掴み処のない若者の様相を描いた作品 松田優作主演『野獣死すべし』

今回は、久しぶりに懐かしい邦画を見ました。新型ウイルスで不要不急の外出は自粛中でしたので、20年以上は見ていなかった映画になります。

松田優作主演、『野獣死すべし』です。

 

・題名      『野獣死すべし』

・監督         村川透

・脚本      丸山昇一

・製作      角川春樹

・公開      1980年 日本       

・音楽      たかしまあきひこ

・配給      東映

・原作      大藪春彦

 

登場人物

◆伊達邦彦:松田優作

元通信社の記者、現在は翻訳の仕事をしながら趣味に没頭する日々を送る。

 

◆真田徹夫:鹿賀丈史

レストランのボーイ。伊達が同窓会に参加していた時、偶々居合わせた。

 

◆華田令子:小林麻美

伊達がコンサート会場、レコード店で知り合った女性。外資系企業に勤めるOL。密かに伊達を慕う。

 

◆原雪枝 :根岸季衣

真田の恋人。横田基地近く、米兵相手のクラブを営む。

 

◆柏木刑事:室田日出男

カジノ強盗の捜査中、町で偶然伊達に遭遇。マークし始める。

 

◆乃木  :風間杜夫

伊達の同窓生。編集長を務める。

 

◆東条  :阿藤快(海)

伊達の同窓生。同窓会でボーイの真田に殴られた人物。一流商社勤務。

 

◆自堕落な男:泉谷しげる

住所不定の放浪者。伊達が最初にパートナーとして目を付けた人物。

 

◆拳銃ブローカー:佐藤慶

拳銃密売人。拳銃入手後、試し撃ちで伊達に始末される。

 

◆客引き :岡本麗

ストリートガール。伊達に声を掛け、一夜を共にする。

 

◆青木義朗:岡田良雄

警視庁の刑事。冒頭で伊達に襲撃され、殺害される。

 

◆警ら係 :角川春樹

岡田刑事が署に戻った際、すれ違いに巡回に出かける警官。

 

◆カジノ関係者:安岡力也、トビー門口、山西道広

闇カジノ関係者。伊達の襲撃で殺害される。

 

あらすじ

以前、通信社のカメラマンをしていた伊達邦彦は、今趣味と翻訳の仕事をするのみで、世間から隔絶した生活を送っていた。

伊達がカメラマンを辞めた理由は、世界各地の戦場を回り、数々のスクープとも云える衝撃的な写真を撮り、配信元に送っていたが、写真があまりにもグロテスクな為、新聞・雑誌・TVなどの掲載を見送られ、その中嫌気がさし、張り合いがなくなり辞めてしまった。

辞めた後、伊達は以前から物事に対しのめり込むきらいがあったが、カメラマンの仕事を通じ、益々世間一般からかけ離れた精神の持ち主になってしまった。

トラウマ、或いはサイコパスとでも言えばよいのであろうか。伊達は次第に世間一般の常識からかけ離れた思考・行動をするようになる。

 

まず手始めは、刑事を襲い殺害し、拳銃を強奪。その拳銃を使い今度は闇カジノに押し入り、店員を殺害。カジノの上りを強奪した。

次の伊達の狙いは、更にでかい獲物。銀行強盗だった。入念に下調べをする伊達であったが、調べた結果、到底単独犯では不可能と判断。共犯を探し始める。

 

共犯者は意外な処で見つかった。今迄一度も参加していなかった大学時代の同窓会に参加。たまたま居合わせたボーイに目をつけた。

伊達は短気で荒っぽいボーイ(真田)に引かれた。仲間に引き入れる為、真田の塒を訪れ、真田を説得する。真田も今の生活に嫌気がさし、何か変化を望んでいた。

伊達と真田の意見が合致。二人は互いに協力して、銀行強盗を計画する。

 

銀行襲うまで、真田は伊達から射撃の手ほどきを受けた。だいぶ腕が上達した頃、伊達は最後の仕上げに真田の恋人を射殺する事を提案する。

真田は何度も躊躇するが、やがて伊達の言葉通り実行した。

 

