怪談と言うよりも、人生を考えさせられた映画『雨月物語』

★懐かしの日本映画シリーズ 溝口健二 監督作品

 

・題名       『雨月物語』     

・公開      大映1953年

・監督      溝口健二     

・製作      永田雅一  

・撮影      宮川一夫     

・音楽      早坂文雄

・脚本      川口松太郎、依田義賢

・原作      上田秋成

 

出演者

・源十郎    :森雅之      ・宮木    :田中絹代

・藤兵衛    :小沢栄太郎    ・阿浜    :水戸光子

・若狭     :京マチ子     ・老僧    :青山杉作

・村名     :香川良介     ・右近    :毛利菊枝

 

作品概要

近江国の或る農村に住む源十郎(森雅之)は野良仕事の傍ら、焼き物をつくり、生計を立てていた。

場所的には北近江あたりであろうか。

 

本能寺の変以後、「羽柴秀吉」「柴田勝家」の対立が激化。合戦が真近に迫っていた。

嘗て秀吉の領土であった長浜は清洲会議後、一時に柴田の領土となっていたが、秀吉がその後、奪還。

長浜は秀吉支配の下、大いに栄えていた。

 

源十郎は出来上がった焼き物で一儲けしようと画策。長浜の町に売りに行くことにした。

 

※長浜の町は本能寺の変(1582年)までは羽柴秀吉の領土だった。

信長死後の清洲会議で長浜は、柴田勝家に譲り渡した。

対立が先鋭化、羽柴軍が長浜を再び取り戻したという事。

 

源十郎の義弟、藤兵衛(小沢栄太郎)は農民でありながら、侍として出世する野望を秘めていた。

藤兵衛は侍の仕官をする為、源十郎に付いて行った。

 

長浜で源十郎の焼き物は、飛ぶように売れた。

売れたお金で源十郎は妻の宮木(田中絹代)に反物、その他いろいろな土産をもって村に戻ってきた。

一方、藤兵衛は仕官をするが、具足・槍を持たない為、断られ落ちぶれて村に帰って来た。

 

味をしめた源十郎は更に儲けようと企み、沢山の焼き物を作ろうとする。

或る夜、柴田軍が村にやって来た。米、人足の為に男、そして女などを強奪する為に。

 

村人は略奪をおそれ、山中に逃げ込んだ。

焼き物はできる寸前だったが、源十郎は焼き物を諦め、山中に逃げ込む。

 

兵士が去った後、家に帰り窯を見れば、焼き物は見事に出来上がっていた。

源十郎は琵琶湖を経由して、焼き物を「丹羽長秀」の城下「大溝」に売りに行く事にした。

 

船で琵琶湖を渡っていると、海賊に襲われ瀕死の船頭を乗せた舟に遭遇する。

船頭は「海賊に襲われたら命はないから気をつけろ」と告げ、息絶えた。

 

源十郎と藤兵衛は危険を避ける為、宮木と阿浜(水戸光子)を陸に降ろそうとするが、阿浜は藤十郎についていく事を主張した。

 

大溝で瀬戸物は飛ぶように売れた。

売れた金で藤兵衛は具足・槍を買う為、源十郎と阿浜の許を逃げ出した。

 

阿浜を巻いた藤兵衛は具足屋に行き、具足と槍を手にいれる。

一方、阿浜は藤兵衛を探しあぐね、湖畔に佇んでいた処、雑兵達に囲まれ辱めを受けてしまう。

 

その時源十郎は、荷を届けるよう言われた屋敷に荷を届けに行った。

源十郎は屋敷にて、今まで見た事もない、もてなしを受けた。

もてなしの最中、屋敷に住んでいる「朽木家」の姫、若狭に心を奪われてしまう。

 

若狭と乳母も、源十郎を満更ではない様子。

源十郎は終に誘惑に負け、若狭と契を交わした。

 

源十郎は時の経つのも忘れ遊び惚けてしまい、若狭と自堕落な生活を続けた。

何時しか妻子、藤兵衛、阿浜、村の事など忘れてしまい、徒に月日を過ごす。

 

