アメリカ禁酒法時代、シカゴの話 『アンタッチャブル』
★懐かしい洋画シリーズ
・題名 『アンタッチャブル』
・監督 ブライアン・デ・パルマ
・脚本 デビッド・マメット
・製作 アート・リンソン
・編集 ジェラルド・B・グリーンバーグ、ビル・パンコウ
・音楽 エンニオ・モリコーネ
・配給 パラマウント映画 1987年米国公開
・原作 オスカー・フレイリー
目次
出演者
◆エリオット・ネス:ケビン・コスナー
財務省から派遣された役人。禁酒法時代、密造酒・輸入で大儲けしているシカゴを根城とするファミリーのドン、アル・カポネを逮捕すべく、任務に励む。
しかしシカゴの政府役人の殆どが、カポネの息がかかっており苦戦する。ネスはカポネに買収されていない警官を集め、特別捜査チームを作る。
そのチームに付けられたネーミングが、「アンタッチャブル」。
つまり決して触れてはならない、問題に踏み込む集団と意味合いを持つ。ネスは集団のリーダーとして活躍する。
◆ジム・マローン:ショーン・コネリー
シカゴ市警に勤める、老警官。着任早々、へまをやらかしたネスに対し忠告する。
忠告したマーロンだったが、次第にネスの人柄・熱意にほだされ、ネスに協力する。
◆ジョージ・ストーン:アンディ・ガルシア
シカゴ市警に勤める、若き新米警官。血気盛んな処はあるが、カポネの垢が付いておらず、ネスの特別チームに抜擢される。
最後迄、生き残ったメンバー。劇中最後、シカゴ駅のシーンは見物。
◆オスカー・ウォレス:チャールズ・マーティン・スミス
国税局(IRS)から途中で派遣され、ネスに協力する。会計帳簿を見る事に長ける。
カポネの納税額の帳簿をみて、カポネを脱税で拘束する事を提案する。
◆アル・カポネ:ロバート・デ・ニーロ
シカゴを牛耳るマフィアのボス。残忍冷酷で有名。
金と闇の支配を笠に、シカゴの司法関係者・警官の殆どを買収、手懐けている。一般市民も然り。
ヘマは決して許さず、劇中でも平気で仲間を撲殺している。
◆フランク・ニッティ:ビリー・ドラゴ
カポネに雇われた殺し屋。カポネに負けず劣らず、残忍冷酷。
カポネの命を受け、捜査妨害と脅しを実行。ネスが率いる特別チームのメンバーを次々に始末する。
カポネの法廷係争中、ネスに追われ、最後に屋上から突き落とされる。
◆マイク・ドーセット署長:リチャード・ブラッドフォード
多分に漏れず、アル・カポネい買収されている。中央(財務省)から遣って来たネスを毛嫌いする。
当然、ネスの捜査にも非協力的。署内でウォレスが殺害された際、犯人を窓から目撃したが見逃した。
◆ウォルター・ペイン:ジャック・キーホー
カポネの帳場係。シカゴ駅から逃げようとした際、ネスの間待ち伏せにあう。
危うく仲間の殺されかける。その為、検事側の証人に回る。
◆キャサリン・ネス:パトリシア・クラークソン
エリオット・ネスの妻。夫のアル・カポネに対する捜査の関係で暫し脅しを受ける。
身の危険を感じ、妻子共に安全な処に避難する。
あらすじ
舞台は1930年9月、アメリカでの禁酒法下の話。
イリノイ州シカゴは、マフィアのボス「アル・カポネ」が支配する街だった。
禁酒法下、カポネは密造酒とカナダからの輸入で莫大な利益を得ていた。
見かねた米国政府財務省はカポネを取締るべく、一人の役人(エリオット・ネス)を派遣した。
ネスは着任早々、大々的な取締りを決行。宣伝を兼ねマスコミ連中を呼び、手入れを行う。
しかし情報が事前に洩れ、失敗する。翌日の新聞に、ネスの大失態として叩かれる。
シカゴの街は、警官を始め、政治家・司法関係者・マスコミ等の全ての人間が、カポネに買収されていた。
張り切ってやってきたネスであったが、今後の捜査方針に自信が持てず、途方に暮れる。
しょげかえっていた時、ネスの許にカポネの暴力の巻き添えで子供の命を奪われた母から、お礼の言葉と激励を受ける。