愈々、決行の時が来た。二人は終了間際に銀行を襲い、銃を乱射。見事、大金をせしめる。

不幸な事に銀行には偶々以前から伊達を慕っていた、華田令子がいた。

令子は犯行現場に出くわし、犯行後立ち去ろうとする二人組の一人が伊達である事に気づいた。

令子は咄嗟に伊達の名を叫ぶ。伊達は立ち止まりマスクを外し、自分の顔を令子に晒した。

顔を晒した伊達は其の後、持っていた銃で令子を射殺する。

 

強盗後、二人は非常線をかいくぐる為、裏をかき電車で移動。都内からの脱出を試みた。

二人の計画は成功するかに見えた。

処が以前から伊達の事をマーク、嗅ぎまわっていた柏木刑事と偶然、電車内で遭遇。柏木は伊達の追跡を始める。

 

伊達を執拗に追いかける柏木。柏木は夜行列車まで伊達を付けてきた。

やがて周りの乗客が消え二人にきりになった時、柏木は伊達に拳銃を突き付け、柏木の伊達に対する尋問が始まった。

 

見所

まず一番初めに登場する刑事が署に戻った時、刑事と入れ替わりでパトロールでに出かける警官が映る。

実はこの人物は製作スタッフの角川春樹氏。

一瞬しか映らない為、わかりにくいが、間違いなく本人。

 

刑事は後に伊達に襲撃され、拳銃を奪われ殺害される。伊達に殺された刑事はおそらく、俗にいう「悪徳刑事」だったのではなかろうか。

劇中でも町のチンピラが刑事に対し頭を下げているシーンをみれば、非合法組織に便宜、利益供与、賄賂などを取っていたと思われる。

故に、伊達に目を付けられたとも考えられる。悪徳警官から奪った拳銃で事件を起こしても、警察は警官を恨んでいた者の犯行と判断。

警察スキャンダルにもなりかねない為、うやむやに処理するとの判断の下、伊達は犯行を冒したのかもしれない。

しかしこの刑事も何か不思議。態と伊達に殺害され、銃を奪われるような描かれ方をされている。

何故なら、伊達が刑事を襲撃した際、伊達は刑事に歯が立たず、弄ばれているような感じだった。

処が、最後は伊達が逆転。刑事から拳銃を手に入れる事に成功する。刑事は初めから銃を使い、伊達を射殺すれば良かったと思うが。

 

その証拠に伊達が刑事を襲撃する直前、闇カジノの会場が映る。

想像するに殺害された刑事は、闇カジノを見逃す代わりに賄賂を受け取りにいく手筈だったのではなかろうか。

伊達が刑事を襲う前、闇カジノが映る。その時、関係者同士が何か耳打ちするシーンが存在する。

推測するに、此れから刑事が上納金を受け取りにくるのか、それとも刑事から連絡があり、何か注意するべしとの連絡が入ったのではないかと思われる。

考えの飛躍かもしれないが。

 

伊達が刑事から奪った拳銃で闇カジノを襲い、カジノのスタッフを殺害する。

殺害されるスタッフの中には拳銃に詳しく、今回の銃撃シーンのアドバイザーでもある「トビー門口」がいる。

トビー門口は銃を扱うシーンの他の作品にも、暫しアドバイザーとして参加するほど銃器に詳しかった。

闇カジノのボーイの役をしていた山西道広は、TV「探偵物語」で、「工藤ちゃん」と叫ぶのが特徴の服部刑事(成田三樹男)と供に、刑事役をしていた人物。役柄の名は、松本刑事だった。

 

尚、伊達が闇カジノで奪った銃(シングルアクション・アーミー)は、トビー氏個人が所有する銃(モデルガン)。

映画で主人公の伊達が銃のグリップの中に何か入っているのに気づき銃のグリップを開けた際、はいっていたものは、人間の歯と思われる。

想像するにグリップは本物で、実際のアメリカ西部時代に使われたいたものではないかと思われる。

その時代、よく西部劇でよく見られるガンマン同士の対決があり、勝利した人間が勝利の証(戦利品)として持ち去ったものではなかろうか。

魚釣りで例えれば、魚拓のような感覚であろうか。

 

