忘れ去られた男の美学 ハンフリー・ボガード主演『カサブランカ』

★懐かしい洋画、ハンフリー・ボガード主演
・題名 『カサブランカ』
・公開 1942年 米国
・配給 ワーナー・ブラザーズ
・監督 マイケル・カーティス
1942年と云えば、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。
勿論、私は生まれてません。ブログを見ている方も、数名かもしれません。
それ程古い映画「カサブランカ」。いまから約77年前。
それだけの長い年月を経ても、全く色褪せない映画と言えるかもしれません。
何故でしょうか。
それは長い年月を経ても変わらないもの。
そして映画中で見られる数々の名台詞、シーンのせいではないでしょうか。
今回、数ある名セリフ・シーンを改めて見てみたいと思います。
目次
登場人物
◆リック・ブレイン : ハンフリー・ボガード
◆イルザ・ラント : イングリッド・バークマン
◆ビクター・ラズロ : ポール・ヘンリード
◆ルノー警察署長 : クロード・レインズ
◆サム : ドーリー・ウィルソン
◆シュトラッサー少佐 : コンラート・ファイト
◆フェラーリ : シドニー・グリンストリート
◆ウガーテ : ピーター・ローレ
あらすじ
第二次世界大戦中、ナチスドイツに占領される寸前のパリ。
そのパリを脱出し、モロッコのカサブランカを目指す男女(リックとイルザ)。
脱出する為、駅で待ち合わせをするが、女(イルザ)は来ない。ただ置手紙だけを残し消えてしまった。
残された男(リック)は、パリで酒場の従業員(サム)と2人で、カサブランカに逃げ延びる。
カサブランカでリックは、バーを経営していた。
或る日、いなくなったの女(イルザ)が、男(ラズロ)を連れ、パリで別れた男(リック)の経営するバーに現れた。
女はパリにいた時、既に結婚していた。夫(ラズロ)は、反ナチ運動の指導者だった。
反ナチ運動の為、ナチスに捕まり、強制収容所にいた。
絶望に打ちひしがれていた時、男(リック)に出会い、恋に落ちてしまったと告白。
決して傷つける意思はなかったと訴える。
男女3人の気持ちが複雑に絡みあい、物語は展開していく。
リックは葛藤に悩まされるが、最後はイルザを許す。
反ナチ運動の支援。2人をアメリカに逃がして物語は幕を閉じる。
リックは2人のアメリカ行きの飛行機を見送った。
其の後、いつも惚けたような態度をしていた警察署長と思わぬ展開をみせ、映画は終了する。
終り方が意外性を帯びて、興味深い。
作品経過・要点
酒場でのリック
リックはパリで、バーを経営していた。
パリ在住の際、戦争が勃発。其の後、ドイツ軍がパリに進駐した。
ドイツ軍がパリを占領する前日、リックとイルザは、ピアノ弾きのサムと供にパリを捨て、カサブランカに逃げようとしていた。
2人はパリの駅でおち合う約束をするが、最終列車が出る間際になれどもイルザは来ない。
イルザが宿泊していたホテルにサムに様子を見に行かせたが、イルザは既に立ちさった後だった。
リックに、別れを告げる手紙を残し。
リックは失意のまま、パリを立ち去った。其の後二人は、カラブランカに落ち延びた。
苦労しながらリックは店を切り盛りし、今ではカサブランカで1、2位を争うにまで店を繁盛させた。
成功を収めたリックは当地では、そこそこ名の知れた人物となった。
或る日、常連客のウガーテがやって来た。ウガーテは何かそわそわした様子。
彼は突然リックに対し、少しの間あるモノを預かってくれと頼んだ。
リックは初めは訝るが、預かり物とは、砂漠で殺害された2人のドイツ人特使が所持していた通行証だった。
通行証をある人物が、莫大な金を出し買いに来る。それまでの僅かな間、預かってくれという頼みだった。
ウガーテの頼みを聞き、リックは咄嗟にドイツ人特使の殺人犯がウガーテだと悟った。
頼みを聞き入れ、通行証を預かった。
リックは元来、もめごとが避ける性格。
常に何事においても中立的立場・態度を装い、どこか皮肉めいた処があった。
後に判明するが、それは表向きの顔。本当は、センチメンタルで弱者的立場に味方をする人物。
それは後程述べる。
リックは、いつもは軽い軽蔑の目でウガーテをみていたが。
しかし今回は、特使を殺害して通行証を手に入れたウガーテを見直し、渋々頼みを引き受けた。
酒場で印象深いシーンと台詞
劇中のウガーテとのやりとり迄、何度か印象深いシーンや台詞が登場してる。
具体的に取り挙げてみたい。
①酒場内で宝石の売買をしている事。
この時代、カサブランカはフランス領だった。欧州が戦争中で、市民は戦火を逃れる為、カサブランカに集結。
