「越後の虎」上杉謙信から見た、第4次川中島の戦い『天と地と』
今回、第4次川中島の戦いを題材にした映画を取り挙げてみたい。
作品は、海音寺潮五郎の小説を原作とした。
・題名 『天と地と』
・監督 角川春樹
・公開 1990年
・配給 東宝
・脚本 鎌田敏夫、吉原勲、角川春樹
・製作 角川春樹、大橋渡
・原作 海音寺潮五郎
・音楽 小室哲哉
目次
出演者
◆上杉謙信(長尾景虎) :榎本孝明(兄を押しのけ、越後守護代となる)
◆宇佐美定満(琵琶湖城主):渡瀬恒彦(家督を継いだ景虎の傅役的存在)
◆武田晴信(武田信玄) :津川雅彦(宿命のライバル的存在)
◆乃美 (宇佐美の娘) :浅野温子(宇佐美の娘。景虎とは、心理的に恋人の様な存在)
◆八重 (信玄の側室) :財前直美(信玄の側室。景虎が出奔時に逢う、勝気な女性)
◆柿崎景家(上杉家重臣) :伊藤敏八(上杉家の家臣。武に優れた武将)
◆直江實綱(上杉家宿老) :浜田晃 (上杉家の参謀的存在)
◆太郎義信(武田信玄長男):野村宏伸(武田晴信の嫡男)
◆武田信繁(武田信玄実弟):石田太郎(晴信の実弟。典厩信繁)
◆大熊朝秀(上杉家重臣) :成瀬孝彦(上杉家家臣だったが離反。武田家に付く)
◆北条高広(上杉家重臣) :南雲勇助(上杉家重臣)
◆村上義清(奥信濃土豪) :大林丈史 (元北信濃土豪、領土を奪われ謙信に助けを求める)
◆飯富虎政(武田家重臣) :室田日出男(武田家重臣)
◆山本勘助(武田家軍師) :夏八木勲 (元今川家間者。後に武田家参謀となる)
◆高坂弾正(海津城代) :沖田浩之 (海津城城代、武田家重臣)
◆他、伊武雅刀、岸田今日子、風間杜夫、大滝秀治、風祭ゆき等
あらすじ
長尾景虎は凡庸であった兄晴景を退かせ、長尾家の家督を相続。越後守護代の職に就いた。
守護代に就いた景虎であったが、問題は山積。家臣達は景虎の力量を疑い、謀反を起こす。
鎮圧に向かった景虎だったが、若さゆえのひ弱さをみせ、家臣達を浮足立させる。
景虎の傅役であった宇佐美定満も、景虎のひ弱さに景虎に対し疑心を募らせる。
定満には娘の乃美がいた。景虎と乃美は幼い頃からの知り合いで、互いに好いていた。
しかし互いに何も言えず、景虎は乃美の笛の音を聞く事で、互いに心を通わしていた。
或る日、越後と国を接する奥信濃の豪族、村上義清が景虎に援助を求めてきた。
義清は甲斐武田の侵攻を受け、領土を掠め取られてしまったと主張。
失った領土を取り戻す為、景虎に援助を乞うた。
景虎は義清の求めに応じ、川中島を挟み武田軍と対峙する。
しばし川中島で対峙するが、有名な第4次川中島は、最も戦闘が激しかった。
映画は主に、第4次川中島を中心に描いている。
劇中では、最初はひ弱であった長尾景虎(上杉謙信)が、様々な体験を重ね成長。
立派で逞しい武将となる姿が描かれている。
原作者「海音寺潮五郎」の言葉を借りれば、川中島の戦いを武田軍側から描いたのではなく、上杉軍から描いている処に特徴がある。
謙信が武将として立派に成長していく過程を見るのも面白い。
見所
今迄の歴史ものとは違い、武田信玄を主役とした物語ではなく、上杉謙信を主役とした物語。
まだ戦国武将として未熟であった景虎(謙信)が徐々に戦国の世に揉まれ、逞しく成長していく過程を描く。
劇中では暫し景虎の武将としての、「ひ弱さ」とも伺えるシーンが見受けられる。
沼田城主の謀反にあった際、人質の妻子を斬るのを躊躇った事。
それから景虎は、領国のイザコザに絶望。身一つで、春日山城を出奔する。
出奔の最中、景虎を追いかけてきた家臣等に説得される。
