四大悲劇「マクベス」原作 黒澤明監督『蜘蛛巣城』
★懐かしい日本映画、三船敏郎主演
・題名 『蜘蛛巣城』
・公開 東宝1957年
・監督 黒澤明
・製作 黒澤明、本木荘二郎
・撮影 中井朝一
・音楽 黛敏郎
・脚本 橋本忍、小国英雄、菊島隆三
・原作 『マクベス』シェイクスピア作
目次
出演者
・鷲津武時 : 三船敏郎 ・鷲津浅茅 : 山田五十鈴
・小田倉則保 : 志村喬 ・三木義照 : 久保明
・都築国丸 : 太刀川洋一 ・三木義明 : 千秋実
・産婆 : 三好栄子 ・物の怪の妖婆 : 浪花千栄子
・その他
藤木悠、谷晃、稲葉義男、佐田豊、小池朝雄、加藤武、木村功、宮口精二、高木均、井上昭文、堺左千夫、土屋嘉男など多数。
あらすじ
時は戦国時代。主君「都築国春」が治める国の北の館の主「藤巻」は、謀反を起こした。
知らせの伝令が、都築に届く。戦況は聊か、都築にとり不利な状況。
都築はイライラしながら、戦況の報を聞いていた。
戦況不利であったが、都築の配下「鷲津武時」と「三木義明」は、見事に反乱を鎮圧。
二人は主君への報告、ねぎらいを兼ね、主君が待つ蜘蛛巣城へ向かった。
しかし城の手前にある「蜘蛛手の森」で、何故か道に迷う。
道に迷う中、森の小屋で糸を紡ぐ不思議な老婆と出会う。
老婆は二人に不思議な予言をする。老婆の予言とは、
二人はあまり突拍子な予言の為、ただの戯言として二人は一笑に付す。
予言を告げた後、老婆は突然消え失せた。
二人は誠に奇妙な出来事だと感じた。苦心の末、二人は漸く城に辿り着く。
城に到着した二人は主君の都築から、ねぎらいと論功行賞を言い渡された。
全く奇妙な事に老婆の予言通りとなり、二人は思わず顔をしかめた。
しかし北の館の主になった鷲津は、今までとは全く環境・待遇が異なる事に満足。
充実した日々を送っていた。
ところが或る日、鷲津が守る北の館に突如として、主君の都築国春が軍勢を率いてやってきた。
都築の目的は、藤巻の謀反を唆した隣国「乾」を討つ事だった。
鷲津は初めは、都築の命に従順であった。
しかし鷲津の妻浅茅は、都築は乾を攻めようと主張しているが、
「実は鷲津を除かんとする企みではないか」
と鷲津に告げる。
鷲津は妻浅茅の言葉に唆され、主君都築を殺そうと企む。
夜、護衛に大酒を振る舞い油断させ、鷲津は都築を槍で殺害する。
鷲津に主君殺しの嫌疑をかけられた臣下の「小田倉則保」・都築の子「都築国丸」は、蜘蛛巣城に逃げ帰る。
蜘蛛巣城に逃げ帰るが、留守所の「三木義明」は、何故か二人を城に入れようとしない。
あろう事か、二人を亡き者にしようと弓で攻撃する。
二人は止む無く、何処かに落ち延びていく。
主君都筑の死後、三木義明の推挙もあり、鷲津は蜘蛛巣城の主となる。
鷲津の手助けした三木は、北の館の主に収まる。
いつぞやの「蜘蛛手の森」で出会った、老婆の予言が見事に的中した。
蜘蛛巣城の主となった鷲津は実子がいなかった為、三木義明の嫡男・義照を養子に迎えようと計画する。
まさに予言通りの展開。
処が鷲津の妻浅茅が、突然懐妊したと鷲津に告げる。
三木の子を養子に迎えようとしたが、鷲津も俄に心代わりする。
逆に宴の席に誘いだし、三木親子を亡き者にしようと企む。
計画は半分成功、半分失敗した。
三木義明の殺害は成功したが、子の義照は取り逃がした。
この時を境に、鷲津の人生の歯車が狂い始める。
妻浅茅が死産。更に死産の影響で、精神錯乱する。
鷲津が取り逃した都築国丸・小田倉則保・三木義照が隣国乾の助けを借り、蜘蛛巣城に攻めて来た。
鷲津も次第に状況が悪化してきた事を悟る。
鷲津の動揺を期に、蜘蛛城内の兵士にも疑心暗鬼を生じる。
城兵は今度は鷲津を亡き者にしようと企み、鷲津を矢で攻め立てる。
鷲津は謀反で蜘蛛巣城の主となったが、最後は城兵の謀反にあい、矢で体じゅうを射抜かれ絶命する。
まさに因果応報と言えよう。
見所
蜘蛛手の森で出会った物の怪の老婆の唄の歌詞とお告げが、これからの映画の進行を暗示している様で興味深い。
また人間の人生を現したものと言える。
鷲津武時・三木義明が老婆に出会う前後、森で迷うシーンは、そのまま二人の心の中を投影したもの。
実はこの時点で、二人の心の何処かで欲望が渦巻いていた。
