年金改革と社会保険との関係、雇用する側は

最近、政府の年金改革が盛んに取り沙汰されているが、人間を雇用する側、つまり企業側としてはどうなのか、あまり企業側の声が伝わってこない。

伝わってこないと言うよりも、意識的にマスコミ側が伝えていない様な気がする。

今回は雇用する側、とくに中小企業にスポットを当て、述べてみたい。

 

年金改革、企業側の観点

過去何度も年金のついて述べてきたが、この頃政府が年金改革を唱えている柱の一つに、パート・アルバイトの厚生年金加入が存在する。

この話題も過去に何度も述べている為、詳細は省くが、厚生年金に加入となれば前提として、当然雇用者の社会保険加入が必須。

 

処が意外に社会保険の対象者にも係らず、雇用主が敢えて社会保険に加入させていないケースが暫し見られる。

これは法律的に、かなりグレーゾーンと言われている。

何故、対象者にも係らず、雇用主が保険を掛けないのか簡単に述べてみたい。

 

社会保険対象者の未加入問題

敢えてタイトルに未加入という文字を入れた。

何故入れたのかと言えば、雇用主は対象者を把握しているが、故意に加入させていないケースが見られる為。

 

一度、社会保険対象者の規定をおさらいしてみたい。

社会保険の対象者は、政府広報オンラインによれば、

 

① 1週間あたりの決まった労働時間が、20時間以上である事。

② 1ヵ月あたりの決まった賃金が88,000円以上ある事。

③ 雇用の見込みが1年以上ある事。

④ 学生でない事。但し、夜間・通信・定時制は学生扱い。

⑤ 従業員が501人以上の事業所で働いている事。

  500人以下であっても、労使の合意で社会保険加入のなされている事。

 

以上が、2017年 4月から適用されている。

此れも以前と重複する部分が多々あるが、説明を分かり易くする為、敢えて掲載した。

今回、去年何かと話題となったコンビニ業界を例に挙げ、説明したい。

 

コンビニ業界の闇

去年、24時間営業、従業員残業未払等、何かと話題となったコンビニ業界を例にとり、説明したい。

身近にあり、一人か二人、知人がバイトをした経験をもつ人も多いかと思われる。

今回はコンビニ業界にスポットを当て、社会保険加入問題と雇用主との関係を述べたい。

 

コンビニの大手3社の店舗数を現在の時点で挙げれば、セブン約2万1000店、ファミリーマート約1万6500店、ローソン約1万4600店となっている。

国内で約5万2100店が、犇めきあっている計算。

当然、1店舗当たりの売上は分散され、縮小気味。全国的にこの傾向は変わらない。

 

各店舗が売上げが伸び悩む中、政府は年々、社会保険・厚生年金の適用を拡大してきた。

加入者を増やす為、年々適用条件を改正している。

 

此れは雇用者にとり、年々加入条件が厳しくなって来た事を物語っている。

つまり「パート・アルバイトでも社会保険・厚生年金に加入させよ」

 

と政府は主張してきた。

此れは雇用者側としては、たまったものではない。

 

特に中小企業の経営者であれば、「死活問題」

前述したコンビニで何年も長時間で働いているパート・アルバイトの人間は、全て対象者となる。

これはコンビニ経営者としては、たまったものではない。

 

結論から述べれば、おそらくどれだけ黒字を出しても、経営が成り立たない。

赤字であれば、猶更。

 

コンビニが誕生した時代、パート・アルバイトの社会保険の加入等、想定していなかったビジネス。

コンビニに限らず、飲食店関係は略、社会保険加入など想定していない。

 

極端な事を云えば、デフレで賃金が安いからこそ、成り立つ商売。

景気が良くなり人件費が上がれば、成り立たなくなるのは当然の事。

 

特に昨今の少子化で若者が将来を踏まえ、敢えて低賃金の職場を選択するとは思えない。

それが人手不足の要因の一つ。

 

都会のコンビニ・ファーストフード・牛丼屋などの店員をみれば、納得がいく。

今では、外国人労働者が当たり前。

何故外国人労働者が多いのかと言えば、日本人労働者が集まらないのが主な理由。

 