カサブランカを中継地とし、リスボン経由で米国に逃避していた。
逃亡者はビザの許可を待つ為、カサブランカで足止めを喰っていた。
中には密航する者、金でビザを買う者、生活費に困る者もいた。
逃亡者の資金稼ぎの為、宝石売買が横行していた。
劇中では、密売人に買い叩かれている婦人の様子が描かれている。
②リックのドイツに対する、さりげない抵抗
酒場に設置されたカジノにドイツ人が入ろうとするが、立ち入り禁止にする。
更に酒場で使われた、ドイツ人の小切手を破り捨てる。
③自分の好意を持つ女性に対するそっけない態度
自分に好意を寄せる女性(イボンヌ)に対対し、そっけない態度をとる。
その時の台詞が素晴らしい。
女性がリックに尋ねる。
リック :「そんな昔の事は忘れた」
イボンヌ :「今夜、あえない?」
リック :「そんな先の事は分からない」
格好いいですね。男なら一度は言ってみたい台詞。
リックが小切手にサインをし乍ら、視線を合わせないで呟く処が、またイイ。背中で会話をするというのだろうか。
この場面で既に、劇中でリックと云う人間のイメージが理解できる。
ウガーテ逮捕される
ウガーテを逮捕する為、カサブランカを統括するフランス人署長、ルノーが現れた(いかにも仏人らしい名前、車を想像する)。
同じく逮捕劇を監視すべく、ドイツ軍人少佐、シュトラッサーも現れる。
・ルノーは、リックに忠告する。
「捕まえる際、決して逃走の手助けをするな」
・リックが呟く。
「俺は揉め事はごめんだ。関係ない。政治的に中立だ」
リックはバーでは決してお客さんと一緒に酒は飲まない、政治の話はしないと言うポリシーを持っていた。
だから今回も関係ないと。
ウガーテは、あっけなく逮捕された。
逮捕される寸前、ウガーテはリックに助けを求めたが、リックは冷静に撥ねつけた。
ウガーテが連行後、近くにいた男がリックに対し、さりげなく呟く。
「今度自分が捕まる時、助けて欲しいものだね」
要するに、リックの素っ気ない態度に対し、皮肉を込めて述べた言葉。
リックのバーに現れた、イルザとラズロ
ウガーテの逮捕後、何事もなかったかの如く、バーは平静を取り戻す。
その後、イルザとラズロが店に入って来た。2人は先程の逮捕劇など、全く知らない。
ラズロは、ウガーテを探すが見つからない。
キョロキョロするうちに、ラズロに近づく男がいた。
男は宝石ビジネスをする振りをしたが、実は反ナチのレジスタンス。
男は宝石売買すると見せかけ、ラズロにウガーテが既に捕まった事実を知らせた。
2人のやり取りの最中、ルノーが2人に近づく。
男(レジスタンス)は立ち去り、ルノーとラズロは挨拶を交わす。
ルノーは言葉こそ丁寧だったが、ラズロにさり気なく
「あなたは監視対象人物です。お気を付け下さい」と云わんばかりの態度だった。
更に明日、署に出頭するよう、ラズロに告げた。
ラズロがレジスタンスと会話中、イルザは店内のサムの存在に気づいた。
くり返すがサムは、リックとイルザがパリを脱出する寸前まで一緒にいた人物。
当然二人は、顔見知りだった。
サムとイルザの会話
イルザはボーイに、サムと会話できるよう頼んだ。
サムはイルザが店に入って来た時から、イルザの存在に気づいていた。
2人の会話が興味深い。
イルザ :「サム、お久ぶりね」
サム :「そうですね、いろいろな事がありました」
イルザ :「リックはどこにいるの?」
サム :「さあ、わかりません。今夜はあってません」
イルザ :「いつ戻ってくるの?」
サム :「今夜はこないでしょう。家に帰ったのかも」
イルザ :「こんなに早く」
サム :「そうですね、女がいるんです。きっと女の処にいったのでしょう」
イルザ :「サム、嘘が下手になったわね」
サム :「あなたはリックに不幸を招くお方だ。 そっとしておいて下さい」
一瞬、サムの言葉にイルザがたじろぐ。しかし気を取り直し、イルザはサムに言う。
イルザ :「サム、あれ弾いて。昔の曲」
サム :「何のことかわかりません」
イルザ :「昔のあれよ。時のゆくまま/As Time Goes By」
サムは一度は断るが、観念したようにピアノを弾き、曲を歌い出す。
実はこの曲は、忌まわしい過去の為、リックから今後は弾かないように厳命されていた。
サムが弾いている曲を聴きいたリックは
カジノ部屋から出てきたリックは、嘗て封印した曲をサムが弾いているのを聴き、驚いてサムに近寄った。
リックは叫んだ
「サム、その曲は弾くなと云った筈だ」と。
サムが目くばせをする。
