破滅型刑事と老刑事とのハチャメチャ事件簿『リーサル・ウェポン』

★懐かしいアクション映画シリーズ
・題名 『リーサル・ウェポン』
・公開 1987年 アメリカ
・配給 ワーナー・ブラザース
・監督 リチャード・ドナー
・製作 リチャード・ドナー、ジョエル・シルバー
・脚本 シェーン・ブラック
・製作総指揮 ビッキー・ディー・ロック
・製作会社 シルバー・ピクチャーズ
目次
出演者
◆マーチン・リックス :メル・ギブソン (ベトナム帰還兵のロス市警刑事)
◆ロジャー・マートフ :ダニー・グローバー (ロス市警殺人課の警部補)
◆トリッシュ・マートフ :ダーリン・ラブ (マートフの妻)
◆リアン・マートフ :トレイシー・ウォルフ (マートフとトリッシュの娘)
◆ジョシュア :ゲイリー・ビジー (犯罪集団の一味、リーダー的存在)
◆マカリスター将軍 :ミッチェル・ライアン (麻薬密売組織のボス)
◆マイケル・ハンサカー :トム・アトキンス (マートフの古い友人、麻薬密売の玄関口)
◆アマンダ・ハンサカー :ジャッキー・スワンソン(マイケル・ハンサカ―の娘、冒頭で転落死する)
◆マーフィ警部 :スティーブ・ケイハン (マートフの同僚)
◆精神科医 :メアリー・エレン・トレイナー(署内の精神科医)
◆エンドウ :アル・レオン (犯罪組織の一味、リックスを電気で拷問する)
◆デキシー :リリシア・ナフ (冒頭にて、目撃者として登場する売春婦)
あらすじ
ロス市警の麻薬課に勤務するリックス刑事は、嘗て軍の特殊部隊に所属していた、ベトナム帰還兵。
リックスは、あらゆる格闘技に精通していた。だが最愛の妻を交通事故でなくし、現在は精神不安定。
自暴自棄な行動を繰り返していた。
リックスの処遇を扱いかねたロス市警は、リックスを殺人課に転属させた。
転属させられたリックスは、殺人課の刑事部長マートフとコンビを組む羽目となる。
コンビを組んだのは良いが、マートフはリックスの破滅的な行動に気に入らず、度々癇癪を起す。
マートフは堪りかね、精神科にリックスの事を相談する有様。マートフは、何時もハラハラの連続だった。
マートフは或る事件を抱えていた。麻薬中毒の女がホテルのバルコニーから飛び降りた。
飛び降りた女の父親は、嘗てマートフのベトナム時代の戦友だった。マートフは戦友に会い、事情を話した。
どうやら戦友はベトナム帰還後、CIAのフロント会社に就職。秘密の商売をしていた模様。
秘密の商売とは、ヘロインの密輸。検死の結果、どうやら娘の死の真相は、組織から足を洗おうとした戦友への脅迫。
マートフは再び戦友を尋問するが、戦友はマートフとリックスの目の前で、脅迫していた組織の一味に射殺される。
犯罪組織は、マートフとリックスに何か秘密をもらしたのではないかと恐れ、脅す為、マートフの娘リアンを誘拐する。
2人はリアンの奪還を試みるが、逆に捕まり拷問を受けてしまう。拷問中、リックスが脱出に成功。
敵のアジトと犯罪集団を破壊する。敵のボス、マカリスター将軍は、マートフの銃弾で車ごと丸焼けとなる。
犯罪集団のリーダー、ジョシュアはリックスの追跡を逃れ、復讐の為、マートフの自宅に向かう。
マートフの自宅に向かったジョシュアだが、リックスとマートフに捕まり、リックスとの一対一の勝負を演じる。
激闘の末、リックスが何とかジョシュアを打ち負かす。
拘束されたジョシュアは最後の力を振り絞り、手錠をかけた警官を振り切り、警官の銃を奪い、リックスを撃とうとする。
それを察したリックスとマートフは、銃でジョシュアを射殺する。
事件は無事解決。リックスも僅かに生きる望みを持ち、亡くなった妻の墓を訪ね、亡くなった妻に語り掛ける。
最後にマートフの家を訪ね、自殺する願望がなくなったと告げ、映画は終了する。
見所
若かりし頃のメル・ギブソン、年齢設定が50歳のダニ・グローバーとのハチャメチャな掛け合いが見もの。
以後のシリーズでも、2人のコミカルな掛け合いが随所に見られる。コンビを組んだ当初は、互いにギクシャクしていた。
特にマートフは精神的に問題があり、麻薬捜査課から殺人課に異動してきたリックスを毛嫌いしていた。
リックスがあまりにも激情型で、破滅的人間であった為。
リックスの行動に振り回されるマートフは、しばしハラハラされられる。
マートフは冒頭に描かれているが、典型的な一般的なアメリカ社会の父親役。リックスの行動は、自傷的、自殺願望が強い。
