料理漫画だが、料理より登場するキャラが面白い『包丁人味平』

大昔に見た料理漫画。料理漫画と云うよりも、何か人間としての生き方を教わった漫画だったのかもしれない。

今回は、懐かしい漫画を紹介したい。

 

・題名        『包丁人味平』

・原作         牛 次郎

・作画         ビック錠

・出版社        集英社

・掲載誌        週刊少年ジャンプ

・掲載期間       1973年28号 ~1977年45号 

 

登場人物

 

★塩見味平

漫画の主人公。高校進学を諦め、日本料理の達人である父とは違う、洋食の道を志す。

味平は当然父の怒りを買い、勘当となる。

 

味平は勘当後、町のレストラン「キッチン・ブルドック」に勤め始める。

味平は店に勤め乍、様様な人物から刺激を受け、修行。一流の料理人を目指す。

 

店のチーフ北村は味平の料理の素質を見抜き、何かと力になってくれる。

他のスタッフも務め当初は味平に辛くあたるが、次第に味平の素質を認め、協力する。

 

或る日味平は、北村チーフの助っ人としてやって来た「仲代圭介」と対立する。

対立は次第に激化。仲代の横暴に耐え切れず味平は、仲代との腕比べ(包丁試し)を挑む。

苦戦の末、味平は仲代との包丁試しに打ち勝つ。

 

仲代との勝負後、味平は様々な料理人と腕比べを行い、更に腕を磨く。

数々の腕試しで勝利した後、味平の心に何か虚しさだけが残った。

料理人の世界に入った当初は、安くて美味い料理を多くの人に食べてもらうのが目的だった。

しかし何時の間にか、闇雲に技術だけを求める自分に気づいた。

 

味平は初心に戻る為、再び北村チーフの許を訪れる。

味平は北村チーフの許で再修業を望むが、チーフは味平に豪華客船の厨房で見習いとして修業する事を勧める。

味平は北村チーフの言葉に従い、新たな可能性を求め豪華客船に乗り込む決意をする。

 

豪華客船で出発する味平。

出発当日お世話になった方々、味平の両親に見送られ、物語は終了する。

 

★塩見松造

塩見味平の父。日本料理の名人で鯛の生作りが得意。

味平に高校進学を望むが、味平本人は進学を諦め、洋食の道に進む。板前の松造は、洋食の進む味平を勘当する。

 

味平を勘当した松造だったが、味平が後に色々な人間と腕試しする時、密かに味平の許を訪れ、陰日なたで味平を手助けする。

職人気質で頑固な面もあるが、味平の良き理解者。

味平が料理の修業にて船で旅立つ際、松造の命の次に大事な「関の孫六」を手向けとして、船に投げ入れる。

 

★同級生のミッちゃん

味平の学生時代の同級生。ひそかに味平を慕う。最初から登場し、最終回にも登場する。

 

★北村チーフ

味平が初めに勤めた洋食屋のチーフ。以前は、豪華客船のチーフを務めていた程の腕前。

嘗て無法板の練二との腕試しの試合で負け、船を降りる。厳しいが、何かと味平の力になってくれる。

 

★車屋のおとらばあさん

味平がキッチン・ブルドックの修行時代、いろいろ陰で力になってくれた屋台の主。

札幌ラーメン祭りにて、再び登場。再度、味平の窮地を救う。

 

★仲代圭介

味平が勤める「キッチン・ブルドック」に助っ人としてやってきたコック。

昔日本料理の板前だったが、味平の父松造との「包丁試し」に敗れ、日本料理の道を断念。其の後、洋食の道に進む。

味平が松造の子としり、味平に無理難題を持ち掛け、終いに味平を包丁試しに引っ張り出す。

 

★団英彦

包丁貴族の異名を持つ。味平と仲代との包丁試しの審査員を務める。

審査の最後で味平と対立。後に味平と腕試しの試合をする羽目になる。勝負は「肉の宝分け」

 

★鹿沢練二

昔味平の父松造、仲代と同じ五条流師範に仕えた門弟。好い腕を持っていたが、体を壊し休養中にいつの間にか無法板の道に進む。

各地で賭け包丁の試合をしかけ、勝利して賞金を稼ぐ。

嘗て豪華客船で北村チーフに勝負を挑み、勝利。北村チーフを船から降ろした程の実力の持ち主。

 

