時代を越えた不朽の名作 ヘップバーンの『ローマの休日』
★不朽の名作、オードリー・ヘップバーン主演
・題名 『ローマの休日/Roman Holiday』
・公開 1953年米国
・配給 パラマウント映画
・監督 ウィリアム・ワイラー
・製作 ウィリアム・ワイラー
・脚本 アイアン・マクラレン・ハンター
ジョン・ダントン
目次
出演者
◆ハーネスト・アン王女 : オードリー・ヘップバーン
◆ジョー・ブラッドリー : グレゴリー・ペック
◆アービング・ラドビッチ : エディ・アルバート
◆大使 : ハーコート・ウィリアムズ
◆ビアバーグ伯爵夫人 : マーガレット・ローリングス
◆理髪師マリオ・デ・ラーニ : パオロ・カルリーニ
◆将軍 : トゥリオ・カルミナティ
◆ヘネシー支局長 : ハートリー・パワー
あらすじ
ヨーロッパ某国、アン王女(オードリー・ヘプバーン)は、ヨーロッパ各国を親善外交として訪問中。
多忙なスケージュールの為、多少お疲れの気味の様子。
最終訪問先のローマを訪れた時は、既に杓子定規の挨拶・立ち振る舞いにうんざりしていた。
アン王女は疲労も重なり、とうとうヒステリーを起こしてしまう。
主治医から鎮静剤を打ってもらい寝ようとするが、なかなか寝付かれない。
ホテルの窓からローマの街を覗けば、とても楽しそうな雰囲気。
アン王女は、こっそりホテルを抜け出す事を計画して、首尾よく脱出に成功する。
脱出したのは良いが、先程打ってもらった鎮静剤が効いたのか、ローマ市内のベンチで眠りいってしまう。
ベンチで眠っていると一人の男性が通りかかった。
新聞記者のジョー(グレゴリー・ペック)である。
ベンチで寝ている女性をそのままにして見過ごす訳にも行かず、ジョーはタクシーでアン王女を送る事にした。
しかしアン王女は意識が朦朧として要領を得ない返答をする。
仕方がなくジョーは、アン王女を自宅につれていく。
一夜明けた後、ジョーは自分が連れてきた女性がアン王女だと悟る。
ジョーは特ダネを取ろうと計画。
カメラマンのアービング(エディ・アルバート)を誘い、アン王女のローマ市内の観光に連れ出す。
アン王女は見る物すべてが珍しく、興味深々。行く先々でいろいろな問題を起こす。
しかし何故か憎めない。
ジョーは初めは特ダネのつもりでアン王女に付きあっていたが、ジョーは王女の屈託ない笑顔と行動に次第に惹かれ始める。
一方某国では、アン王女が行方不明になったとの知らせを聞き大騒ぎ。
本国から大勢の捜査員(SP)が派遣された。SPは必死にローマで、アン王女を探し始めた。
船上パーティー場でSPとのドタバタ騒ぎの末、長い一日が終わった。
アン王女とジョーの短い恋の物語は、終わりを告げる。
ジョーがアン王女を車で送り、アン王女が道の角を曲がった瞬間、二人は再び現実の世界に引き戻された。
翌日の記者会見で二人は何事もなかったかの様に対面する。
何気ない記者会見のやり取りが、実はアン王女とジョー記者の個人的な会話になっている処が、面白い。
見所
見所がなんといってもヘップバーンの可憐さと美しさ。
アン王女を演ずるヘップバーンが、ローマの各観光名所を巡るシーンは最高の見所。
ヘップバーンが運転するベスパ(イタリア製のバイク)が、ローマ市内を走るシーンが愉快。
何か初めて自転車に乗った時の様な仕草に似ている。
運転中、いろいろな人にトラブルを巻き散らすのも何か憎めない。
「真実の口」では、グレゴリー・ペックがアドリブで、本当に手を噛み切られた様に演じた。
ヘップバーンは事前に何も知らされておらず、本当に嚙み切られたと思い、びっくりしていた。
映像からもリアリティーが伝わるシーン。
船上パーティーのドタバタ劇後、ジョーのアパートに服を乾かしている間、別れを惜しむ二人の会話が切ない。見所の一つ。
アン王女を送る為、車中での別れのシーンも然り。
アン王女が車を降り、道の門を曲がった瞬間、二人の短く切ない恋は終わりを告げた。
二人は又、いつもの現実の世界に引き戻された。
