一昔流行った『伊達直人』運動 原作を調べてみれば『タイガーマスク』
ほんの一昔、世間では架空の漫画キャラである「伊達直人」なる人物を捩った慈善運動が流行った事を、覚えているだろうか。
実社会に現れ、寄付を受けた側が名前を尋ねた処、本人は本名を名乗らず、「伊達直人」と答えた。
だいぶ後になり判明したが、伊達直人と名乗った人物は、実際自分も児童施設で育ち、社会に出た人だった。
活動の動機は、自分が大きくなり児童施設を思い出し、施設の子供達が不憫な思いをしていないか心配した為。
自費でランドセルを購入して、夜に人知れず児童施設の前にランドセルを置き立ち去った、誠に善意に満ちた行為だった。
この行為は共感を呼び、忽ち全国に派生。一時期ブームを巻き起こした。
昔みたアニメで興味があった為、今回改めてアニメを見直してみた。
見直して気付いたのは、当時みていたアニメの印象と改めてみたアニメの印象とが、かなりかけ離れている事だった。
今回子供の頃感じていたアニメの印象と、大人になり分かったアニメの印象の違いを述べたいと思う。
更に漫画とアニメでは最終回が異なっている点が、今回見直した際の新たな発見と言えるかもしれない。
・題名 『タイガーマスク』
・作者 梶原一騎
・作画 辻なおき
・出版社 講談社
・掲載誌 ぼくら、週刊少年マガジン
・掲載期間 (1968年1月号 ~1969年10月号)
週刊ぼくらマガジン
(1970年1号 ~1971年23号)
週刊少年マガジン
(1971年26号 ~53号)
・アニメ 東映アニメーション
・放送 日本テレビ系列
目次
登場人物
◆伊達直人
孤児院で育っていた少年。住んでいた孤児院「ちびっこハウス」が経営難に陥る。
解体前の最後の思い出にと皆で出かけた動物園で不良の囲まれ、直人は不良をぶちのめす。
直人は喧嘩後、皆から飛び出した。
様子を見ていた虎の穴の人間にスカウトされる。
直人は虎の穴で修行を積み、悪役レスラーとしてデビューする。
悪役レスラーとして戦っていた直人だが、嘗て住んでいた孤児院に寄付をする中、慈善心に目覚め、心を入れ替え正統派レスラーとして、全国の孤児院の子供の為に戦う。
◆若月ルリ子
嘗て父が経営していた孤児院を兄と供に立て直し、経営する女性。
直人が施設にいた頃、一緒に過ごした仲間。
タイガーマスクの正体が、昔施設にいた直人ではないかと気付き始める。
兄と供に孤児院を盛り立て、孤児の世話をする心優しい女性。
◆若月先生
亡き父の後を継ぎ、妹と供に孤児院「ちびっこハウス」を経営する男性。
◆健太
ちびっこハウスに住む子供。腕白で負けん気が強い。
タイガーマスクが好きで、憧れている。
昔施設にいた伊達直人を彷彿させる様な少年。初めは直人を嫌うが、後に打ち解け心を許す。
◆ジャイアント馬場
ご存じ、実在の人物。初めはタイガーを嫌っていたが、タイガーが正統派レスラーに転向後、良き理解者となる。
◆アントニオ猪木
馬場と同じで、実在の人物。ときどきアニメで、タイガーとタックを組んだりする。
◆ミスターX
虎の穴、アジア地区を担当する人物。上納金を出し渋ったタイガーを裏切り者と認定。
タイガーを倒す為、次々に刺客を送る。片目に眼帯、ムチをもち、猛獣使いの様な姿が特徴。
◆虎の穴、支配者三人衆
虎の穴を支配する三人衆。キングタイガー、ビッグタイガー、ブラックタイガー。
虎の穴を裏切ったタイガーを許さず、タイガーを倒す為、自ら出陣する。
◆タイガー・ザ・グレート
虎の穴のボス。虎の穴三人衆が破れ、タイガーを倒す為、自ら出向く。
虎の穴の創始者であり、伝説的レスラー。
アニメの最後では、タイガーマスクと死闘を演じ、敗れ絶命する。