劇中にて暫し、マートフが呟く言葉で表せば、「年寄りには、辛すぎる」。この言葉がマートフの心情を端的に表している。
因みに英語で表現すれば、放送禁止用語。敢えて表記はしないが。字幕では、しっかり表記されている。
リックスの精神不安の原因は、三年前、最愛の妻を交通事故でなくした事。
それ以後精神不安になり、度々周囲の人間には理解できない行動をとっていた。
劇中で自殺を試みようとした男が、ビルの屋上に立つシーンがある。
リックス刑事は自殺志願者を説得するのではなく、相手に手錠をかけ、マットの上に一緒に飛び降りている。
その行為を見たマートフはリックスを詰るが、リックスはあくまで事件解決の手段だと主張する。
マートフは自殺したいのであれば、今すぐ自殺しろと銃を手渡す。リックスは、マートフが手渡した銃で本当に自殺を図ろうとする。
もしマートフが止めなければ、本当に銃のトリガーを弾いていた可能性が高い。
因みに映像をよく見れば分かるが、リックスと自殺志願者が一緒に飛び降りる。
しかし、何気に手錠が外れているのが分かる。スロー映像で、はっきり見て取れる。
おそらく編集で気付かなかったのか、譬え気づいても撮り直しが利かなかった為、そのままオンエアーしたのかもしれない。
劇中では当時のアメリカ社会を反映している。
マートフが戦友とホテルのロビーで会話している場面では、ロビーに設置してあるTVは日本製だった。
因みに犯人のジョシュアがリックスの追求から逃れる際、利用した車は西ドイツ製。
初めは映画のタイトルである『リーサル・ウェポン』が理解できなかった。
リックスが殺人課に転属となり、初めてマートフとコンビを組んだ時、2人の会話で漸くタイトルの意味を理解した。
つまり「生きた武器」、「生きた殺人マシーン」と云った意味で使われている。生きた武器とは勿論、リックス刑事の事。
劇中で登場する「エア・アメリカ」と云う航空会社は、実在した会社。
ベトナム戦争時、CIAのフロント企業。主にベトナムを中心に、秘密工作に従事していた。
今回マートフ刑事と戦友だったハンサカ、マカリスター将軍と傭兵たちは、その残党の設定。
嘗て秘密工作に従事していた将軍と傭兵達も、戦争が終了し、ご用済みとなった。
用済みとなったが、組織とコネクションがそのまま残り、そのまま犯罪組織とルートに変換した。
一方、リックス刑事もベトナム戦争に従軍。リックスの場合、射撃の腕を見込まれたのかは分からないが軍の特殊部隊にいた。
証拠として特殊任務に就く人間は、他の部隊と区別、部隊員同士の一体感を出す為、入れ墨を彫る習慣があった。
劇中のリックスのライバルとなる「ジョシュア」は部隊は違うが、おそらく違う特殊部隊にいた模様。
戦争後、一方は刑事となり、一方は悪事に手を染める人間になるのは皮肉。
冒頭に目撃者として登場したデキシーの家が、ジョシュアにより吹っ飛ばされた後、刑事達から尋問を受ける子供たちが愉快。
何か日本の漫才を見ているようだ。
リックスが拷問中、登場する東洋人は、明らかに日本人を意識したもの。何故なら、名前が「エンドウ」の為。
もう一つ劇中に隠れているテーマを挙げるとすれば、リックスに立ちはだかる相手の名前が「ジョシュア」である事。
日本人にはあまり馴染みが薄いが、キリスト教国であれば、直にピンと来る。これ以上は書かないが。
敵のアジトからマートフが脱出。マートフが車で逃げようとするマカリスター将軍を撃つ際、マートフが一旦首をひねり、狙いを定め撃つシーンが印象的。
劇中でリックスとマートフが署内の射撃場で、射撃をする際にも見られた仕草。おそらくマートフが狙いを定める際、或るいは気合を入れる際の癖。
因みに射撃場の場面では、リックスがとんでもない射撃の名手として描かれている。
あまりの射撃の凄さにマートフがリックスに、「銃と一緒に寝ているのか」と言っているのが面白い。
リックスとジョシュアの武器を使わない決闘シーンが、最後の見せ場。
決闘後、ジョシュアは拘束されるが、隙をみて警官の銃を奪い、リックスを撃とうとする。
リックスとマートフの2人がお揃いでジョシュアを射殺するシーンが、絵になる。
一旦抵抗を止めた犯人が再び立ち上がり、主人公を撃とうとして最後に撃たれるシ場面は、『ダイ・ハード1』の最後と同じ。