ネスは娘を亡くした母の言葉に勇気をもらい、カポネに立ち向かう事を決意する。
ネスはカポネに対抗する為、失態した夜、橋のたもとで出くわした老警官、ジム・マローンを説き伏せた。
次にカポネの垢が付いていない若い新米警官、ジョージ・ストーンをスカウトした。
途中から国税局から会計の専門、オスカー・ウォレスも加わった。
結成されたチーム名は、「アンタッチャブル」。
カポネに対する、特別チーム「アンタッチャブル」が結成された瞬間だった。
見所
映画冒頭で、アル・カポネ(ロバート・デ・ニーロ)が登場する。
カポネは番記者の阿諛追従の質問に答える。此処で既に、記者との癒着が垣間見える。
カポネは自分の仕入れた密造酒を拒む店主がいれば、容赦はしない。
仮令一般市民が巻き添えを食おうとも、カポネは見せしめの為に店を爆破した。
偶々、店にお使いに訪れていた幼気な少女が爆破に巻き込まれ、命を落とした。
財務省から密造酒を取締る為、特別捜査官エリオット・ネス(ケビン・コスナー)が派遣された。
シカゴ市警の署長の華々しい紹介の許、登場したネスはやる気満々。
市警の警部補に、自分の手足となる部下を紹介される。早速手入れに向かうが、結果は黒星。
カポネに買収されていた市警の誰かが、カポネ側に情報を漏らしていた。
ネスは着任早々、壁にぶち当たる。警官達は従う振りをして、内心ネスを馬鹿にしていた。
落ち込んで橋の袂で佇んでいた時、一人のパトロール中の老警官(ジム・マローン:ショーン・コネリー)に出くわした。
老警官曰く、
「警官の一番大切な事は、無事家に帰る事だよ」と。
ネスは皮肉めいた言葉であるが、何か心に引っ掛かった。
ネスの失態は、早速カポネに伝わった。カポネは得意満面。シカゴ市警では、ネスは笑いものだった。
そんな中、冒頭でカポネの暴力の巻き添えを喰らった少女の母が、署内でネスをまっていた。
子を亡くした母親は失態であったがネスに対し、礼を述べた。
意気消沈していたネスは母親に激励され、再度自分の使命を自覚する。
ネスはカポネと対決する為、特別チームを編成を決意。人選の為、奔走する。
向かった先は昨夜、橋の袂で声を掛けマーロンの自宅。ネスはマーロンに特別チーム加わる様、必死に説得する。
初めは固辞していたマーロンだが、次第に忘れかけた警官魂を思い出し、後にネスのチームに加わる。
出勤した或る日、財務省から助っ人がやってきた。会計のスペシャリスト、オスカー・ウォレスである。
ウォスカーはカポネを切り崩すには、脱税容疑である事を助言する。
同日、マーロンがやってきた。マーロンがネスに告げる。
「一度やるとなったら、とことんやらねば相手にやられてしまう」とネスに説く。
ネスはカポネを逮捕する迄やると、マーロンに宣言する。
余談だが同じやり取りが、1960年作:『荒野の七人』でもされていた。
主役のクリス・アダムス (ユル・ブリンナー)が仕事依頼に来たメキシコ人に対し、吐いたセリフ。
一度始めたら、どちらかが倒れる迄、やらなければならないという内容。
要するに、「やるか、やられるかとの意味合い。
もう一人は、手垢がついてない新米警官、ジョージ・ストーン(アンディ・ガルシア)が抜擢された。
早速、特別チームの初仕事が始まった。
令状なしのガザ入れ(手入れ)だったが、現物押収(現行犯)を遂行、事なきを得る。
早速、ネスに対するカポネの買収が始まった。
カポネは買収が無理と分かれば、今度は脅しにかかった。
家族の身の危険を感じたネスは、妻子を安全な処に移さねばならなかった。
マーロンが、カナダからの酒の密輸の情報を手に入れてきた。
特別チームは密輸現場を押さえるべく、カナダ国境附近に向かった。
その時呟いた、マーロンのセリフが面白い。
ネス達は取引現場を押さえ、成功を収める。同時に裏帳簿と帳場係を押さえる。
しかし今回の手入れでカポネの怒りを買い、とうとう全面戦争に突入した。