鷲津の妻浅茅が呟く言葉が興味深い。
まるで「蜘蛛手の森」で出会った老婆の言そのもの。
人間の業の深さが伺える。
鷲津が妻の浅茅に唆され、主君都築を槍で刺す。
刺した後、鷲津が手を血で染める。
罪をなすりつける為、血に染まった槍を浅茅が鷲津からひったくり、槍を眠りこけていた守衛に掴ませた。
その際、浅茅も手を血で染めてしまう。
このシーンは、鷲津が主君殺しの大逆をしでかした事。
その行為は拭っても、拭いきれないほどの大きな罪を犯してしまった事を意味している。
後に浅茅が死産。
浅茅は汚れてもないのに、手を水で洗うシーンの伏線となっている。
鷲津は弑殺した主君「都築国春」の罪を都築の子国丸、臣下小田倉則保に罪を擦り付け、二人を攻め立てる。
二人は蜘蛛城に入ろうとするが、城代の三木義明が何故か開門せず、逆に二人を矢で攻め立てる。
二人は止む無く、何処かに落ち延びていく。
鷲津は、三木の出方が分からない。その為国丸、則保を取り逃がす。
三木の出方を伺う為、弑殺した主君国春の亡骸を先頭に、蜘蛛巣城に入城を試みる。
三木は無言で都筑国春の亡骸を迎え入れ、鷲津の入城を許可する。
三木は評議の席で、城主に鷲津を推挙する。
鷲津は老婆の予言通り、蜘蛛巣城の城主となる。
同じ三木は予言通り、北の館の主となる。
蜘蛛巣城の主となった鷲津は、当に予言通りの結果となる。
鷲津は子がいない為、自分の後継者として三木義明の子、義照を養子として迎えるよう計画する。
城での晴れの宴の席に、主賓である三木親子がなかなか来ない。
鷲津は妻の浅茅から急に身籠ったと聞かされ、心変わりをしていた。
主君国春を抹殺したと同様、鷲津は三木親子の殺害を計画する。
人間欲と猜疑心が深くなれば、こうも浅ましくなるという典型。
三木義明を殺害後、鷲津は運が尽きたかのような凋落振りを見せた。
鷲津は猜疑心が強くなり、家来を信用しなくなった。
自分が行った行為を、自分で疑い始めた証拠とも云える。
疑心暗鬼は、城兵にも伝染。
難攻不落と云われた蜘蛛巣城に、不穏な空気が流れ始める。
いくら難攻不落と雖も、守るのは所詮人間。
人間の心が動揺すれば、難攻不落の城もひとたまりもない。
宿痾とでも言おうか。浅茅は死産。
死産の影響で、精神錯乱を起こす。
やがて鷲津が殺害し損ねた「都築国丸・小田倉則保・三木義照」の3人が、元来の宿敵「乾」の軍勢に加わり、蜘蛛巣城を攻めてきた。
蜘蛛巣城の前線基地であった砦、北の館の主は(嘗て鷲津と三木の塒)、離反。
乾の軍勢と一緒に、蜘蛛巣城に迫る。
鷲津は城内で評議を開くが、誰も発言する者はいない。
既に鷲津を見切ったものと見える。
鷲津は嘗て予言を聞いた蜘蛛手の森に行き、再び老婆の予言を聞いた。
老婆の予言では
「蜘蛛手の森が動かぬ限り、鷲津の負けはない」
との事。
鷲津は城兵の士気を高める為、老婆の予言を話して鼓舞に努めた。
しかしその予言は反って仇となってしまう。
敵は計略で蜘蛛手の森が動いた様にみせかけ、鷲津軍の動揺を誘う。
落城間近、浅茅は汚れてもない手を「血で汚れている」と叫び、必死で洗い流そうとする。
一度畜生道に落ちてしまった人間は、二度とその罪から逃れる事ができないという意味を示している。
「もはやこれまで」と城兵は鷲津を見限り、鷲津の命令に背く。
城兵は鷲津を除こうと企み、一斉に鷲津に矢を撃ち掛ける。
矢を撃ち掛けられた鷲津は多くの矢を体一杯に浴び、やがて絶命する。
追記
劇中にて出演する役者が、他の黒澤明監督映画や当時の有名監督作品に出演している。
ある意味、定番と言うのか鉄板との言える方々ばかり。
尚、隅々の配役にも、名優と呼ばれる人物が多数出演している。
モノクロの映像が反って当時の時代風景を想像させ、とても良い雰囲気を醸しだしている。
劇中最後にて蜘蛛巣城に多くの野鳥が押し寄せたのは、おそらく敵兵が蜘蛛手の森を伐採した為。
森が動くかのように見せかける為、大規模な荷駄隊を作ったのが原因とみられる。
寝床を奪われた野鳥が、蜘蛛巣城に押し寄せたものと思われる。
同じシェイクスピア「リア王」を題材とした作品に、1985年作の「乱」がある。
乱では「毛利元就」の「三本の矢」の逸話等も取り入れ、見所満載の作品に仕上がっている。
(文中敬称略)