作品概要
孤児院「ちびっこハウス」は経営難で、廃院寸前だった。
孤児院が人手に渡る直前、孤児院は皆で思い出づくりの為、動物園に行った。
孤児院に住む「伊達直人」は正義感が強く、負けん気の強い少年。
動物園で年上の不良達に揶揄われ、不良達をぶちのめし、そのまま行方をくらます。
直人は、喧嘩の様子を見ていた「虎の穴」にスカウトされる。
虎の穴の門を潜った直人は、厳しい訓練を受け、悪役レスラーを目指す。
厳しい修行に耐え、直人は堂々とした悪役レスラーに成長した。
虎の穴の目的は、悪役レスラーのファイトマネーの半分を上納金としてせしめる算段だった。
直人は着々と悪役レスラーに育ち、アメリカ巡業を終え日本に帰国した。
帰国後、タイガーマスク事、伊達直人は徹底した悪役レスラーを演じた。
ある時、嘗て自分が世話になっていた孤児院の窮状をしり、直人は自分のファイトマネーを施設に寄付する様になった。
更に直人は、虎の穴に納める上納金まで寄付し始めた。
直人は虎の穴から裏切り者のレッテルを貼られ、命を狙われる羽目になる。
タイガーは次第にヒールではなく、正統派レスラーに目覚め、虎の穴から送られる刺客と戦い始める。
直人は数々の戦いを経て、虎の穴の支配者の三人衆までやっつけた。
とうとう最後の砦である虎の穴のボス、「タイガー・ザ・グレート」が直人を倒す為、やって来た。
グレートは虎の穴の創始者で、最強のレスラーだった。
タイガーとグレートの試合が始まる。グレートは直人を抹殺しようと、あらゆる反則技を使い、直人を追い詰める。
激しい試合中、タイガーマスクの覆面が剥がされ、タイガーマスクが伊達直人である事がバレてしまう。
バレてしまった直人は何かふっきれたかのように正統派レスラーでなく、嘗て虎の穴で培った残虐性を露わにし、グレートと戦う。
死闘の末、グレートは敗れた。
正体がバレた直人は、既に日本では自分の居場所がなくなったと悟った。
直人は試合後、一人で日本を去ってしまう。
感想
意外だったのは、タイガーマスクが初めは悪役レスラーだった事。
子供の頃、不思議とアニメを初めから見る機会は少ない。
大概きっかけは、偶々TV放送しているのを見始めるか、学校で友人等に教えてもらい、見始める事が大半と思われる。
余談だが、今では考えられないが、時代的に地域により大分放送に差があった。
地方では放送していなかったり、放送時間がまちまちだったりする場合もあった。
その為、地方では大都市とは異なり、案外放送されていないアニメが存在する。
タイガーマスクも放送していない地域が存在したのではないかと思われる。
話を戻すが、タイガーマスクは悪役レスラーとしてアメリカを巡業。
巡業後、日本に帰国。帰国後、タイガーは暫くは悪役だった。
私がアニメを見始めた時、タイガーは既に悪役ではなく、正統派レスラーとして虎の穴から派遣された悪役レスラーと戦っていた。
どうしてタイガーが虎の穴のレスラーと戦う羽目になったのか分からなかった為、理由を調べた。
結論を簡潔に述べれば、タイガーの虎の穴に納める上納金の拗れが発端である事が判明。
タイガーは自分が生まれ育った孤児院を救う為、孤児院に寄付し始めたのが原因。
タイガーは自らの取り分のファイトマネー、更には虎の穴に納める上納金を寄付し始めた。
結果として、虎の穴に収める上納金が減った。
タイガーが上納金を減らした為、虎の穴はタイガーの反逆行為と映り、虎の穴はタイガーを始末する為、悪役レスラーを送り込んだ。
子供の頃は、ファイトマネー・上納金など全く理解できなかった。
単にタイガーが正義の味方で、虎の穴が悪者だと思い込んでいた。
