要らない自慢をして、回り道をした話 芥川龍之介『犬と笛』

★芥川龍之介短編小説

 

・題名     『犬と笛』

・原作      芥川龍之介

・新潮社     新潮文庫

・昭和43年   11月発行

・大正 8年   1月発表(1921年)【赤い鳥】

 

登場人物

◆髪長彦

葛城山の麓に住む、若い木樵。顔形が女性の様に優しく、髪も女性のように長い為、付けられた名前。笛の名手。

 

◆葛城山の足一つの神

山奥の洞穴に住む神。髪長彦の笛の聴き惚れ、お礼として白犬を髪長彦に与える。

 

◆白犬

葛城山の足一つの神から、髪長彦に与えられた白犬。嗅覚が優れどんな処でも嗅ぎ出すのが得意。

 

◆葛城山の手一つの神

葛城山の足一つの神と同じく山奥の洞穴に住む神。葛城山の足一つの神と同様、髪長彦の笛に聴きほれ、お礼として黒犬を髪長彦に与える。二人は兄弟。

 

◆黒犬

葛城山の手一つの神から、髪長彦に与えられた黒犬。空を飛ぶのが得意な犬。

 

◆葛城山の目一つの神

上記に登場した二人の神の末弟。二人の兄の神と同じく、髪長彦の笛に聴き惚れ、斑犬を髪長彦に与える。

 

◆斑犬

葛城山の目一つの神から、髪長彦に与えられた斑犬。どんなものでも嚙み切るのが得意な犬。

 

◆飛鳥の大臣

飛鳥の大臣で娘二人を持つが、二人とも鬼神にさらわれる。その後、髪長彦に二人の娘を助けられる。

 

◆大臣の御姫様(姉)

飛鳥の大臣の娘。生駒山の洞穴に住む食蜃人に捕らわれていた処を、髪長彦に助けられる。

 

◆大臣の御姫様(妹)

飛鳥の大臣の娘。笠置山の洞穴に住む土蜘蛛に捕らわれていた処を、髪長彦に助けられる。

 

◆生駒山の洞穴に住む食蜃人

生駒山の洞穴に住む食蜃人。飛鳥の大臣の御姫様(姉)をさらうが、3匹の犬を連れた髪長彦に退治され、斑犬にかみ殺される。

 

◆笠置山の洞穴に住む土蜘蛛

笠置山の洞穴に住む土蜘蛛。飛鳥の大臣の御姫様(妹)をさらうが、3匹の犬を連れた髪長彦に退治され、斑犬にかみ殺される。

 

◆二人の若侍

鬼神にさらわれた飛鳥の大臣の姉妹の御姫様を探しに行くが、見つからず途方に暮れていた時、2人の姫を救出した髪長彦の出会い、笛を奪い手柄を横取りする。しかし後、髪長彦が現れ悪事が発覚。追放される。

 

作品概要

大和の国(現在の奈良県)葛城山の麓に髪長彦と云う木樵が住んでいました。

髪長彦はたいそう笛の名手で、仕事の合間に、山で笛を吹いていた。

 

ある時、髪長彦が笛を吹いていると山に住んでいた3人の神が、髪長彦の笛に聴き惚れ、お礼としてそれぞれの神が、3匹の犬を与えた。

犬にはそれぞれ「嗅覚が優れている、空を飛べる、噛み切る事が得意」等の特技があった。

 

髪長彦3匹の犬と道を歩いていると、2人の若侍に出会った。

2人の若侍から、飛鳥の大臣の御姫様が鬼神にさらわれた事を聞く。

 

髪長彦は良い事を聞いたと思い、3匹の犬を使い、御姫様の奪還に向かった。

姫の居場所を突き止める為、白犬に姫の匂いを嗅がせた。

 

暫く匂いを嗅いでいた白犬がやがて、姫は生駒山の洞穴に住む食蜃人に囚われの身になっている事を嗅ぎ付けた。

髪長彦は白犬の話を聞き、今度は空が飛べる黒犬に跨り、2匹の犬を両脇に抱え、生駒山まで飛んでいった。

 

髪長彦が生駒山に着くと、成程御姫様が洞穴のなかで、しくしく泣いていた。

髪長彦は御姫様に話かけ、今度は斑犬に命じ、食蜃人をかみ殺させ退治した。

 

退治したと同時に、生駒山の住み食蜃人に苛められていた同じく生駒山に住む、駒姫に感謝された。

大臣の姫を助けた後、姫が云う事には、姫には妹がいて、妹も又何処かの鬼神に連れ去られているとの事。

 