舟を降りて陸で村に帰ろうとしていた宮木は落ち武者に絡まれ、食料を強奪された挙句、槍で突かれ落命する。

藤兵衛は具足と槍を手にいれ、合戦近くの叢にかくれ、敗退した大将の首を狙った。

藤兵郎は切腹、介錯した大将首を持ち去ろうとする敗残兵を、槍で突き付け、大将首を強奪した。

※劇中の大将首は、佐久間盛政軍の「不破勝光」と思われる。

 

意気揚々と村に凱旋しようとする藤兵衛。村に帰る途中、宿に足を止めた。

すると驚く事に宿には、大溝で別れた妻の阿浜が遊女として働いていた。

 

藤兵衛は驚いた。阿浜はてっきり村に帰り、藤兵衛の帰りを待っていると思っていた。

藤兵衛は阿浜から話を聞き、自分のしでかした事の愚かさに気付き、悔い改めた。

 

或る日、源十郎が町を歩いている時、一人の老僧とすれ違った。

老僧は源十郎を呼び止め、神妙な顔をして源十郎に話かけた。

そして源十郎に対し「お前の顔には、死相がでている」と告げた。

 

老僧は源十郎に向かって、「今の生活を捨て、元の生活に戻るが良い」と諭した。

老僧の話を聞いた源十郎は、動揺した。源十郎は恐れおののき乍、帰宅した。

 

若狭・右近(若狭の乳母)は何やら、屋敷に戻った源十郎の様子がおかしいと気付く。

若狭が源十郎を問い質せば、源十郎は今までの経緯を話し、自分を妻子の許に返してくれと懇願した。

 

若狭は源十郎の願いを拒否する。

若狭が源十郎に近づこうとした時、源十郎に何やら不吉なものを感ずる。

源十郎の体には、町であった老僧の手で、魔よけの呪文が書かれてあった。

 

源十郎は恐怖のあまり錯乱。刀を振り回した後、気を失った。

気を失いどれだけ経ったか分からない。

しかし屋敷、若狭・右近は、いつの間に消えていなくなっていた。

 

源十郎が気を取り戻した時、侍達に囲まれていた。

源十郎は侍たちに所持してい刀と、お金を取りあげられ、無一文となってしまった。

 

ほうほうの体で、村にかえった源十郎。

無一文で落ちぶれて家に戻った源十郎だったが、家には長い間留守にした源十郎を咎めもせず、ただ温かく迎えてくれる宮木の姿があった。

源十郎は無事村に帰り、妻子の顔を見たのに安心したのか、そのまま眠りについてしまった。

 

翌朝、村の名主が源十郎の許を訪ねてきた。

名主の話では、「宮木は村に帰る途中、落ち武者に槍で突かれ死んだ」との事。

源十郎は狐につままれた様な気持ちになった。昨夜見た宮木は一体、何だったのだろうかと。

 

一方、藤十郎は、阿浜と再会。心を悔い改め、武士になる事を断念。

村に帰り、地道に生きていくことを選択する。

源十郎も自分の仕出かした過ちを悔い改め、気質の地道な生活へと戻った。

 

見所

羽柴秀吉と柴田勝家に対立に言及している為、おそらく賤ヶ岳の戦い(1583年)前後の話と思われる。

 

カメラワークが素晴らしいのか、映像が絵巻物の様に流れるのが印象的。

 

「戦が人間の心と生活を変えてしまう」と呟く宮木の言葉が、映画の本質を表している。

 

最後に宮木が幽霊となって源十郎を迎えるシーンがあるが、あまりにも源十郎が心配になり、魔性となり現れたのであろうか。

 

映画最後に述べる宮木の言葉が、何か胸に突き刺さる。

源十郎が心を入れ替えた時には、自分は既にこの世にいない。

 

追記

劇中では、織田信長に攻め滅ぼされた朽木家となっているが、史実では「朽木元網」は織田信長に臣従。

本能寺の変後は、羽柴秀吉に臣従する。

 

秀吉死後の2年後、関ヶ原に西軍として参戦。

しかし小早川秀秋の裏切りに呼応、自らも西軍を裏切る。

関ヶ原後は減封されるが、本領安堵となる。

 

劇中で藤兵衛が不破勝光の首を獲った事になっているが、史実の不破勝光は賤ヶ岳の戦後、前田家に臣従。

加賀国、金沢で没している。

 

何気にスタッフ・出演者が、黒澤明作品「羅生門」:1950年作と重なっている。

違いは監督ぐらいであろうか。

 

(文中敬称略)