★鼻田香作

カレーの魔術師との異名を取る程、カレー作りの名人。味平とカレー戦争に挑む。

戦いは互角だったが、最後は意外な結果で終了する。

 

★石田鉄龍

札幌ラーメン祭りの参加者。優勝候補の一角。飛び入り参加した味平を毛嫌いする。

腕は確か。地元の三平汁をラーメンに取り入れ、優勝を目指す。

 

★柳大吉

味平のカレー戦争の際、助っ人として参加する。

ラーメン作りに関しては、右に出るものはいない。屋台では、お客さんの味分けができる。

カレー戦争後、味平と決別。札幌ラーメン祭りにて再会。味平のライバルとして戦う。

拗ねた口振りだが、何かと味平の力となる。人間性も優れた人物。

 

作品概要

 

塩見味平は、日本料理の達人、塩見松造を父に持つ少年。高校進学を諦め、一流料理人の道を目指す。

父は和食の料理人。息子の味平が洋食の道に進むのを快く思わず、味平を勘当する。

 

勘当された味平は、町の洋食屋「キッチン・ブルドック」で、住み込みで働く。

仕事は辛いが、職場の同僚。厳しいが心優しい北村チーフ、ストーブ前の留さんに温かく見守られ、味平は修業に励む。

 

或る日、北村チームが父の病気の為、暫く店を空ける事になった。

北村チーフの代理として来た仲代は、北村チーフのやり方が気にいらず、味平以下、他のスタッフをいびり始める。

堪忍袋の緒が切れた味平は、仲代の挑発に乗り、仲代と包丁試しを行う羽目となる。

 

実は仲代は以前、塩見松造との包丁試しに敗れ、日本料理を諦め、洋食に転向した過去があった。

味平は仲代の度々の妨害にも負けず、遂に勝利を収めた。

勝利後、成り行き上、審判員の一人だった「団英彦」と対立。

次は、団英彦と勝負をする羽目になる。

 

味平は苦戦の末、団英彦との勝負(肉の宝分け)に勝利。

勝利したのも束の間、次は嘗て父松造と仲代と同じ門弟であった「無法板の練二」こと、「鹿沢練二」と戦う。

 

鹿沢練二は数々の奇策を用い、今迄いろいろな料理人を打ち負かしてきた。

味平は練二が繰り出す奇策に臆することなく戦いに挑み、焼津の荒磯で勝利する。

 

練二との勝利後、味平の心には何か虚しさが残った。

味平は料理の道を目指した際、当初からの願いである

 

「安い一般料理を、多くの人に食べてもらいたい」

 

と云う思いを胸に秘め料理人を志したが、いつの間に料理とはかけ離れた技術だけを追い求める自分がいる事に気付いた。

 

味平は初心に戻る為、一般大衆の味を求め、町を彷徨った。

辿り着いた先は、多くの肉体労働者が集まる横浜だった。

 

味平は大衆料理の代表であるカレーライスを屋台で売るのを考案、実行する。

しかし味平の試みに反し、屋台カレーは全く売れなかった。

 

途方に暮れていた味平は或る日、偶々見かけた屋台ラーメンに入る。

全くの偶然だが、味平はラーメンを食べ驚愕した。

味平が驚いた理由は、ラーメンが今迄食べたラーメンの中で一番美味しいと思った為。

 

屋台の主は、「柳大吉」と云った。

大吉は味平が出来ない「味割」を実行。一人一人のお客様にラーメンを提供していた。

※味割とは、お客さん毎に味の好みを変える手法。

 

味平はひょんなことから、父親がデパートの役員を務める女暴走族「香川梨花」に出会う。

梨花は家庭環境の不満から非行に走り、素行が宜しくなかった。

 

梨花は偶然、味平の屋台にひょっこりやってきた。

梨花は味平の料理に対するひた向きさと純真さに触れ、何か心を揺り動かされた。

梨花は今迄自分の歩んできた人生とは掛け離れた存在の味平に、深い関心を示す。

 

一方、梨花の父は勤務する新装開店のデパートの担当を任されていた。

梨花の父は集客の目玉として、大衆料理代表であるカレー屋の開店を計画した。

デパートの経営陣は開店の目玉として、食べ物屋で集客を目論んだ。

 

父から話を聞いた梨花は、チャンスと到来と睨み、味平にカレー屋の開店を持ち掛けた。

梨花としては、今迄苦労を掛けた父を助ける気持ち、又は自分の更生誓う意味を含んでいた。

 

