ジェームス・デーンの初主演 出世作『エデンの東』

★懐かしの洋画シリーズ ジェームス・ディーン主演
・題名 『エデンの東/East of Eden』
・公開 1955年米国
・制作 ワーナーブラザーズ
・監督 エリア・カザン
・脚本 ポール・オスボーン
・原作 ジョン・スタインベック
・音楽 レナード・ローゼンマン
目次
出演者
◆キャル・トラスク(主人公) : ジェームズ・ディーン
◆アダム・トラスク(キャルの父) : レイモンド・マッセイ
◆アーロン・トラスク(キャルの兄): リチャード・ダバロス
◆アブラ(アーロンの恋人) : ジュリー・ハリス
◆ケート(キャルとアーロンの実母): ジョー・バン・フリート
◆ウィル・ハミルトン(実業家) : アルバート・デッカー
◆サム・クーパー(保安官) : バール・アイビス
◆グスタフ・アルブレヒト(靴屋) : ハロルド・ゴードン
あらすじ
ジョン・スタインベックの小説が原作。ジョン・スタインベックは「旧約聖書」の「ケインとアベル」がベース。
それを仄めかすが如く、父(アダム・トラスク)が倒れた後、知り合いの保安官がキャル(ジェームス・デーン)に告げる場面が存在する。
アメリカ西岸部、カリフォルニア州モントレー郡サリナスが舞台。キャルは兄(アーロン・トラスク)と父と3人で住んでいる。
兄は学校の成績も優秀。父の覚えも良く、模範的人間だった。
一方、主人公のキャルは行動が粗暴で、父からあまりよく思われていない。自分もその事を自覚している様子。
兄には将来を約束した、恋人がいた。アブラである。
アブラは兄を慕いながらも、弟キャルに気を寄せる。
心が満たされず鬱積したキャルは、列車の無賃乗車を繰り返し、モントレーの町にある酒場に通っていた。
酒場を経営する女性は、偶然にもキャルと所縁のある人物だった。
父はサリナス村で収穫されたレタスを冷凍付けにして、大都市に列車で運送する事業を試みた。
しかし列車が雪崩で遅延、大損する。結局、レタス事業は失敗に終わる。
キャルは父が事業で失敗したお金を取り戻そうと、大豆栽培を試みる。
しかしキャルには、事業を興すだけの資金がない。資金調達の為、キャルは酒場経営者の女性に金を借りにいく。
酒場経営者(ケート)と会話中、キャルは意外な事を知る。意外とは、母がどうして父の許を去ったかと言う事。
ケートから金を借りたキャルは、借りた大金を元に町の事業家、ウィル・ハミルトンと共同で大豆栽培に取り掛かる。
まもなくアメリカが第一次世界大戦に参戦。大豆相場は急騰。キャルとハミルトンは、莫大な利益を得る。
大金を手に入れたキャルはアブラと相談、父の誕生日にお金を渡す計画を立てる。
しかし当日、キャルの予想とは裏腹に、父の態度は対照的だった。
見所
映画はキャル(ジェームス・デーン)がケート(ジョー・バン・フリート)を尾行するシーンから始まる。
キャルは以前からモントレーの町にちょくちょく来て、ケート(実の母)を見つけた。
モントレーの町からサリナスに帰る際、無賃乗車で汽車の上でキャルが寒さ震えながら、蹲っているシーンが印象的。
社会と家庭から疎外され、何か拗ねているような仕草にも見える。
氷小屋で父に意見を否定され、アローン(兄)とアブラの仲睦まじい姿を見たキャル。
自分が誰にも受け入れられず、疎外された心情になっているのが、目の表情によく現れている。
やるせない怒りと爆発で、氷を小屋から落としてしまう場面が切ない。
アダム・トラスク(父)は聖書を座右の銘としている人間で、清廉潔白な人間性。
アーロンは父の人間性を受け入れているが、キャルはあまり受け入れていない。
それが父・兄との確執の原因の一つとも言える。
キャルと父は居なくなった母の話をするが、父の話を聞くにつれ、何故父と母が結婚したのか不明。
まるで真逆の人間に思える。
酒場で騒ぎを起こし、保安官に保護される。
保護された際、キャルは保安官から父とケートは嘗て夫婦だった事を知らされる。
レタス畑でキャルが偶然、アブラの話を聞く。
話を聞いたキャルは、アブラが嘗て自分と同じ境遇にいた過去を知り、同情。親近感を覚え始める。
しかしこの事が原因で、後に兄とのトラブルに発展する。
大豆事業の資金の為、ケートの許に金を借りに行く。
話をする中で、ケートが父の許から離れた理由が明らかになる。
父はケートを束縛しようとしたが、ケートはそれを拒んだと。