伊達が銀行で宝石店の男(長友)を強盗犯に仕立て上げる時、女性銀行員が呟いた「課長、伝票のチェックをお願いします」と云う言葉は、おそらく当銀行内での隠語(暗号)と思われる。

つまり、「銀行強盗ですよ」と他の行員に伝える合図。業界内ではしばし、一般の人間に知られず仲間内で通じる暗号のようなものが存在する。

隠語、専門用語ともで言えば良いであろうか。以前ブログで紹介した「マスコミ・警察」用語がそれに当て嵌まる。

 

他にも「お茶下さい」、「大竹さん、お願いします」等が存在する。お茶下さいはそのままだが、大竹さんは謎と云われていた。

私が推測するに、後述するが1976年1月26日、大阪で発生した「三菱銀行住吉支店」襲撃事件の犯人は梅川照美(うめかわあきよし)。

梅川の出生地は、広島県大竹市。おそらく此処から、大竹さんという名が取られたと思われる。

尚、犯人梅川の愛読書は、大藪春彦作品だった。

 

 

他の業界でも、しばし存在する。飲食店でお冷と言えば、水の事。航空会社で機材と言えば、飛行機の種類の事等。

おそらく皆様が努める業界にも、ある種の特定の呼び名があるのではないかと思われる。

 

伊達が次の犯行を計画。入念な下調べをした結果、単独犯では不可能と判断。事件のパートナーを探し始める。

伊達が銀行強盗のパートナーとして最初に目をつけたのは、住所不定、博打三昧の自堕落な生活をしている男だった。

尚、男が競馬に興じ馬券を購入しようとしている処は、昔の新宿南口の馬券売り場(現在のウインズ)と思われる。

 

此処で伊達は、後にしつこくつきまとう刑事の柏木に出くわす。

柏木は闇カジノ襲撃で犯行後、現場付近で目撃された「まるで死人の様にひっそりと歩く男」というのが頭にこびりついていた。

偶々伊達がパートナーを物色していた時、柏木の捜査のフィルターに引っ掛ったという事。

 

伊達がパートナーを物色後、クラシックレコード(これも時代を感じさせるが)を買う為、レコード店にいく。

伊達はこの時既に、柏木の存在に気づいていた。

 

伊達はレコード店にて以前クラシックコンサートで偶然隣の席にいた、華田令子に出会う。

令子はコンサート以来、どうやら伊達に関心を寄せていた様子。

伊達がレコードを探していた時、さり気なく現れ、伊達に声を掛ける。この時既に令子の方が、伊達に好意を寄せていたのが分かる。

何故ならレコードの視聴室が空いた時(昔はレコードを購入する際、視聴室なるものが存在した)、令子は一瞬残念そうな顔をする。それは紛れもなく、伊達との別れを惜しんでいた表情だったと思われる。

伊達がそっけなく別れようとするも令子は伊達に食い下がり、次回のコンサートに行くのか尋ねているのが印象的だった。

 

伊達がパートナーを探す中、伊達は偶然参加した大学時代ゼミの同窓会でレストランでボーイをしていた、真田に出会う。

真田は直情径行な人間で、伊達とはまるで反対の性格だった。しかし伊達はギラギラした真田に何か惹かれた。

其の後、真田の恋人が経営するバーに出かけ真田を説得する。

真田は初めは伊達に憤慨するが伊達の奇妙な説得に興味を示し、やがて伊達のパートナーになる事を了承する。

 

