当時のアクション映画の常識を覆した『ダイ・ハード』
★1980年代、アクション映画の傑作
・題名 『ダイ・ハード』
・公開 1988年米国
・配給 20世紀フォックス
・監督 ジョン・マクティアナン
・脚本 スティーブン・E・デ・スーザ、ジェブ・スチュアート
目次
あらすじ
ニューヨーク市警で刑事をしているジョン・マクレーンはクリスマス休暇を利用し、ロスの日系企業に勤める妻子に会いに来た。
夫婦は別居中、決して夫婦仲は良好とはいえない状態。
妻が勤める会社のリムジンで、ジョンは妻の会社を訪ねる。しかし暫く別居中で、会話も何か弾まない。
久しぶりの再会だったが、二人はすぐに喧嘩してしまう。
喧嘩後マクレーンがビルを出ようとした際、テロ集団がビルを占拠する場面に遭遇。そのまま否応なしに事件に巻き込まれてしまう。
ビルに一人閉じ込められ、ジョンは一人でテロ集団と戦う。
何度も危ない目にあいながら、ビルの外部の人間(アル・パウエル)の協力を得て、徐々にテロ集団を追い詰めていく。
最後にはボロボロになりながらも、妻を助け、事件は漸く解決する。
事件解決中、協力してくれた一人の警官(アル・パウエル)との間に友情が芽生え、二人は硬い絆で結ばれた処で終了する。
出演者
◆ジョン・マムレーン(ブルース・ウィルス)
ニューヨーク市警の刑事。クリスマス休暇を利用して別居中の妻子に会いに行く。
妻が務めるビルに向かい妻と再会するが、直後に事件に巻き込まれ悪条件の下、一人で犯罪グループに立ち向かう。
途中何度も危ない目にあいながら、危機一髪逃れるシーンが見もの。
尚ジョンがホーリー(妻)の許を訪ねたのは、ホーリーが勤めるナカトミ会社のロス支社長「タカギ」の粋な計らいの為。
◆ホリー・マクレーン(ボニー・べデリア)
マクレーンの妻役。ロスの日本企業(ナカトミ)に勤める。仕事の為、マクレーンと別居。その事が原因で、夫婦仲はあまり良好でない。
ビルが占拠され、ボス(高木支店長)が殺された後、犯人グループとの交渉役を務める。
◆ハンス・グルーバー(アラン・リックマン)
国際テロ集団のリーダー。政治犯を装っているが、実は狙いは金。なかなか冷静沈着で残酷非道。
ビル内でマクレーンにしばし計画を邪魔される。最後にマクレーンに追い詰められ、命を落とすシーンが見もの。
◆アル・パウエル(レジナルド・ベルジョンソン)
ロス市警の警官。パトロール中、偶然事件に巻き込まれる。その後はマクレーンに何かと力になる存在。
ダイ・ハード1~3シリーズでは、必ずマクレーンに協力的なアフリカ系アメリカ人が登場する。
次シリーズは僅かに登場するが、重要な役目を果たす。階級的には、巡査部長。
◆アーガン(デブロー・ホワイト)
マクレーンを空港からビルまで送った、リムジンの運転手。劇中、チラホラ登場する。
◆ウィリアム・アザートン(リチャード・ソーンバーグ)
劇中に登場する地元TVのジャーナリスト。結構嫌な奴として描かれている。
演技が好評だったのか分からないが、アルと同じく次シリーズにも登場する。
◆ドウェイン・ロビンソン(ポール・グリーソン)
ロス市警警察次長で、現場の指揮官役。しかしあまり役に立たない、無能指揮官。
何気にマクレーンを煙たがる。官僚的・権威主義の代表として描かれている。
◆カール(アレクサンダー・ゴドノフ)
犯罪集団の一人。粗暴で激昂的人間。マクレーンに兄を殺され、執拗に追い詰める。
彼は最後まで見せ場を作ってくれる。
◆トニー( アンドリアス・ウィスニウスキー)
カールの兄。弟と違い冷静で頭脳派だが、劇中では一番初めにマクレーンに殺される。
◆テオ(クラレンス・ギルヤード・Jr)
犯人グループの一人で、電子機械に詳しい。陽気であるが残忍。
劇中では、終始テクノロジーを駆使。ジョンと警察対抗する。
しかし最後はオールド的なやられ方をするのが、何か皮肉めいている。
◆ハリー・エリス(ハート・ボックナー)
ホリーの同僚。やり手らしいが、麻薬を嗜好するなど、何か軽薄なイメージが漂う。
ホリーを誘うあたりも軽薄さが見て取れる。劇中もその軽薄さが仇となり、命を落とす。
◆ジョセフ・ヨシノブ・タカギ(ジェームズ・シゲタ)
ホリーが勤める、日系企業のロス支社長。盛大なクリスマス・パーティーを催し、ジョンをロスに招待。