何故、集まらないのか。

それは、 待遇・職場環境が良くない為 

 

諸外国も同様、結局人手不足の職場を誰が補うか。

それは「外国人労働者」。日本も、当然の流れ。

 

話が逸れたので戻すが、コンビニは現代社会の縮図。

今迄、パート・アルバイトで成り立ってきた商売。

社会保険に加入しているのは、おそらく経営関係者のみ。

 

だが、ここ数年雇われ人間も社会保険に加入するケースが増えてきた。

理由は上記に述べた如く、政府の締め付けが厳しくなって来た為。

 

更に雇用者が人材確保の為、店員に社会保険加入を奨めた経緯もあろう。

しかし経営者が社会保険の加入を勧める対象は、経営者の匙加減一つ

誰を保険加入者にするかは、経営者の判断次第。

 

加入対象者が複数いても、敢えてこの様な言葉と使うが、 「経営者の好き嫌い」 で対象者が決められる。

当然加入者となった人間と、そうでない人間との間に不公平感が生じる。

加入者出来なかった人間に、不平不満が鬱積する。此れが店員間の其々に、溝が生じる要因。

 

更にややこしいのは、法人であれば対象となる従業員が1人でもいれば支払い義務が生じるが、個人事業主の場合は5人以上と適用基準が緩い。

 

コンビニの場合、フリーター・副業として働く店員は個人事業主と見做される事もあり、雇用関係に関し店員間でも違いが生じる。

しかし経営者側にも、言い分があろう。もし対象者全員を保険加入者とすれば、店自体の経営が成り立たないと主張するかもしれない。

確かにその通りだと思う。経営者の言い分も否定できない。

 

一方、本部の対応は

この問題、以前から指摘されていた。各コンビニ本部も、十分承知している。

しかし本部は敢えて、見て見ぬ振りをしていた。

 

それは何故か。

答えは、コンビニ本部は

「社会保険加入問題は、各店舗のオーナー独自の判断」

というスタンスをとっている為。

 

結局、店員の誰を保険に加入させるかは、各経営者の判断次第という事を宣言しているに等しい。

各店舗の現場に問題を丸投げしていると言える。

 

この丸投げは何も本部に限った事ではない。政府も同じ。

保険・厚生年金の加入幅拡大を何も吟味せず、ただ企業に丸投げしたのみ。

 

大手企業であれば、体力があるかもしれないが、中小企業はもう限界にきているのではないかと思う。

そう考えれば、下手に人を雇えない現実。多くの中小企業が潰れる可能性がある。

コンビニも、中小企業と同じ。

 

各コンビニ本部は、全従業員の勤務状態を全て把握している。

何故なら、従業員の勤務実態は全て各店舗のコンピューターで管理され、本部直通となっている為。

 

本部も誰が対象者であるかは、充分把握している。

把握しているが、直接指導はしない。指導どころか、保険加入を避ける為のアドバイスをする本部SVも存在する。

 

敢えて追加すれば、対象者であるが保険加入を望んでいない従業員も存在する。

それはダブルワークをしている人・主婦のパートで夫の扶養から外れたくない人。

 

夫の扶養を外れたくない人であれば何をするのか。

それは適用条件に当て嵌らない様に、労働時間を調整するしかない。

 

政府は年々、加入者を拡大する為、法を改正しているが、これは調整する側に取り、あまりメリットはない。

ややもすれば、逆に有難迷惑。ダブルワークの人も同じ。

対象を避ける為に調整するか、法の網を潜り抜け、潜りで働くかのどちらかである。

 

何を隠そう法がまだ今より緩い10年以上前、私は失業してコンビニで働いた過去がある。

勤務実態は深夜の8時間労働で、週5日勤務だった。

 

当時働いていたコンビニは深夜、勤務途中から1人体制。つまりワンオペとなる。

労働基準法では8時間以上の労働で休憩は、45分以上の規定があった。

 

しかし一人体制の為、45分フルに休憩など取れない。勿論、休憩時間は無給。

おまけに仮令休憩がとれなくても、最低30分は取ったものと見做され、給料から引かれていた。

 