梨花から計画を持ち掛けられた味平は、初めは戸惑った。

しかし梨花の必死の説得で、カレー屋の開店を決意する。

 

一方、ライバルのデパートも、ほぼ同時期に新装開店を計画。

ライバル社もデパートの目玉として、カレー屋の開業を目論んだ。

此処に新装開店デパートの代理戦争として、カレー屋同士の客引き戦争が始まった。

 

開店後の緒戦、カレーの魔術師の異名をとる「鼻田香作」を率いるインド屋カレーに味平は惨敗する。

あまりにも圧倒的な負けの為、味平を招集したデパートの重役連中は味平を力不足と見做し、味平を追放する。

 

デパートを追い出された味平だったが、味平はめげる事なく、ひたすらカレーを作り続ける。

味平は以前同様、屋台でカレーを売り始めた。

 

※余談だが、腕の良い料理人が良い経営者かは、また別の話。

有名な店が何年後に閉店するのが、この類。

漫画ではあくまで料理の話の為、今回は言及しないが。

 

当初はなかなかお客さんが寄り付かず、苦戦する日々が続いた。

しかしスタッフ一同、味平自身の試行錯誤の結果、遂にカレー戦争に勝利する。

 

「カレー作りでは日本一」と言われた鼻田香作は料理の魅力に取りつかれ、あまりにも幾多の香辛料を嗅ぎすぎた為、精神に異常を来した。

 

勝利後、味平はカレーと同じ大衆料理代表、ラーメンに興味を持つ。

味平が都内で一番美味い言われる店でラーメンを食べていた時、ラーメン好きなトラックの運転手、「井上洋吉」に出会った。

 

洋吉が云うには、

「都内で美味しいと言われ来ても見たが、美味くない

と、店のラーメンをこき下ろした。

 

味平は洋吉の話を聞き、洋吉が美味いと主張するラーメンの店に案内して貰う。

案内して貰った先は、何とラーメンの本場である北海道の札幌だった。

洋吉は仕事でトラックを札幌まで運ぶ途中だった。

 

味平が札幌に到着した際、札幌では丁度、全国のラーメン作りのプロが集まる「ラーメン祭り」が開催されていた。

 

成り行き上、味平も飛び入りで大会に参加。ラーメン作りを行う。

参加したのは良いが、味平はラーメン作りは初めての経験だった。

 

初めてだったが、持ち前の料理の勘と試行錯誤の末、味平は独自のラーメン考案、完成させる。

味平は下馬評を覆し、最終審査まで残った。

最後は嘗てカレー戦争で一緒に戦った「柳大吉」、地元の優勝候補「石田鉄龍」と三つ巴で争う。

 

最終審査まで残った味平だったが、審査の方法にも不備があり、あまり前評判が芳しくなかった味平は、大吉と鉄龍に負けてしまう。

最終な勝利者は、柳大吉だった。

 

ラーメン祭り後、味平はホームシックにかかり、実家に戻った。

久しぶりに、父松造と母に再会する。

味平との久しぶりの再会で、松造は珍しく仕事を休む。

 

仕事を休んだ松造だったが、料亭の女将から連絡。

松造の料理に惚れ、いつも懇意にしてくれるお得意さんが来店すると旨で、止む無く松造は仕事に出かけた。

 

お得意さんは、西洋料理しか食べられない外国人客を同伴する予定だった。

味平は父に連れられ急遽、松造の店で西洋料理を作る羽目となる。

 

味平は腕を振るい外国人のお客さんに西洋料理を差し出した。

しかし味平の料理は一口食べたのみで、そのまま皿に残されていた。

 

一方、和食を受け付けなかった外国人だったが、松造が作った料理は残さず美味そうに平らげた。

数々の勝負を熟し、それなりに腕が上がったと自負していた味平だったが、今回の出来事で衝撃を受けた。

 

味平は初心に戻るべく、「キッチン・ブルドック」の北村チーフの許を訪ねた。

味平は今回の出来事を、そのまま北村チーフに話した。

 

北村チーフは武者修業の為、味平に豪華客船に乗り込み、腕を磨く事を勧めた。

北村チーフは嘗て豪華客船にて、料理長をしていた時期があった。

味平は、二つ返事で了承した。

 