大人になり見直した際、状況がかなり複雑だったと判明する。
「大人の言い方」になるかも知れないが、虎の穴の言い分も満更間違っていないと思えた。
もし契約書なるモノが存在し裁判沙汰にでもなれば、おそらくタイガーが負けていたかもしれない。
次に知らなかったのが、漫画とアニメの最後が大幅に異なっている事。
アニメの最後は、虎の穴から来た刺客タイガー・ザ・グレートと戦い、試合中にタイガーのマスクが剥がされる。
タイガーはマスクを剥がされ、正体が「伊達直人」と判明。
タイガーは正体が皆に知れた為、もはや正統派レスラーとして振る舞う必要もなく、嘗ての残虐レスラーになり、直人はタイガー・ザ・グレートと戦う。
死闘の末、直人が勝利。しかし正体がバレ、日本では最早直人の居場所はなくなり、ひとり海外に旅立つシーンで終わっていた。
しかし漫画の最後は、世界タイトルマッチを戦う為、タイガーは試合会場に向かう。
その途中、伊達直人は 車に轢かれそうになった子供を助けようとして、車に撥ねられ死亡する。
海外に渡米、事故で死亡する最後の何方も、何か虚しさが漂う。
あまりにも漫画の最後が衝撃すぎる為、アニメでは変更したと思われる。
私は此の時まで、漫画の結末を知らなかった。今初めてしったが、かなり衝撃的だった。
こう考えてみれば、タイガーマスクに扮する「伊達直人」は、薄幸な人生だったと言えるかもしれない。
子供の頃は、強くて優しいお兄さんのイメージだったが、今考えれば、当時の世相を反映したアニメだったと漸く理解できた。
作者(梶原一騎)の他の作品、「巨人の星」「あしたのジョー」を見渡せば、何か同じテーマが浮かび上がってくる。
それは「貧困」。
貧困ゆえ、主人公が人生のどん底から必死に這い上がろうとするテーマが見え隠れする。
必死に這い上がろうと努力するが、結局最後は「人生の勝者になれない」のも全く同じ。
参考までにアニメの最後の唄が、また印象的だった。
今では問題となり、TV局にクレームがくるレベルかもしれない。題名が既に問題と云える。
その題名は、「みなしごのバラード」。
今「みなしご」と云う言葉を使えば、おそらく何処かの団体から、差別用語として必ずクレームが来るだろう。
唄を聴けば、メロディーと歌詞がなんとも言えず切なく、もの哀しい。
著作権違反であろうが、You TubeにUPされている曲を聴いた時、当時よく放送できたものだと感心した。
今であれば、確実にアウト。そんな思いがする曲だった。
※令和2年4月30日付
You Tube上の東映アニメミュージアム公式チャンネルにて、『タイガーマスク第一話:黄色い悪魔』がUPされています。ご興味がある方は、公式チャンネルにてご覧ください。
東映公式チャンネル:https://youtu.be/jUBXm3MU84M
子供の頃、何気に見ていたアニメも、大人になり見直せば、全く違った感覚に見える。
子供の頃は、ただ単にタイガーが戦い、勝利する事が満足だった。
大人になり、いろいろな視点でアニメを見れば、子供のアニメだが、多くの示唆・教訓が含まれている事が判明した。
今回アニメを見直した際、しみじみ感じた。
追記
最近何故か此方のページの閲覧が増えている為、敢えて追記しますが、現在世界各国で新型ウイルスが蔓延しています。
いまこそ「伊達直人」運動が必要なのかもしれません。
マスクの転売・買い占めに走るよりも、マスクを無償で配布するような寛容さこそ、荒んだ現代社会に必要なのかもしれません。
最も「隗より始めよ」の諺の如く、私自身が自ら率先して始めれば良いのかもしれませんが。
令和2年 4月19日付
(文中敬称略)