ある雨の夜、偶然伊達は駅で華田令子と出くわした。その時令子は、レコード店で伊達にまかれた柏木の尾行を受けていた。

柏木はレコードで伊達にまかれたが、令子を付け回せば何時か伊達が現れると睨んだ模様。確かに柏木の勘は正しかった。

柏木の読み通り、令子を伝手にして再び伊達と巡り会う。

伊達と令子はタクシーに乗り、柏木の尾行を巻こうとする。伊達がタクシーで自宅まで戻った時、令子は伊達にモーションを掛ける。

一瞬令子の行動に驚き応じるかに見えた伊達は、そのまま令子の好意をすげなく拒否する。

伊達がタクシーの運転手に「行って下さい」と告げる。

無情にもタクシーのドアが閉まった瞬間の令子の表情が、何とも物哀しい。

拒否された悔しさよりも、寧ろこの人は(伊達の事)私とは違う世界の人と感じた瞬間なのかもしれない。

 

あまり積極的でない女性が勇気を振り絞り大胆にも告白したが、何か肩透かしを食らったような状況であろうか。

もしこの時令子の申し出を受けていれば、伊達は其の後の凶悪犯罪を犯さなかったのかもしれない。そう思える一幕だった。

伊達も其の後、少し動揺したのか、僅かではあるが迷いが生じた。此処が伊達の人間としての最後の分岐点だったのかもしれない。

伊達とすれば、もし令子の申し出を受け入れたならば、今迄の自分の人生・計画を全て捨てなければならない。

人生が生まれ変わる転機ともいうべきに、恐怖を感じたのかもしれない。

 

逆に言えば、この時を境に後には引き返せない、野獣として生きるべき道を選択したと思われる。

自宅に戻り部屋の片隅で自分の好きな音楽を聴き、大きなスピーカーに擦り寄る姿は、一瞬であるが伊達に残された最後の人間的弱さだったのかもしれない。

 

伊達がパートナーを探した末、伊達は偶然参加した大学時代ゼミの同窓会でレストランでボーイをしていた、真田に出会う。

真田は直情径行な人間で、伊達とはまるで反対の性格だった。しかし伊達はギラギラした真田に何か惹かれた。

其の後、真田の恋人が経営するバーに出かけ真田を説得する。

真田は初めは伊達に憤慨するが伊達の奇妙な説得に興味を示し、やがて伊達のパートナーになる事を了承する。

了承した真田は、伊達から銃器の扱いと射撃の手ほどきを受けた。

ある程度腕が上達した後、伊達が真田に課したのは、動く標的「真田の恋人原雪枝を自らの手で」始末する事だった。

 

真田は何度も恋人雪枝を殺害するのを躊躇う。何度も逡巡した挙句、とうとう恋人を殺害する。

殺害した真田は恐怖のあまり、魘されおののくが、伊達に「一発の銃弾で時の流れを変えた、既に社会復帰など過去の産物に過ぎない。君は神さえも超越した」と説得され、やがて伊達と行動を共にする。

 

いよいよ映画の最大の見せ場、残虐かつ非道な銀行強盗シーン。

運命を共にした二人は、白昼堂々と伊達が入念に下見した銀行に押し入り、銃を乱射。行員たちを恐怖のどん底に落としながら、大金をせしめる。

綿密に計算されたように思えたが、一点だけ誤算が生じた。

伊達に好意を寄せている華田令子が、偶々所用で銀行を訪れていた。

二人が銃を乱射。大金を奪い立ち去ろうとした際、令子が強盗の一人が伊達である事に気づく。

 

令子が思わず「伊達さん」と呟いた。

 

伊達は格段驚きもせず振り返り、無表情で令子を見つめマスクを外す(正体をばらす)。

自分を顔を華田令子に晒した後、無表情で銃の引き金を引き、華田令子を射殺する。

この場面では伊達の今迄の非情さが凝縮されていて、此の映画の見所の一つと思われる。

自分に好意を抱いている女性に対して引き金を引き、非情にも令子を射殺する映像が何ともいえない虚無感を醸し出していた。

令子が伊達に撃たれスローモーションで崩れ落ちるシーンが又何とも言えない。令子の表情が伊達に対し、何故こんな惨い事(銀行強盗、殺人)をするの、信じられないと云った言葉を語っているように見える。

 