髪長彦は同様に白犬に妹の匂いを嗅がせ、妹の居所を突き止めさせた。

すると白犬は、笠置山の洞穴に住み土蜘蛛に囚われの身になっている模様。

髪長彦は再び黒犬に跨り、姫と2匹の犬を連れ笠置山に飛んでいった。

 

笠置山に住む土蜘蛛は悪知恵が働き、髪長彦と姫、更に3匹の犬を洞穴に閉じ込めてしまった。

そこで髪長彦は自慢の笛を吹いた。

土蜘蛛は思わず笛に聞き惚れ、僅かに洞穴を塞いだ大岩を開けてしまった。

 

すかさず今度は斑犬が素早く隙間から這い出し、土蜘蛛を瞬く間に噛み殺してしまった。

其の後、土蜘蛛に苛められていた笠置山の笠姫が、土蜘蛛を退治した髪長彦にお礼を述べた。

 

二人の姫を助けた髪長彦は二人の姫を連れ、飛鳥の大臣の許へと飛び立った。

その時二人の姫は髪長彦に気付かない様に、自分達が差していた金と銀の櫛を髪長彦の髪に刺した。

 

飛んでいる途中の空から、以前髪長彦が道で出会った二人の若侍が見えた。

 

髪長彦は馬鹿にされた腹いせだろうか。急に自分の手柄を自慢したくなり、二人の若侍の許に降り、自分の手柄を自慢した。

 

髪長彦の話を聞いた若侍たちは、羨望と嫉妬に苛まれた。

二人の侍は手柄を横取りしようと企み、髪長彦から笛と犬を奪い、逃走した。

 

笛と犬を奪われた髪長彦は途方に暮れていた。

その様子をみていた(先程、食蜃人と土蜘蛛を退治して貰った)生駒山の駒姫と笠置山の笠姫が現れ、食蜃人を退治して貰ったお礼として、二人の侍達から笛を取りあげてきた。

 

笛を手に入れた髪長彦は、再び3匹の犬を呼び寄せ、飛鳥の大臣の許へと向かった。

飛鳥の大臣の屋敷に現れた髪長彦は、「大臣に二人姫を助けたのは、私だ」と主張した。

 

さて、どちらの言い分が正しいか決めかねた大臣は、娘たちに真偽を問うた。

すると娘たちは口を揃え、自分達を助けたのは、髪長彦だと答えた。

その証拠として、自分達が髪長彦に内緒で髪長彦に差した金と銀の櫛の在処を示した。

 

二人の姫の証言通りであった為、髪長彦の証言が証明され、二人の侍は追放。

後に髪長彦はどちらかの姫と結婚して、末永く幸せに過ごした。

 

要点

髪長彦が笠置山の土蜘蛛に洞穴に閉じ込められた時、笛を吹いて土蜘蛛の注意を引き、洞穴を開けさせた話は、おそらく天照大神(アマテラスオオミカミ)の「天の岩屋戸の雲隠れ」を基にしたものと思われる。

 

敢えて教訓を述べるならば、

「自分の功績・手柄を自慢して人に話してはならない」

と言う事。

 

髪長彦が若侍に馬鹿にされた腹いせに、二人の姫を助けた手柄を自慢した事が、少しばかり遠回りをさせた結果となった。

人に自慢などせず、そのまま飛鳥の大臣の許に行きさえすれば、一時的にせよ手柄を横取りされる事はなかった。

 

同じ出来事が、過去の歴史にもある。

時は戦国時代末期、関ヶ原の戦いでの出来事。

 

東軍(徳川家)が西軍(豊臣家)と戦う直前、山内一豊と云う武将が軍議の場にて、或る妙案を諸将の前に披露。徳川家康に献策した。

其の案は見事に家康に用いられ、関ヶ原の勝利後、山内一豊は大手柄として沢山の恩賞を与えられた。

 

実は一豊の献策した案は、一豊本人が考え付いたものではない。

軍議の前に他の武将(堀尾忠氏)が考えた案を、ちゃっかり自分の案として発表したものだった。

つまり、他人の案を盗用したもの。

 

しかし世の中、誰の案であろうが先に云った者の勝ち。

一豊は歴史の勝者となり、一豊に案を盗まれた武将(堀尾忠氏)は、其の後、大した恩賞も貰えず、早逝した。

 

今回の作品は、姫の機転で髪長彦は危うく難を逃れたが、いつもそうなるとも限らない。

寧ろ世の中、報われない事が多い。

良い案は人に漏らすな。

今回の作品の最も重要なテーマかもしれない。

 

最後に疑問として、何故二人の姫は髪長彦が現れる迄、何故自分の父親に、若侍の悪行を口上しなかったのであろうか。

その点だけは不思議と思われる。

 

(一部敬称略)