旅立ちの日、港では嘗ての仲間・知り合いが見送りに来た。

遅れて味平の両親が到着。父松造は味平に、自分の大事な愛刀「関の孫六」を船に投げ入れた。

 

味平は父の心遣いに深く感謝。一人前の料理人になる事を誓い、船で日本を後にする。

此処で漫画は終了する。

 

見所

 

料理漫画もさる事ながら、漫画に登場する人間の個性が大変特徴的と言える。

塩見味平は勿論の事、頑固一徹、昔の職人気質の父である松造が実は、味平の良き理解者だった事。

味平が危機に陥った際、陰日向で助けてくれる。

父性溢れる父親といった処。

 

腕に自信を持ち、頑固一徹だった松造も、味平の影響で一流の日本料理だけでなく、次第に大衆料理に目を向け始めた。

当時流行った漫画「巨人の星」の頑固一徹の「星一徹」とは、又違ったタイプの父と言える。

 

違いと云えばやはり、味平に対する「愛情」ではなかろうか。

父松造が発する厳しい言葉の節々に、味平に対する深い愛情が垣間見える。

 

初めて漫画を読んだ際、読み手としては不思議に序盤より、終盤の方が面白いように感じられた。

大概の漫画は序盤が面白うが、次第にマンネリ化が進み、つまらなくなる。

最後は何時終わったのか分からず、終了しているパターンが多い。

 

何故なのか理由を考えた結果、おそらく、庶民の味・大衆料理の定番「カレー・ラーメン」を扱ったからではないかと思われた。

 

数々の料理人との勝負の場面も面白いが、素人にはなかなか理解しがたい部分があった。

初めて読んだのが当時小学生の為、子供には理解できない部分もあった。

漫画の中でも描かれていたが、日本人であるのに日本料理は、「庶民にはかけ離れた存在」。

 

その為、子供の頃には理解しずらい部分があった。

何故なら、毎日一般の食卓で日本料理を食べている日本人が少ない為。

 

最後は味平が、豪華客船で武者修行にいく場面で終了。

続編がありそうな終わり方だったが、実際はなかった。

 

漫画中にて、現実では不可能ではないかと云う場面も見られた。

 

・僅か数ヶ月の見習いコックが、「包丁試し」で勝つ事。

・包丁試しの最後の決着「潮勝負」で、味平の汗が潮に落ち、塩加減が丁度良くなる事。

・荒磯での勝負で、舟の梶取りを子供にさせた事など。

おそらく漫画でしか、あり得ない。

 

柳大吉の得意とする味割は初期の頃、味平がキッチン・ブルドックでの修業時に、一度描かれている。

その時は肉体労働者ふうのお客さんに対し、北村チーフが味の濃いカレーを差し出した場面。

 

初めは薄い味のカレーを出し、不味いと云われた。

キッチン・ブルドックは町の洋食屋。

主にサラリーマン(ホワイトカラー)を中心とした店の為、肉体労働者風の男達には味が薄く、不味いと云われた。

 

ラーメン作りで味平が一本麺を作る際、腰の強い麺を作るのに必要な「麺の泉」を貸してくれたお婆さんは、味平がキッチン・ブルドックの修業時、屋台のラーメンで登場した「車屋のおとらばあさん」

 

初めに述べたが、登場する其々のキャラクターが濃いというのか、アクが強いとでも云うのだろうか。

一度見れば、なかなか忘れられないキャラ。

 

料理漫画だが、現代のような料理の詳しい説明はない。

料理を通じ、料理に係る人間模様を中心に描いている作品と言える。

何か人生で大切なものを教わった作品。

 

登場するキャラは、味平の人間性・料理の腕の成長に欠かせない人物ばかり。

「人間、決して一人では何もできず、絶えず他人の協力が必要だ」

と言ったメッセージが含まれているものと思われる。

 

漫画に登場するキャラで、味平に協力してくれた主なキャラを挙げれば、

北村チーフ、留さん、川原さん、弁天の熊五郎、磯十郎さん、佐吉さん、柳大吉、井上洋吉、おとらばあさん、一橋久美子、香川梨花。

 

そして一番大切な人物はやはり、 味平の父「塩見松造」 

 

既に40年以上経つ作品だが、忘れた頃に読み返せば、ふと子供の時代に持っていた何か大切なモノを思い出させてくれる漫画かもしれない。

或る意味、料理漫画というよりも、当時流行した「スポ根」ものに近いものだったかもしれない。

 

(文中敬称略)