その時、偶然宿敵「武田晴信」に遭遇。
突発的な出来事で、景虎を庇った家臣が晴信の嫡男太郎義信に斬られた。
景虎は己の未熟さを恥じ、この時を境に、一人前の武将としての自覚が芽生える。
前述したが、景虎が出奔する前、沼田城主が謀叛を起こし、景虎は鎮圧に向かった。
沼田城主の妻子を斬るのを躊躇った景虎の姿を目撃した家臣の「大熊朝彦」は、景虎を見限り、武田家に内通した。
同じく琵琶島城主の「宇佐美定満」は、先の一件で景虎のひ弱さを感じ、景虎に対し疑念を生じる。
その隙を突かれるかの様に、離反した大熊朝彦・武田家軍師「山本勘助」の調略をうける。
更に宇佐美は、景虎に謀叛の疑いを持たれてしまう。
「定満離反の恐れあり」と聞いた景虎は、定満の鎮圧に向かった。
定満は鎮圧にきた景虎と一対一の戦いの末、命を落とす。
舞台は1561(永禄4)年、「第4次川中島の戦い」に移る。
第4次川中島の戦いは、計6回行われたとされる戦いの中で、最も激戦となった。
上杉軍は海津城(城代高坂)を見渡せる、妻女山に陣取る。
一方、武田軍は上杉軍が妻女山に陣取るのを見届け、一旦茶臼山に陣取り、其の後海津城に入城した。
両軍、膠着状態のまま、10日が過ぎた。
武田軍は妻女山の上杉軍に夜襲をかけ、八幡原に誘き出す作戦を用いた。
世にいう、「啄木鳥戦法」である。
しかし作戦は謙信に読まれ、武田軍は霧が晴れた後、八幡原に現れた上杉軍と戦う羽目となる。
戦いは、「前半は上杉軍の勝ち、後半は武田軍の勝ち」と云われている。
尚、この戦では戦国時代には珍しく、「大将同士の一騎打ち」があったと云われている。
謙信が信玄の本陣に突入。謙信の太刀を信玄が、軍配で受け止めたとされている。
劇中では両者が馬上で戦い、信玄が謙信に斬られ、刀傷を負う設定。
霧が晴れた際、武田軍の目の前に、いきなり上杉軍が現れるのは圧巻。
不気味すら漂う。その時のカメラワークが見事。
合戦の映像は黒澤明作品「影武者」「乱」と同様、なかなか見ごたえがある。
やはり戦のシーンが最大の見所。
戦闘シーンにかなり予算を割いていると思われる。
映画が製作された時代は、日本が最も輝いて、華やかな時代だった。
日本の古き良き時代を彷彿させる映画かもしれない。
追記
今更書くまでもないが、主人公は「榎本孝明」だが、当初は「渡辺謙」の予定だった。
しかし渡辺謙は、急性骨髄性白血病を発症。急遽、オーディションを実施。
オーディションの結果、謙信役に榎本孝明が決定する。
個人的意見だが、もし主役が渡辺謙であればとの論があるが、それは結果論に過ぎない。
代役と思われた榎本孝明は、見事な演技を披露している。
代役からスターの座に昇り詰めた例は、古今東西幾つも存在する。
代役が急遽回ってきたのは、逆にチャンスではなかろうか。
「ピンチをチャンス」に変える事が大切。
私は榎本孝明の演技は、左程悪いとは思えない。
財前直美は今回の映画では、異例の大抜擢。
それまでは、あまり大した実績もない状況だった
劇中にて映される四季折々の自然の姿が、とても美しく描かれている。
撮影は主に、カナダで行われた模様。
劇中で流れる音楽の担当は、当時TMネットワークで活躍していた「小室哲哉」が担当していた。
見て分かる通り、黒は上杉軍を表し、赤は武田軍を表している。つまり「赤と黒」の対比をする事で、映像的見栄えを表している。
バブル時代を彷彿させるが如く、何気にエンディングの協賛会社が多いのに驚かされる。
まさに時代を象徴している。
(文中敬称略)
上杉謙信像(写真:個人撮影)