翌日記者の会見で他の記者がヨーロッパ各国の関係をアン王女に尋ねた際、アン王女が記者の質問に答えるシーンがあるが、それはジョー記者に対するアン王女が個人的に投げ掛けた言葉と推測される。
「私は人々の友情を信じますと」答えたのは、ジョーに投げかけた言葉。
つまり
「昨日の出来事は二人だけの秘密にしましょうね」
と言ったメッセージと思われる。
その返答にジョー記者は
「これ以上、信頼が裏切られる事はないでしょう」
アン王女に対する、個人的なジョー記者の返答。
記者会見の最後の写真撮影でカメラマンのアービングが、ライター型の隠しカメラで昨日の種明かしをするのが又笑える。
茶目っ気充分。
更に握手の際、昨日の写真を渡す場面も。
他の記者が「一番気に入った訪問先は」との質問に、普通は社交辞令で「全てです」と答えるものだが、アン王女は一瞬言いかけたが、即座に素直な気持ちで「ローマです」と返答した。
それは直接言葉は交わしていないが、アン王女がジョー記者に対する感謝を表した言葉。
最後にアン王女がジョー記者を見た際、さりげなく笑いながら「さよなら」呟きながら、泣き顔になっている処が現在のアン王女の率直な心境。
ジョー記者も名残惜しそうに、記者会見場を後にする。
ジャンルにもよるが、名作といわれる作品は、映画を見終えた時、何も言葉がない。
感想を言葉で表せないのが特徴かも知れない。
映画全体の流れが良すぎ、批評や突っ込み処がないとでも言うのであろうか。
逆説的に言えば、あまりテーマやメッセージ性がないとも言えようか。
見た人全てが、楽しめる映画と言える。
非の打ち処がないとでも言えば良いであろうか。
今回の映画は、誰が見ても最後は必ず満足する映画と思われた。
追記
映画出演が決まった時、ヘップバーンは当時まだ無名の存在だった。
イギリス映画の端役に出演した程度だった。
無名だったヘップバーンを、ウイリアム・ワイラーは映画の主役に抜擢した。
映画は見事に当たり、ヘップバーンは一躍、スターダムにのし上がった。
ジョーとアン王女が乗るバイクは、ローマ(イタリア)の為、当然「ベスパ」。
アン王女がホテルから脱出する際、ワインを運ぶ車の荷台から見たカップルのバイクも当然ベスパ。
ベスパが登場する日本の有名なTV番組は、日テレ系列で放送された松田優作主演の「探偵物語」。
あの「工藤ちゃん」が、颯爽とベスパに乗って活躍するシーンを覚えている人も多いのでは。
劇中の使われている英語には殆どスラングがなく、聞き取り易かったのではないかと思う。
王女という設定も関係しているが。聞いていても理解し易い。
英語の学習教材として最適かもしれない。
若い方には白黒映画であれば、最初から見るのを躊躇う人もいると思う。
嘗て自分がそうであったように。おそらく生まれた時から、カラー映像に慣れ親しんでいたであろう。
しかし歳を取れば不思議と、違和感がなくなる。
何故であろうか。理由を考えて見た。
考えた末の結論は、人間というものは歳と供に、次第に記憶が薄れていく。
薄れていくに従い、記憶が曖昧で、途切れ途切れになる。
その様な状態は、白黒映像の曖昧さに何か似ている。
虚ろな状態とでも言おうか。白黒は人間の曖昧な記憶の象徴とも言える。
今回の舞台ローマは、古い歴史がちりばめられた街。
歴史を感じさせる街であるからこそ、古いイメージを醸し出す意味で、白黒映像がマッチしているのではないかと思う。
観光名所が白黒で映された映像を見た時、逆に悠々な歴史を深さを感じた。
勿論、当時カラー映像は存在していた。
1939年作:「風と共に去りぬ」では、既にカラー映像が使われている。
因って製作者の意図により、敢えて白黒映像にしたのではないかと思われる。
白黒映像であるが故に、月日を重ねる毎に、益々映画に深みが増すのではないかと思われた。
※この作品は著作権が終了し、パブリック・ドメインとなっています。
You Tube等で検索すれば、おそらく誰でも無料で視聴が可能と思われます。
(文中敬称略)