リムジンで空港に迎えにやらせたりして、なかなかの社員思いの様子。
テロ集団にビルを占拠され、命を落とす。
見所
ジョンがナカトミビルを訪問した際、妻ホーリーが夫婦名(マクレーン)でなく独身時代の名(ジョネロ)と名乗っている。
マクレーンがビルの受付で知り、何気に不快感を表している。
妻と再会後、その事を本人に問い質し、口論となる。妻ホーリーは日系企業で働いている為、仕方がないと弁明する。
口論後、ジョンがビルを出ようとし、トイレに裸足で入っている時、事件が発生する。
日系企業の名が「ナカトミ」、漢字で「中富」を連想させる。業種は商社であろうか。
この時代、アメリカ経済は落ち込んでいて、日本経済はバブル最盛期だった。
時代的背景の影響もあり、この様な設定になったと思われる。
ナカトミ社では妻は、なかなか優秀な社員らしい。
個人オフィスを提供され、会社から懸賞品として「ロレックスの時計」を貰っている。
登場した際、何気ないアイテムと思われたが、後に重要な意味が込められていた(伏線)。
ロス支社長の名前は「ジョセフ・ヨシノブ・タカギ」。
おそらく移民した日本人の設定。洗礼を受けた為、ジョセフとネーミングされている。
タカギ支社長はハンスに脅され、ビル内の金庫を開けるコードを教える様に迫られたが、本当にコードを知らず、ハンスに射殺される。
偶然いたジョンが、そのシーンを目撃している。
金庫を無理やりこじ開ける為、電子機械に詳しい犯人グループのテオ(カールと供に受付に現れた人物)が、何重にもロックされている金庫のコードを解くのが面白い。
テオはカール(犯人一味、兄をジョンに殺された弟)と一緒に、当時の西ドイツ製の車(ベンツ)で現れる。これも何気に、当時のアメリカ社会を反映している。
当時西ドイツは日本と同様、輸入などの経済面で米国社会を圧迫していた。
ベンツは、その象徴。
カールは受付に来るなり、いきなり問答無用で受付の人間を射殺する。
まるでピクニックに行くような感覚。
テオはその際、当時バスケ界のスーパースター「マジック・ジョンソン」が、鮮やかに「2ポイントシュート」を決めた時の譬えをしている。
まさにテオの人間性(陽気だが、残酷)を物語っている。
警官隊がビルに強硬突入を試みた際も、陽気に歌を唄いながら得意のテクノロジー技術を駆使し、警官隊を見事に撃退している。
犯人集団のハンス、カールに次ぐ準主役かもしれない。
警官突入時、ハンスとテオが英語で会話しているが、迎え撃つテロ集団はドイツ語で会話している。
警官隊に対峙する犯人一味に、東洋人らしき人物がいる。その東洋人が警官を待ち伏せする場所が、偶然ビル内の売店。
ショーケースのお菓子を食べようとして、誰もいないのに何故か周りを見渡し、そっと手を出す仕草が面白い。
緊張場面で、何気に笑いの要素を含んでいる。
尚、この役者さん「リーサル・ウェポン1」にも出演している。
「リーサル・ウェポン1」では、犯人一味がリックス(メル・ギブソン)を捕まえ、電気ショックの拷問をかける。
拷問をかける人間で、「エンドウ」と呼ばれている日本人(日系人?)を演じている。
ジョンは警察に通報するも電話が通じない(犯人グループのトニーが電話線を切断)。
その為、火災報知器を使い、消防署に連絡する。
しかしハンスの機転で計画が頓挫する。
火災報知器が鳴ったフロア(階)に、状況を探りにきたトニー(カールの兄)がジョンと格闘の末、絶命する。
所持品から、無線(当時は携帯電話はない)、偽造身分証明書(IDカード)、タバコを発見。
ID・タバコ・犯人同士の会話から、テロ集団がドイツ系の人間である事が判明する。
ジョンはトニーが持っていた無線機を使い、ビル屋上に昇り、警察通信指令室に連絡する。
その時、ジョンと通信指令室の女性とのやり取りも面白い。
通信指令室の女性は、ジョンが悪戯で警察の緊急無線の周波を利用して通報していると勘違い。
ジョンを冷たくあしらおうとする。
ジョンは指令室の女性に対し、「ピザの注文をしているんじゃない」と叫ぶ。
その直後、テロ集団から銃撃を受け、通信指令室に耳をつんざくような銃声音が響く。
劇中ジョンがどうして裸足であるかの理由は、ロスに来る飛行機内で隣の乗客から
