時節読み返し、人生を振り返る作品 芥川龍之介『杜子春』

★芥川龍之介、短編小説シリーズ

 

・題名      『杜子春』

・新潮社      新潮文庫   【蜘蛛の糸・杜子春】短編小説収録

・昭和43年    11月 発行

・大正 9年    7月  発表 (1920年)【赤い鳥】

 

登場人物

◆杜子春

中国唐の時代の洛陽に佇む青年。

貧乏だったが、通りかかった老人の言葉で、二度金持ちにしてもらう。

三度目に人間の薄情さに嫌気がさし、老人が仙人と睨み、弟子入りを乞う。

願いが叶い弟子入りするが、仙人になる為の過酷な試練が待ち受けていた。

 

◆鉄冠子

中国三国時代(魏・呉・蜀)からの仙人で、峨眉山に住む。

二度、杜子春の金持ちにする。

三度目に杜子春から懇願され、仙人になる為の弟子入りを許す。

 

作品概要

中国唐王朝の時代、都洛陽の西の門で、一人でぼんやりと佇む青年がいた。

名は杜子春と云った。

杜子春の家は昔は金持だったが、今は没落し、食うにも事欠くほどの有様だった。

 

杜子春は取り留めのない思案し、果ては死のうかとも考えていた時、隻眼が老人が現れ、不躾に杜子春に話かけた。

杜子春は答えるともなしに、現在の状況を老人に話した。

 

老人は杜子春の身の上を憐み、杜子春に謎のお告げをして立ち去った。

杜子春は老人の言いつけを守った結果、一夜にして大金持ちとなった。

しかし贅沢三昧の末、3年で身の破滅を招いた。

 

貧乏になり再び目的もなく、3年前に佇んでいた洛陽の西の門にいた。

すると再び隻眼の老人が現れ、同じお告げをした。

 

杜子春は再び大金持ちになった。

しかし杜子春は前回と同様、3年程で破産してしまった。

 

そして3回目、再び隻眼の老人が現れ、3回目のお告げをしようとした時、杜子春は老人の言葉を遮り、はっきり断った。

 

杜子春は老人は仙人と睨み、弟子入りを頼んだ。

老人は自分は仙人と認め、杜子春の弟子入りを認めた。

老人は自分の住む峨眉山(中国四川省にある山)に杜子春を連れていき、色々な試練を与え、杜子春を試した。

 

なかなか頑強に試練を耐え抜く杜子春であったが、最後の試練で杜子春はとうとう仙人の言いつけを破り、仙人になる為の修業を放棄してしまった。

修業に失敗した杜子春であったが、何か心は晴れ晴れとし、仙人になる夢など諦め人間として地道に生きる事を選択した。

 

杜子春が人間として生きていく事に目覚めた手向けとして、仙人から家と畑を譲り受けた。

 

要点

『杜子春』は幼少の頃、絵本・漫画・紙芝居・活動劇・TV番組等で、一度や二度触れた経験があるかと思う。

道徳・修身の時間などでも、暫し取り上げられる作品と思われる。

 

私は作品を絵本・昔放送されていた昔話のアニメ等で、何度も見た記憶がある。

子供の頃は勿論の事、大人になっても度々読み返し、自分の人生を見直す為の良い機会としている。

 

それだけ人生の示唆に富んだ作品と言える。

作品としては、僅か16頁程にしか満たないが、人間が生きる上で陥り易い事象が描かれている。

 

貧乏な杜子春が洛陽の西門にて、ぼんやり空を眺め、これからの将来をどうすべきかと途方に暮れていた。

すると何処からともなく見ず知らずの隻眼の老人が現れ、二度も大金持ちにしてくれた。

 

杜子春は大金持ちになった途端、贅沢三昧。この世の春を謳歌する。

更に貧乏暮らしの時は全く見向きもしなかった人間が、我も我もと杜子春の許を訪れ、媚びへつらい、阿諛追従を述べる。

 

此れは何時の時代も同じ。

 

しかし一旦、貧乏になれば、潮が引いた様に誰も寄り付かない。

金の無心を頼んでも、誰も掌を返したように冷たい態度をとる。こんな事が二度も続いた。

 

二度金持ちにして貰い、二度とも破産した杜子春。

いい加減、人間と云う存在が信じられなくなり、自分を二度までも金持ちにしてくれた老人を仙人と見抜き、弟子入りを冀う。

 

仙人(鉄冠子)は杜子春の願いを聞き入れ、杜子春を自分の住家の峨眉山に連れていく。

仙人は杜子春を一人にして、色々な試練を与え、杜子春を試した。

 

仙人は色々な試練を与え杜子春を試すが、杜子春はしぶとく仙人の言いつけを守った。

仙人は最後の試練として、杜子春の魂を地獄に落とす。

そして地獄の畜生道にいた杜子春の父母を連れ出し、二人を鞭で打った。

 

あまりの両親の憐れな姿を見て杜子春は思わず、「お母さん」と叫んだ。

杜子春が声を発した後、場面は一瞬にして、洛陽の老人と出会った西の門に戻ってしまった。

 

・鉄冠子が杜子春に問う。

「どうだ仙人には、なれないだろう」

 

・杜子春は答える。

「なれないが、今は清々しい思いがする」と。

 

・鉄冠子は再び問う。

「もしあのまま、お前が黙っていれば、俺が(鉄冠子)がお前(杜子春)の命を奪うつもりだった」と。

 

鉄冠子は杜子春に仙人として生きる事よりも、人間として普通に生きる事の貴さを教えた。

 

鉄冠子が仙人修業を諦めた杜子春の許を立ち去ろうとした際、ふいに思い出した様に杜子春に告げる。

 

「泰山(中国山東省にある山)の麓にある家と畑をお前にやろう」と。

 

それは鉄冠子が人間として生きていく事を選んだ、杜子春へのはなむけだった。

 

追記

芥川龍之介の『杜子春』は、中国伝記『杜子春伝』を小説化したもの。

暫し芥川は日本の古典、中国古典を小説のモデルにしているのは有名。

龍之介は享年35歳の若さで、自殺を図る。

 

作品は、 徹底した個人のエゴイズムの追求 が特徴。

 

作品は発表後、約100年(約一世紀)近く経っている。

正確には99年目(現時点にて)。

作品冒頭で中国唐王朝の都:洛陽と書かれているが、唐王朝の都は正式には、長安(西安)。

 

(文中敬称略)