事を見た者は、誰もが感じた。

柳田が昇進したのは、スト回避を決断した会社からの論功行賞であると。

 

庄作は会社と柳田に対して、怒りを感じた。

会社に対して、今回の労組騒動で明らかな労組対策をした事。

あまり労組活動に熱を入れると、粛清されるという脅しのメッセージ。

 

明かな矛盾は、今回左遷された組合員を尻目に組合委員長であった柳田は、会社の昇進人事を受け入れている事。

つまり柳田は、労組の委員長の立場をまんまと利用し、自分はしっかり恩恵を被ったと云える。

 

「柳田は会議で言質を取られぬよう、何も発言しなかったが、実はスト回避のタイミングを狙っていた」

 

と庄作は捉えた。

 

人事発令後、庄作は部署の人間に別れの挨拶をしたが、皆うわべの言葉を述べただけで、庄作の事など眼中になく、寧ろ厄介払いができたと安堵の表情を浮かべていた。

庄作は「落ちた英雄」となった。

労組であれだけ庄作を持ち上げていた組合員も、庄作の落ちた境遇を知り、誰も声を掛けてこなくなった。

 

人間とは全く、都合のよい生き物である。

必要な時は平気で持ち上げ、必要でなくなれば、平気でこき下ろす。

皆さんにも経験があるのではなかろうか。

 

実は以前、私も作品の主人公と同様、憂き目に逢った経験がある。

その時は労組ではなかったが、同じ会社関係だった。

詳細は述べないが、裏切りにあったと云える。

 

結果、私は会社を退社する羽目になった。

今でも思い出せば、腸が煮えくり返る思いがする。

何時か機会があれば、詳しく述べたい。

 

庄作は会社を恨むと供に、柳田を恨んだ。

自分をこのような立場に追い込んだのは会社と柳田であると憎悪の念を燃やした。

 

庄作が左遷先で仕事をしていた時、同じ窓際の定年間近の係長が、タバコを吸っているのが目に付いた。

庄作は何気に係長に目をやると、係長のマッチに目をいった。

 

係長の所持していたマッチは以前労組の会議中、委員長の柳田が持っていたものと同じだった。

あの時は気にも留めていなかったが、庄作は咄嗟に柳田がマッチを庄作に見られた事に動揺したのを思い出した。

 

此れは何かあると睨んだ庄作は、マッチの店のバーを調べ、夜ごと通い詰めた。

通いつめ漸くバーのマダムと会話する機会を得た。

庄作はさり気なく、自分は火星電器の社員である事をマダムに告げた。

マダムは僅かに反応した様に見えたが、其の後は取り繕い、何事もなかった様にふるまった。

 

庄作は、そのマダムの反応を見逃さなかった。

その後庄作は、バーに勤める少し年増の強欲そうなホステスを金で買収。

ホステスから店とマダムの情報を聞き出した。

 

ホステスの情報では、バーのマダムは、火星電器労務担当重役の愛人だった。

労働争議が行われていた際、火星電器労務担当重役と労組委員長の柳田が暫し、店で密会していた情報を突き止めた。

 

やはり柳田は、裏取引をしていたと庄作は感じた。

庄作は柳田の欺瞞・背信行為を許せなかった。

どうにかして会社の連中にぶちまけてやろうかと思案した。

 

しかし庄作の今の立場では、どうする事もできなかった。

もしそのような事をすれば、会社から馘首されるだけであり、おまけに庄作には全く人望がなかった。

 

庄作は何もできない憤怒を重ね、仕事もおろそかになった。

偶々起きた不審火が原因で、会社の倉庫が半焼。

その責任を取らされる形で、会社からクビを宣告された。

 

クビを宣告された庄作に、もう怖いもなどない。

毎日のように会社玄関に押しかけ、会社と柳田の裏取引の事実を喚き散らした。

庄作は喚き散らす度に、守衛により外に叩き出された。

庄作は泪を流しながら、必死に喚いた。

 

庄作の行為が影響したのかどうか知らないが、日増しに会社にて柳田に対する、皆の視線が変わってきた。

柳田は栄転後、仕事に燃えていた。

しかし庄作の喚きにより、自分に対する皆の評価が変わっていくを犇々と感じた。

 