「靴を脱げばリラックスできる」と教えらた為。
言葉通りナカトミビルのトイレで実践中、事件に遭遇。
慌てて逃げた為、裸足だったという設定。
通信指令室から連絡を受けた巡回中のアル・パウエル(アフリカ系アメリカ人)が、ナカトミビルに向かい、確認するシーンも愉快。
最初は陽気に歌を唄いながら確認に向かう。
アルはまんまと相手の策略に嵌り、異常なしと判断。
そのまま撤収しようとする。
しかしジョンが投げつけた死体が、パトカーのボンネットに落ちてきた際、慌てて車をバックで発進。
そのまま車ごと、坂を転げ落ちる。
後に運転の下手っぷりを無線でジョンから揶揄されるのが面白い。
地下駐車場でジョンを待っていたアーガンが事件に気づかず、勝手にリムジンの酒を飲み、電話を使い放題しているシーンが愉快。
アル・パウエルが無線でジョンと交信。その後、力強い味方となる。
事件が進展するに連れ、二人の間には、奇妙な友情が芽生え始める。
アルがジョンと無線で交信中、ケガをして額から血を流す。
その際、額の血をハンカチで拭ってあげている同僚の警官がいるが、この人物は「ダイ・ハード3」にも出演している。
その時はロス市警ではなく、ニューヨーク市警として登場している。
何気に内容的にパート1とパート3は繋がっていて、あまり違和感がない為、気づかないかもしれない。
地元TV局の女性アナウンサーは、「リーサル・ウェポン」シリーズで、警察署の心理カウンセラー役で出演している。
結構、出演者がかぶっているのが分かる。当時、売れっ子だったのだろうか。
事件現場にて、現地指揮官のロビンソンが全く役に立たない。
事件はジョンの情報と活躍に助けられているが、それを認めず、あろう事かジョンを敵対視する。
挙句にジョンとエリス(ジョンを売ろうとした人間)のやり取りの後、ハンスに撃たれたのはジョンのせいだと言い出す有様(後述する)。
官僚組織の特徴で、全く融通性がなく、柔軟な対応を取れないダメ指揮官を演じている。
後からしゃしゃり出てきたFBIも犯人の手助けとなるが、ロビンソンに輪をかけた様に、全く役に立たない。
最後は犯人が仕掛けた罠に嵌り、ヘリごと爆破され死亡する。
警察無線を盗聴していたTVジャーナリストが、事件を嗅ぎ付け、現場に駆けつける。
自分の手柄の為、小狡く、汚い手を使う。
劇中、ホーリーの自宅の不法移民のベビーシッターを脅し、無理やり子供達を出演させる。
その結果、マクレーン夫妻を危険な目にあわせる羽目となる。
ジャーナリストは事件解決後、ホーリーにカメラを向けた際、殴られ前歯をへし折られている。
※前歯を折られたと判明したのは、ダイ・ハード2の劇中の会話の中。
リーダーのハンスは、TVで放映されたマクレーンの子供を見て、オフィスに伏せてあったマクレーン夫妻の家族写真を発見する。
結果として、ジョンとホーリーが夫婦であるのを知る。
なぜ今まで気付かなかったのか。
それはホーリーがジョンから連絡がないのにイライラして、オフィスの家族写真を伏せていた為。此れが後の伏線となった。
結果として、此れが時間稼ぎとなる。
ナカトミの社員エリスも、姑息な輩。パーティー参加者が人質となり、苦しんでいる際、自分だけは助かろうとリーダーのハンスに接触。
ジョンをハンスに売り、自分だけ助かろうとする。
ジョンに対し昔からの友人と装い、ジョンにテロ集団に投降するよう呼びかける。
エリスは当然、ジョンに拒否される。
犯人も嘘と見抜き(又は用無しと判断され)、エリスはタカギと同じくハンス射殺される。
ひとつひとつの言動が何か嫌味臭く、キザな人間だった。
エリート意識は強いが、極限下では取るに足らない男。きっと皆さんの周りにも、同様の人間がいるのでは。
リーダーのハンスは、FBIがビルの電源を切る事を予測。
FBIが実行した際、最終的に電子ロックで制御されたビルの金庫が開く手筈。
実際に金庫が開いた時、犯人グループの爽やかな顔、そして流れる音楽の「交響曲第九」が妙にマッチしている。
金庫中にあった日本製の鎧を犯人の一人が、指で弾くシーンと音も然り。
やはり当時のアメリカ社会では、「アメリカ経済を脅かす、ふてぶてしい日本人」という意識が込められていたのではないか。
日系企業のビルに押し入り、米国債を奪うのも何か印象的。