まもなく米国が参戦。アローンは米国の参戦を快く思っていない様子。
戦争が長引くに連れ、父のチェス仲間のドイツ系アメリカ人の靴屋、グスタフ・アルブレヒトの店が投石されるなど、怪しげな空気が流れ始める。
町のフェスティバルでキャルは偶然、アブラと出会う。
アーロンが来るまで、キャルはアブラと供に観覧車に乗る。
会話中、
「アローンが私(アブラ)に理想の母の姿を求めている。私は決して理想の母ではない」
と言い放つが、アブラの言葉はその後のキャルとアローンの諍いを暗示している。
フェスティバル会場にてグスタフ・アルブレヒト(靴屋)が戦争(第一次大戦)のアジ演説を聞き立腹。
他の聴衆と揉め事を起こす。その場にいたアローンは、トラブルに巻き込まれる。
騒ぎの際、アーロンがキャルを誤解。アーロンはキャルを罵り始める。
互いに感情が昂ぶり、殴り合いを始める。アブラの立ち位置が何気に微妙。
2人の仲介に入るが、反って2人の関係を悪化させる。俗に言う、三角関係の縺れ。
父の誕生日のパーティーでキャルは、父に大豆相場で儲けの金を渡す。
キャルに対抗するかのようにアローンは、父にアブラと婚約した事を告げる。
父は敬虔な聖書の信者らしく、「戦争で儲けた金」を汚い金と認識。キャルに金を突き返す。
このシーンは映画界での名シーンの一つに数えられている。
このシーンには余談がある。
ジェームズ・ディーンがまだ下積みで俳優学校にいた頃、映画の主役を探していた監督エリア・カザンが俳優学校に立ち寄った。
その時ジェームズ・ディーンは監督の前に現れ、主役をさせてくれと願い出た。
その後のジェームズ・ディーンの活躍は言うまでもない。
キャルが木陰で泣いている時、アブラが必死にキャルを慰めていたが、兄アローンがキャルに残酷な言葉を投げ掛ける。
その言葉を聞き、木陰から出てきたキャルの表情、雰囲気が印象的。
キャルは何か吹っ切れたかの様な残忍な、或る決意を込めた顔でアローンを睨んだ。
それは兄と父に、復讐してやろうという決意の表れ。2人の立場が逆転した瞬間とも言える。
キャルが帰宅後、父がアーロンの居所を尋ねる。するとキャルは
「知らないよ、僕は兄の子守りではないと」
そして母が何故、父の許を離れてしまったのか理由を述べる。言葉の中で
「父さんは自分を許し続けたが、決して愛そうとはしなかった。それは自分が母に似ているからだ」
と云った言葉が父の心に突き刺さった。
兄アローンは母親(ケイト)と再会。今までの自分の信じていたのもが全て覆され、自暴自棄になる。
自分の存在を消したいが為の行動だろうか(自傷行為)、志願兵となり軍隊行きの列車に乗る。
事情を聞きつけた父が、駅に行きアローンを呼び戻そうとした。
しかしアーロンは半狂乱になり、列車の窓ガラスを頭で叩き割る。その後列車は、無常にも動き出す。
あまりのショックで、父は脳溢血を発症する。事情を知った保安官は罪の重さでキャルに対し、
父の許を去りエデンの東ノド(流離の地)に行くよう告げる。
キャルは罪の深さを自覚、父の許を去ろうとするが、言葉を発しなかった父がキャルに対し、自分の許に留まり自分の世話をするように告げる。
父との長い確執後、父とキャルに訪れた和解の瞬間だった。
追記
父の誕生日、アーロンとキャルが互いに贈り物をする。
父がアーロンの贈り物を喜んだ出来事は「旧約聖書」創世記、「ケインとアベル」が元になっている。
父親の名がアダムなので当然、母親はイブ。だとすれば、ケートはさしずめ「イブ」と言う事だろうか。
楽園を追放されたアダムとイブの間に、ケイン(兄)とアベル(弟)が生まれる。
創世記では、神に献上物を選ばれたアベルをケインが嫉妬。
殺害するのはケイン(兄)だが、劇中ではキャル(弟)がアーロン(兄)を軍隊に送り込む形になっている。
・有名なセリフ
「知らないよ、僕は兄の子守りではないと」
と云うのは、旧約聖書の言葉を捩ったもの。旧約聖書では
「しりません。私は弟の番人でしょうか」。
劇中で時折、ジェームス・デーンが上目遣いで拗ねたような仕草を見せる。
ジェームス・デーンの生い立ちを調べてみた処、実際に似たような境遇で育っている事が判明。
この事実が判明した時、ジェームス・デーンが父にすがって泣く迫真シーンの名演技が理解できた。
その時、此の映画が私にとり、益々興味深い作品となった。
(文中敬称略)