柳田は労働争議中、庄作を厄介者としてみていた。

ただアジ演説をするのみで、客観的判断に掛けている男と見做していた。

その庄作が左遷され、挙句に馘首されたと聞き、悪い予感は的中した。

 

柳田は確かに何度か、会社の労務担当重役と内密に会っていた。

それも密会の場所が、労務担当重役の愛人のバーであった事も柳田には負い目となった。

庄作本人はまるで信用のない人間だったが、庄作が毎日訪れ喚き続けるうちに、柳田は社員が自分(柳田)を見る目が変わっていくのを感じた。

 

柳田の失敗は、他の組合員と内緒で一人で労務担当重役に接触した事だった。

その場に第三者の人間がいない為、裏取引などなかったと証明するのは不可能。

 

此れは後に判明した事だが、密会した場所が労務担当重役の愛人が経営するバーであった事も彼の立場を不利にした。

此の二つが、柳田の失敗だった。

 

当時、柳田が尤も恐れていたのが、組合の分裂。

事務方の組合員が、第二の組合を立ち上げる事だった。

それだけは、柳田も避けたい事象だった。

柳田は委員の会議で分裂の恐れを議題にのせ、話合えば良かったのかもしれない。

しかし今となっては、言い訳に過ぎない。

 

※過去に何度も述べているが、対立している組織を弱体化させるには、対立する組織の中で内部分裂を起こすよう仕向ければよい。

そうなれば必然的に相手組織は弱体化する。

 

弱体後、分裂した一つの組織に対し個別に交渉を進めれば、後の組織も自ずと黙って付いてくる。

此れは過去の歴史が証明している。

 

どんな強固な組織でも、組織を弱体化させる要因は「内部分裂」。

戦国時代、関ヶ原に至るまでの豊臣政権崩壊の過程を見ても明らか。

 

皆の不信感と疑惑が柳田に降りかかってきた。

柳田は神経衰弱して、ノイローゼとなった。

周囲からは、日増しに窶れていくのが分かった。

 

或る日、柳田は部長に呼び出され、休暇を薦められた。

休暇を薦められると言う事は、会社の出世競争から外される事を意味する。

柳田は会社からサラリーマンとして、落伍者と判断された。

 

その時初めて柳田は、此れは労働争議の際、会社が目論んでいた事ではないかと疑うようになった。

実際どうかわからないが、そうと言えなくもない。

大概会社は組合に対し、良い感情をもっていない。

組合を切り崩す為、委員を出世させ、組合から外す人事を暫し実行する。

 

会社から見切られと悟った時、柳田は初めて庄作の立場を理解できるようになった。

柳田は庄作と会い、話し合いを決意する。

 

3ヵ月後、庄作は或る小さな会社の警備員に雇われ、働いていた。

既に以前の会社とは何の関係もない。

 

だが庄作は今、違った出来事で世間を賑わせていた。

それは道路公団の道路拡張計画で、庄作の土地家屋が道路計画の中心地となっている事だった。

 

道路公団の役員が土地買収の為、庄作の家を訪れて交渉しているが、庄作はどうしても役人に交渉に応じない様子だった。

その様子が、新聞の小さな地方版に掲載されていた。

 

何故庄作が法外な値段を提示されても、公団に土地家屋を売らないのか。

それは3ヵ月前、自分の土地に埋めた死体がまだ白骨化していない為だった。

 

死体が白骨化するのは、一年近くかかる。

その為庄作は公団の交渉に対し、先延ばししていた。

 

庄作は念入りに計算していたが、ある誤算が生じた。

誤算とは死体の埋めた辺りに、死体を狙って大勢の鴉が上空に旋回し始めた事。

あまり鴉の数が多い為、不気味に思い、近所の人間が警察に通報した。

 

この時、最後の段階で漸く、タイトルの鴉(カラス)の文字が現れ、小説の意味が理解できた。

因みに最後を読む限り、火星電器を馘首された浜島一家は、家庭が崩壊した模様。

何故なら、浜島は家に一人で住んでいる為。

 

今回の作品紹介は、事情を把握して頂く為、敢えて時系列で詳細を述べた。

その為、追記する事象は殆どないと思われる。

 

(文中敬称略)