ジョンがFBIのヘリに追われ、ビルの屋上から飛び降りる。
飛び降りた際、ジョンが辿り着いた階は「畳の部屋」だった。
割れた窓から畳が落ちていくシーンも、同じ意味と思われる。
因みに「ダイ・ハード2」では、日本製を犯人側のアイテムとして使っている。
ダイ・ハード2でテロ集団が使う無線機は、当時日本製の「アイワ」。
犯人集団と言う処がミソ。何か無言のメッセージとも云える。
同時期に人気を博した「リーサル・ウェポン」にも、この手法が使われている。
因みに此の手法は、「リーサル・ウェポン1、2」の両方に使われている。
以前紹介した「ダーティ・ハリー」でも述べたが、此の手法は1970年代初頭から見られた。
アメリカ経済が冷え込み、アメリカ経済を脅かす程に台頭して来たドイツを、何気に揶揄するシーンとも云える。
その為、アメリカ人は嘗ての栄光である第二次大戦の構図(連合軍VS枢軸国)を持ち出し、アメリカのナショナリズムを鼓舞していたとも云える。
金庫が開扉。犯人グループは救命員に扮し、ビルから脱出しようと計画。
脱出用の救急車を準備していたテオに、アーガンがリムジンごと突っ込こむ。
アーガンは最後に素手でテオを殴り、気絶させている。
「文明の利器」を上手く使いこなすテオも、昔ながらのやり方に叶わなかったという皮肉であろうか。
最後にハンスがジョンに撃たれ、窓から落下。ハンスはホーリーの腕を掴み、道連れにしようとする。
ジョンはホーリーの体を支え、阻止する。
ハンスが宙ぶらりんになりながら銃を構えた瞬間、ジョンはホーリーが腕にはめていた腕時計(ナカトミから貰った時計)を外す。
時計が外れた事で、ハンスの手がホーリーから外れる。
ハンスが驚きの表情で、ビルから落ちるシーンが印象的。
これが前述した、腕時計の重要な役割。
ハンスがビルから落ちた際、ビルから米国債が落ちてくるシーンが又印象的。鮮やかともいうべきか。
ジョンと格闘の末、死んだと思われていたカールが、マシンガンを持ちマクレーン夫妻の前に立ちはだかる。
昔、13歳の少年を誤射。それ以来、銃を撃てずにいたアルが銃を撃ち、カールを射殺する。
事件解決後、アーガンがビルからリムジンで軽快に飛び出してくるシーンも、なかなか面白い。
その時流れる曲「Let it snow」が、何か爽快に聞こえる。パウエルが巡回中に歌っていた曲。
追記
1970年代~1980年半ば迄、アメリカ映画のヒーローと云えば、古くは「ジョン・ウェイン」に代表されるような、大きくてマッチョのタフガイのイメージだった。
そのイメージを繋ぐ形で「ロッキー・ランボー」で有名な「シルベスタ・スタローン」、「ターミネーター」の「アーノルド・シュワルツェネッガー」、「沈黙シリーズ」の「スティーブン・セーガル」などがスターダムに躍り出た。
ダイ・ハードのジョンの様なヒーローが出現した時は、画期的だった。
普通で何処にでもいる刑事が、大事件に巻き込まれ、警察組織の人間に煙たがられながらも、やや単独的に事件を解決していく姿が。
自らが英雄として事件に立ち向かうのではなく、半ばいやいやながら偶発的に事件に巻き込まれる。
今までのヒーロー物の様に、力ずくで相手をなぎ倒して行く訳でない。
主人公は悪戦苦闘し乍、頭を使い犯人を倒していくストーリが珍しい。
敢えて似たような英雄を過去の映画で例えれば、「荒野の七人」のユル・ブリンナーであろうか。
今迄にないヒーローの誕生。
日本で似たアニメを挙げれば、『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイ少年に近い。
文中で何度も述べているが、当時のアメリカ経済を象徴するシーンが幾度も見受けられる。
日本経済の台頭で、アメリカ経済が圧迫されている様子が暫し垣間見られる。
今で言えば、米中貿易摩擦で対立している状況が同じであろうか。
映画が大ヒットして、後に2、3シリーズと続く。
因みにパート4もあるが、その頃は既にシリーズ自体の興味が失せ、見ていない。
理由は、間が空きすぎたシリーズ物は、大概外れの可能性が多い為。
あの『ゴッド・ファザー』ですら、パート4では間が開き過ぎ、味気のない作品に仕上がっていた。
あまり間(時間)が空けば、興味も失せると云う事だろうか。
(文中敬称略)