偶に欠員等で、週6日で働く事もあった。多い時で月17万円以上超えた時もあった。

しかし給料明細をみた際、社会保険はおろか、雇用保険すら掛けられていない有様。

社会保険は良いとしても、雇用保険だけはと思っていたが、此方からなかなか言い出し難く、結局1年以上勤めた後、離職。

 

雇用保険を掛けていれば、受給資格があったが、結局資格なしで終わった経験がある。

互に(雇用者・被雇用者)暗黙の了解で、知っていたが、知らない振りをしていたパターン。

今思い出せば、放置したのが悔やまれる。

 

私は30歳を境に正社員を辞め、以後フリーランスとなった。

時々契約社員として働き、契約が切れた後、バイトをする暮らしだった。

 

コンビニのバイトは、私が数々のバイトを経験した中の一つ。

前述したコンビニのバイトで失職後、雇用保険を掛けていれば、受給資格有だった。

 

しかし雇用保険をかけてない為、受給資格を失った経験が過去3度ある。

これは今思い出しても、苦々しい体験。

だからこそ今回、コンビニを敢えて取り挙げた。

 

近年政府の社会保険加入・厚生年金加入の拡大論議を見て、何かやり切れない気がする。

今更という思いと、所詮コンビニバイトに厚生年金加入を求めても、何も経営者・従業員の為にならないと云う思うが交錯している。

 

政治家、政府役人は全く現状を理解していない。改正は、全く現場に即していない。

政府・役人は自分達の失政を、一時凌ぎで乗り切ろうとしているに過ぎない。

明らかに過去と同じで、

「現世代が生きている間は問題解決しなくてよい。自分達が死んで、次世代になった時、又考えれ良い」

のスタンス。

問題の先送りに過ぎない。此れでは問題の根本的解決には程遠い。

 

本部も何故、見て見ぬ振りをするのかと言えば、繰り返すが厳密にすれば、殆どのフランチャイズ加盟店の経営が成り立たなくなる為。

各店舗が潰れれば、本部に入るロイヤリティが確実に減る。

その為本部が根本的指導するのではなく、各店舗に判断を任せ、問題をなすりつけている状態。

 

来年以降、中小企業に社会保険・厚生年金加入を促進する為、益々ハードルを低くする方針を政府・事務方(官僚)は検討している。

近い将来、各店舗で歪が生じるであろう。

敢えて時間・年収調整をしている側としては、条件が低くなれば、必ず対象者と成らざるを得ない。

 

対象者なれば逆に、どんどんシフトに入らざるを得ない。何故なら、少しでも手取りを増やす為。

何時も述べているが、資本主義の下では、「ヒト・モノ・カネ」は需給で価格が決まる。

働く人が多くなれば、当然1人当たりの賃金が減る。

 

政府がしばし「働き方改革」と提唱しているが、実は少子高齢化が進む中、益々日本の一人当たりの賃金を減らそうとする魂胆。

つまり進んでデフレ政策を加速しているに過ぎない。

働き改革と言うのは、名前だけの掛け声。実は裏では、この様なカラクリがあると思って間違いない。諺に云う「羊頭狗肉」。

 

年金ブログでも取り挙げたが、これは財界も望んでいる事。

安い賃金で多くの人が溢れれば、雇う側にすれば、甚だ都合がよい。

 

繰り返すが、現にコンビニをはじめとして近年台頭してきた小売業・飲食店・運送・配送等は、殆どがデフレを基に成り立ってきた商売。

現在、人手不足と言われているのは、この業界。

決して待遇・職場環境が良好とは言えない。

 

例外もあろうが、凡そ人手不足の業界は、真逆な状態。

この様にコンビニの推移を眺めれば、社会を映し出す鏡とも言える。

 

コンビニ業界は時代と供に繁栄を遂げてきたが、今まさに転換期を迎えようとしている。

昨年多くの問題が噴出したコンビニ業界、今まさに曲がり角に来ていると言え様。

 

(文中敬称略)