カポネに対する証拠固めるをする為、ネスはカポネの会計係をセイフ・ハウス(隠れ家)の護送しようとする。
その為ウォレスと会計係は、セイフ・ハウスに向かう。
しかし二人は警官に扮したカポネの殺し屋、フランク・ニッティ(ビリー・ドラゴ)により、署内のエレベーター内で殺害される。
署内で白昼堂々と殺害された事は、当然署長も買収されていた事を意味する。
その証拠としてウォレスが殺害された時、署長は窓から犯人(フランク)を目撃していたが、あっさり見逃した。
挙句にマローンに手を引かせる為、休暇を勧めた。
ネスは証人(会計係)がいなくなった為、捜査を断念しかける。
しかしマーロンはネスを必死に説得する。マーロンの説得に応じ、ネスは検事局に掛け合う。
マーロンは署長を殴りつけ、署長からカポネの帳簿係の行方を聞き出す。
だがマローンの許に、カポネに刺客(フランク)が迫っていた。
殺し屋フランクがマーロンの自宅に忍び寄り、マーロンに銃弾をぶち込んだ。
撃たれたマローンは必死に床を這いつくばり、ネスに帳場係の手がかりを伝えようとする。
ネスとストーンが到着するが、マーロンは既に虫の息。
それでもマローンは必死に帳簿係が出発する列車時刻をネスに伝えた。
ネスとストーンは、シカゴ駅に直行する。
駅で逃走しようとするカポネの帳場係を待ち伏せする。
二人は待ち伏せするが、なかなか現れない。
待ち伏せ中、ネスは乳母車に赤ん坊を乗せた母親が、苦労して階段を昇っているのを見かけた。
見るに見かねたネスは、乳母車の母親を手伝う。
その最中、カポネの部下と帳簿係が現れた。部下の一人がネスに気が付いた。
忽ち銃撃戦が始まった。
ネスが咄嗟に乳母車から手を離した瞬間、乳母車が階段から滑り落ちた。
ネスは銃撃しながら、乳母車を掴もうとするが、なかなかつかめない。
その時ストーンが現れ乳母車を支える。ストーンは乳母車を支えながら、銃を敵に狙いを定める。
因みに偶然その場に居合わせた二人の水兵がいるが、一人はギャングに撃たれ、もう一人は階段から滑り落ちる乳母車を掴もうとして、ギャングに撃たれている。
生き残ったギャングは、帳簿係を始末しようとする。
しかしネスの命令で、ストーンが見事に射殺する。
此処が、映画の最大の見せ場と思われる。
此のシーンは、1925年作:『戦艦ポチョムキン』の「オデッサの階段」シーンから引用された。
撃たれた母親の手から乳母車が離れ、乳母車が階段を落ちていくシーンはあまりにも有名。
ネスの証拠固めが終わり、いよいよアル・カポネの予備審議が始まった。
ネスは帳場係を確保。証人として、出廷させた。
参考までに裁判中、130万ドルという金額が登場しているが、1929年の世界恐慌もあり、現在の金額に換算すればいくらかになるかは、ハッキリしない。
只膨大な金額である事は確か。
裁判中にも関わらず、カポネは何故か余裕の表情。何やら殺し屋フランクからのメモを眺め、満足気味。
ネスはフランクが懐に、銃を忍ばせているを見つける。
ネスは法廷警備員にその事を告げ、フランクに退廷を命じさせる。
ネスと警備員は、法廷の外にフランクを連れ出す。
身体検査の結果、やはり銃を携帯していた。しかしフランクは銃の携帯許可書を持っていた。
フランクの銃の許可の便宜を図ったのは、なんとシカゴ市長。
つまりシカゴ市長もカポネに買収されていたという事。
ネスはタバコを吸う為、フランクが持っていたマッチで火を点けた。
マッチの紙には、殺害されたマーロンの住所と番地が書かれていた。
ネスは咄嗟に、フランクがマーロンの殺害犯と気づく。
悟られたと感づいたフランクは、警備員を射殺。逃走を図る。
逃走時、フランクは何も関係ない男女二人を階段で射殺している。
ネスに追い詰められたフランクは、屋上からロープを伝わり逃げようとする。
ネスは一瞬フランクを撃とうとするが、躊躇する
フランクを撃つの断念。ネスがフランク助けようとした時、フランクは殺害したマーロンの事を口汚く罵る。