調べてみれば、製作に係わった「ジョエル・シルバー」が『ダイ・ハード』も手掛けている事が判明。頗る、納得した。
追記
全四弾まで続く『リーサル・ウェポン』シリーズの記念すべき第一弾作品。
1980年代の米国アクション映画の代表『ダイ・ハード』と並び、印象深い映画ではなかろうか。
劇中で出演している人物で、両方に出演している人物が見受けられる。
例えば端役だが、今後のシリーズで暫し登場し、なかなか良い味を出している署内の精神科医を演じている女性(メアリー・エレン・トレイナー)。
更にリックス刑事が敵に捕らわれた際、リックス刑事を電気ショックで拷問にかけるエンドウ(アル・レオン)と呼ばれている男性。
二人は『ダイ・ハード1』では、女性はTVキャスター。男性はビル占拠のテロリスト集団の一員として出演している。
追加で、今回の作品の翌年公開された『ダイ・ハード2』の劇中で、機内で『リーサル・ウェポン』の画像が映った雑誌が、一瞬映っているのが確認される。
配給会社こそ違うが、ほぼ同時期だった為、編集で見過ごしたか、スルーしたと思われる。
それとも前述したが、両映画に製作としてジョエル・シルバーが関わっていたからであろうか。
参考までに『ダイ・ハード2』は、20世紀フォックス配給
同様に、ジョシュアがマートフの家に着いた時、TVで流れていた番組は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だった。
参考までに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、ユニバーサル配給。
マカリスター将軍を演じているミッチェル・ライアンは、1970年代の映画『ダーティ・ハリー2』で、ハリーキャラハン刑事の友人(チャーリ・マッコイ役)として出演している。
マカリスター将軍と取引をする役を演じたエド・オロスは、1988年作『レッド・ブル』に悪役(ビクトル・ロスタ)として出演している。
ほぼ同時期の作品で、当時は悪者として重宝がられたと思われる。
『リーサル・ウェポン』は全作品を通して言えるが、脚本・ストーリに前作との繋がりにあまり矛盾がなく、一貫性がある。
連動性・関連性がある処に好感が持てる。
よくシリーズものにありがちな、前作と同じ出演者が次作では、全く違う配役で出演する事が暫しみられるが、『リーサル・ウェポン』シリーズではあまりない。
やはり監督が、シリーズと通して同じである事が影響しているのかもしれない。
因みに脚本家も、パート1からパート3まで、同一人物だった。前作とほぼ同じ設定で出演しているのが分かる。
要するに前作を踏まえ、話が展開する為、スムーズに話に入っていけるのが特徴。これは素晴らしいと思う。
人間ではないが、パート1で登場するサム(コリー犬)が可愛い。
映像にはないが、最後のシーンでマートフの家に呼ばれ、家の中でドタバタ劇を演じているのが面白い。
サムは、パート2にも登場している。
例を挙げれば、2作目から出演して以後、準レギュラーとなった「レオ・ゲッツ」を演じる「ジョー・ペシ」等は典型的存在。
パート2以降、なかなか重要な役を演じている。シリーズ4の最終場面、出演者が記念撮影をする際、家族扱いになっている。
前述した精神科医もシリーズを通じ、出演時間は僅かだが、良い味を出している。シリーズが進むにつれ、一種の定番となりつつあった。
参考までに、マートフがリックスの行動に戸惑い、精神科医に相談するシーンがある。
その時マートフが使う携帯電話が、時代を感じさせる。大きな無線機のような機械だった。今では考えられない。
20年後には(2008年)、スマホが登場しているとは、誰も想像できなかったであろう。
シナリオ的にパート1の流れを汲み、パート2も確り内容が踏襲されている。
リックスの妻は交通事故で亡くなっているが、原因はパート2で解き明かされている。
シリーズが進むにつれ、マートフ一家の子供達が徐々に成長する。
マートフ一家がリックス、レオとの交流を通じ、人間関係が親密となる。その過程がしっかり盛り込まれているのもシリーズの特徴。
シリーズを見続けている人は、主人公の2人と供に周囲の人物も成長していくのが分かる映画だった。
刑事アクションであるが、事件解決に留まらず、人間味あふれる映画だったと言えよう。
他のアクション映画としては、異色だったのかもしれない。
(文中敬称略)