一方、伊達は無表情だが令子に対し、「僕はあなたが思っているような人間ではありませんよ。私は残酷で非情な人間なんですよ」と語っているように見えた。

逆に言えば、こんな自分を慕ってくれた人間だからこそ、自分の手で始末したかったのかもしれない。

その証拠に伊達が令子を射殺する時、引き金を引きながら一瞬手が震えている。意識的か無意識かは分からないが。

 

今回の銀行強盗シーンは、おそらく1976年1月26日に発生した「三菱銀行住吉支店、人質事件をモチーフにしたのではないかと思われる。

 

二人は警察の非常線をかいくぐる為、都内を電車で移動。電車で都内を抜けた後、レンタカーをかり伊豆の貸し別荘に戻る算段だった。

しかし此処で二つ目の蹉跌が生じた。伊達の事が気になりマークしていた柏木刑事に、電車内で出くわす。

柏木は途中で巡回中の警官から、銀行が襲われた事件の概要を聞き、何か伊達が絡んでいるのではないかと気づき、伊達を尾行し始める。

 

伊達と柏木刑事が夜行列車でロシアンルーレットをする際、伊達が柏木刑事にする話は、外国版「浦島太郎」として有名。

『リップ・バン・ウィンクル』と云われている。劇中では森の小人に酒を振舞われたと述べているが、実際は異なっている。

森で知り合った老人についていった処で、何かボーリングをしているような人たちにであい、その場においてあった酒をリップ・バン・ウインクルが飲んだ処、眠りこけ目がさめた時、約20年の月日が流れていたという話。

リップが山で出会った男達に振舞われた酒は、今のカクテルのような酒で「XYZ」ではないかと云われている。

「XYZ」はアルファベットでは、最後の三文字。劇中のセリフにもあるが、最後で後はない。つまり「もうこれで終わり」という意味を示している。

伊達が柏木の拳銃を奪い、ロシアンルーレットに興じるが、偶然にも最後まで弾は発射されなかった。

それで伊達は柏木に向かい、「あんたは運がいい」と思わず呟いたという事。

一瞬伊達が隙を見せた時、柏木は伊達から逃げようとするが、背後から伊達に銃で撃たれ負傷する。

 

銃声を聞きつけた車掌が様子を見にきた時、車内の様子がおかしいと気づき逃げ出した車掌を伊達は射殺。

他の乗客にもみられ、二人は列車の窓から逃走する。

この時既に二人は、気がふれていたと思われる。其の後、廃墟にいた暴走族風のカップルを殺害。二人は当に「野獣」と化す。

伊達は真田が女を凌辱している最中、以前戦場カメラマンの際に受けたトラウマを思い出し、真田をライフルで射殺する。

 

真田を射殺後の映画のおわり方が、今でも謎。

劇中最後にて伊達がクラッシックコンサート後、射殺されるシーンで終わっている。

列車を脱出した後、どうしてそのような状況になったのかは不明。

経緯も生死も不明なまま、映画は終了している。

 

追記

キャチコピーは、「青春は屍をこえて」。当時、幼い私にしてみれば、映画の内容もキャッチコピーも理解不能だった。

あの不思議な終わり方も、何か腑に落ちないと言えば良いのであろうか。それ程、難しいと思われた映画だった。

年を取り、再度映画を見た際、漸く内容が理解できた。それと同時に小説の主人公のイメージと、実際の映像の主人公のイメージがかけ離れているようにも見えた。

 

調べてみれば、脚本を書いた丸山昇一氏が、作品が完成後の試写会にて自分の主人公のイメージと、映像の主人公のイメージが、あまりにもかけ離れているのに違和感を感じたようだ。

主人公の伊達を演じた「松田優作」が、主役に抜擢された際、役作りの為、暫く周囲からの連絡を絶ち、自分なりの主人公のイメージを作り上げたと伝えられている。

映画撮影が開始される直前、松田優作が戻ってきた時、以前とはかなりかけ離れた風貌で戻ってきた。

 