更に自分はカポネの威光で、絶対に捕まらないと宣う。
あまりのフランクの太々しさにネスは気が変わり、フランクを屋上から突き落とす。
因みに先程フランクがカポネに見せたメモは、買収した陪審員のリストだった。
リストを見たネスは判事に、陪審員の入れ替えを要求する。
判事は初めは拒むが、ネスの一言で陪審員の入れ替えを命ずる。ネスが判事に囁いた言葉は、
此の一言で判事が反応。判事は陪審員の入れ替えを命じたが、実際には判事の名前はリストになかった。
しかし判事がネスの言葉に反応したと言う事は、今回はたまたまリストに名前が載っていなかったが、判事もやはり、カポネに買収されていたと言う事。
此れを聞いた被告のカポネと弁護士は、仲間割れを始める。
カポネは怒りのあまり、自分の弁護士を殴りつける。
やがて法廷は大混乱に陥る。この瞬間、カポネの有罪が決定する。
有罪とはなったが、あくまで脱税での有罪のみ。禁酒法違反、犯罪の罪は問われなかった。
かくしてカポネの正式な裁判が始めり、懲役11年の判決が下った。
カポネとの長い戦いが終わった。
ネスがシカゴを去る為机を片付けていた際、特別チームを立ち上げた時の記念写真が出て来た。
じっと写真を眺め、ネスは今までの出来事を懐古する。
シカゴ市警を立ち去る際、ストーンが別れを惜しむかの様にネスの許を訪ねてきた。
ストーンはネスに対し、今までの御礼と別れを述べる。
二人は固く握手を交わし、マローンの形見をストーンに手渡す。
ネスは静かに、シカゴの街を去った。
追記
映画の主役エリオット・ネスは、財務省の役人。
密造酒で大儲けするシカゴのドン:アル・カポネを逮捕すべく派遣された。
酒の管轄は、財務省の為。
アル・カポネは最終的に殺人・犯罪罪ではなく、脱税の罪として逮捕された。
因み暫し映画で登場するシークレットサービス(要人護衛)も、財務省の管轄。
映画は1920年~1933年まで続いた禁酒法下の話。
イリノイ州シカゴは、アル・カポネ一家に支配されていた。
禁酒法は密造酒の売買を促進し、反ってマフィア等の闇組織を太らせる結果となった。
意外な事だが、アメリカ社会で有名なケネディ一家(ジョセフ・P・ケネディ・シニア:ジョン・F・ケネディーの父)も遡れば、禁酒法時代にマフィアと手を組み、ひと財産築き上げていた過去がある。
エリオット・ネスを演じたケビン・コスナーは、この映画の活躍が認められ、一流役者の仲間入りを果たした。
1990年作:『ダンス・イズ・ウルブズ』、1991年作:『JFK』、1992年作:『ボディガード』での好演は、周知の通り。
ジョージ・ストーン役を演じたアンディ・ガルシアは、まだ無名の俳優だった。
しかしこの映画で一躍注目を浴び、其の後『ゴッドファーザー3』等に抜擢された。
オスカー・ウォレス役を演じた チャールズ・マーティン・スミスは、1973年作映画『アメリカン・グラフィティ』に出演している。大きな眼鏡が特徴。
尚、この映画の監督はなんと、「ジョージ・ルーカス」だった。
ネスの妻役を演じているキャサリン・ネス(パトリシア・クラークソン)は、翌年の1988年作:『ダーティ・ハリー5』で、キャスター役のサマンサ・ウォーカーを演じている。
映画全体を通し、老警官役を演じたショーン・コネリーがいい味を出している。
主人公はエリオット・ネスだが、準主役の老警官マーロンが、主役を喰った映画とも言える。
実際に劇中でネスを指導したり、励ます場面等が暫し見られる。
劇中にて使われているテーマソングが印象的。オープニングでも使われているが、独特の雰囲気が感じられる。
なにか不気味とでも言おうか。一度や二度、聞いた事があると思われる。
結構、他の映像の効果音等でも使われている。
譬えるならば映画『ジョーズ1』で、ジョーズが登場する時、使われている曲の様なイメージかもしれない。
(文中敬称略)