例えばニヒルで急遽な主人公を演じる為、奥歯を抜く、減量を重ねた等。

あまりのも監督のイメージとかけ離れた為、撮影前、かなり監督と揉めた。

当時松田優作は、何度も監督を揉めた過去があり、なかなか使いずらい役者と云われていた。

松田優作は、あまりにも自分の役に対する思い入れが強すぎ、スタッフの思いとかけ離れる傾向があったと云われている。

松田優作自身、よく役作りの為、数々の映画を視聴した。その為、他の役者の影響を受けたのではないかと思われる。

 

この時期で有名な外国映画『タクシー・ドライバー』は、ベトナム帰りの青年が、ベトナムシンドロームに悩まされる話を描いた作品。

松田優作はおそらく、この映画の主役を演じた『ロバート・デ・ニーロ』の影響があったのではないかと想像する。

何故なら、デ・ニーロはベトナム帰りの疲れた青年を演じる為、過大な減量を実行した。デ・ニーロも役を演じる際、役に成り切る為、撮影前から役作りに勤しむ役者。

きっと松田優作もデ・ニーロ同じ想いだったのではないだろうか。

 

因みに伊達を演じた松田優作は劇中で、一度も瞬きをしていないと思われる。おそらく、そこまで徹底していた。

唯一の例外は、華田令子と出会ったコンサート会場ぐらいであろうか。コンサート会場では、伊達が曲を聞くのに没頭するあまり、二三度瞬きしているシーンが見られる。その他は、殆ど見られない。

 

今回の映画でニヒルな主人公を演じた松田優作の評価は勿論の事、それ以上に伊達のパート―ナーを演じた、鹿賀丈史が主役以上の評価を受けた。

まさに主役を喰った脇役と云える。映画では暫し、主役を差し置き、準主役・脇役が主役を喰ってしまう場合がある。

アラン・ドロンが主演した映画『さらば友よ』は、主役のドロンよりも、準主役のチャールズ・ブロンソンの方が評価が高かった。ブロンソンにしてみれば、本意ではなかっただろうが。

今回の映画で鹿賀丈史は高い評価を受け、今日の地位を築いたと云える。何か人生の皮肉とも云える。

その頃松田優作は既にスターだった為、決して嫉妬する事はなかったであろうが。

しかし現在の鹿賀丈史のイメージを考えれば、今となっては鹿賀本人としては暗黒史かもしれない。

 

伊達が自宅で手製の音響装置で音楽を聴くシーンがある。昔は音楽は自宅のスピーカで聴く時代だった。

今は音楽はPCか、スマホで聴く時代。時代を感じさせるシーンと感じた。

現在オーディオ・スピーカー会社は、青色吐息の状態。理由は前述した通り。

伊達の自慢のスピーカーも、メーカーは「音響」。今は「オンキョー」と呼ぶらしいが、その音響も嘗ての輝きはない。

いつ倒産するかもわからない状態と思われる。東証ジャスダックの株価から想像するに。今となっては、古き良き時代だったのかもしれない。

 

町で伊達に声を掛け客引きをしていたのが、数々のTV番組で活躍してる岡本麗。当時はまだ売れない頃で、この様な役が多かったのかもしれない。

映画ではないが、松田優作が主演していたTV番組『探偵物語』の中でも、ある回でストリートガールとして登場していた。今回も似たような設定。

この時松田優作が呟いている詩は、萩原朔太郎の詩『漂泊者の歌』。

参考までに

 

 ああ 悪魔よりも孤独にして
         

 

         汝は氷霜の冬に耐えたるかな!
         かつては何物をも信ずることなく
         汝の信ずるところに憤怒を知れり。
         かつて欲情の否定を知らず
         汝の欲情する者を弾劾せり。
         いかなればまた愁ひ疲れて
         優しく抱かれ接吻(きす)する者の家に帰へらん。
         かつて何物をも汝は愛せず
         何物もまたかつて汝を愛せざるべし。
              

               ああ汝 寂寥の人
               悲しき落日の坂を登りて
               意志なき断崖を漂泊(さまよ)ひ行けど
               いずこに家郷はあらざるべし。
               汝の家郷は有らざるべし!
                            

漂泊者の歌—詩集「氷島」より引用

 

 

(文中敬称略)