目くばせした先には、嘗て互いに愛し合いながら、何も理由を告げずに立ち去ったイルザの姿があった。
互いに思いもよらぬ再会。
2人は驚き戸惑いを見せるが、必死に冷静さを保とうとする。
やがて2人のテーブルに、ラズロとルノーがやって来た。
2人は関係を悟られまいと、必死に取り繕う。
ラズロは瞬時に、2人の関係に気づいた。
シリアスな3人とは対照的に、ルノーが惚けたピエロ役を演じているのが滑稽。
暫く4人で談笑するが、夜も遅いとの理由で、2人はホテルに帰る。
2人が帰った後、ルノーが何故か思わせぶりな顔になるのが、印象的だった。
バー閉店後、荒れるリック
普段はニヒルでダンディに決めているニックも、やはり人の子だった。
全く予期せぬ出来事。
理由も告げず自分の許を立ち去った女が、突然自分のバーに現れた為。
それも男連れで。
リックが呟く
「世界に沢山のバーがある。何故かイルザは俺の店にやってきた!」
大抵の男であれば、怒り取り乱すのも無理はない。酒を飲んでくだを巻くリック。
サムは必死に宥め、励まそうとした。
「もう過去の事であり、忘れましょう」、「しばらくカサブランカを離れましょう」と。
サムはリックを励まそうとピアノを弾いた。
リックの頭の中で、パリでのイルザとの淡い恋の記憶が蘇った。
パリで別れたシーンも同時に。
回想に耽っていた時、突然ホテルに帰ったイルザが、ドアの前に現れた。
イルザはリックに対し、何故理由も告げず別れたのかを説明しにやって来た。
イルザがリックの許を立ち去った理由とは。
イルザの弁明
イルザはパリにいた際、既に結婚していた。夫は反ナチの指導者、ビクター・ラズロだった。。
夫はナチに捕まり、強制収容所に送られた。イルザは、夫は死亡したと聞かされていた。
イルザは悲しみに打ちひしがれていた時、リックと出会った。
自分は心の隙間を埋めるかの様に、恋に落ちてしまったとリックに話した。
リックとパリから逃げ延びる為、駅でおち合う約束をした。
しかしホテルに戻った際、ラズロが生きていて、怪我をしてパリ郊外にいるという連絡が入った。
連絡を聞いたイルザはラズロを見捨てる事が出来ず、仕方なくリックと別れたと告げた。
理由を説明したイルザだが、リックはイルザの言葉を冷静に受け入れる事ができなかった。
酔いも手伝ってだろうか、自嘲気味に更に、半ばからかいながらイルザに話掛けた。
「まるで安っぽい小説だね」と。
リックの言葉と態度に居たたまれなくなったイルザは、その場を立ち去ってしまった。
カサブランカの実力者「フェラーリ」の店で
ラズロとイルザは翌日、警察署に行きルノーとシュトラッサーの尋問を受けた。
尋問中、昨日逮捕されたウガーテが獄中で亡くなった事を知らされた。
更にルノーは、自分が出国の許可サインをしない限り、カサブランカを出る事が出来ないと告げる。
まともに出国できないと知ったラズロとイルザは、通行証を求めて闇市に向かった。
闇市のボスは「フェラーリ」。二人は、彼の許に行けば手に入るのではないかとの情報を得た。
2人は通行証明を求め、フェラーリの店に向かった。
フェラーリの店では、商談中のリックがいた。
フェラーリは、ウガーテは通行証を持っていなかった。その為、逮捕される直前にリックに預けたと睨んでいた。
フェラーリはそれとなく尋ねるが、リックはさり気なく躱した。
会話中、窓からラズロが店に来るのが見えた。リックは立ち去ろうとした。
リックは出入口付近でラズロに出会った。リックはラズロが店に来た目的を知っていた。
その為、さり気なくラズロに、フェラーリの居場所を教えた。
そのシーンが何気に面白い。
店外でイルザが待機していた。リックはイルザに対し、昨夜の非を詫びた。
イルザも再会があまりに突然だった為、気が動転していたとリックに告げる。
イルザは改めて、パリでリックに出会った時、既に結婚していた事を告白する。
リックが立ち去った後、ラズロ・イルザ・フェラーリの3人は、通行証の件で話合った。。
フェラーリが云うには、イルザ1人なら何とか出国できるが、ラズロは無理だと告げた。
理由はドイツ軍の監視がある為、ラズロは出国は出来ないと。
しかしフェラーリはこの時、重要な手がかりを2人に与えた。
ウガーテは逮捕される寸前、おそらくリックに通行証を預けたのではないかと。
「あたってみる価値はある」と、2人に助言した。
再びリックの店で
突然の再会から2日目、リックの酒場では急展開を見せた。
此処では、見所も満載。
昨夜リックにすげない態度を取られた女性(イボンヌ)が、これ見よがしにドイツ軍人と一緒に店にやって来た。
態と陽気に振舞い乍。後にも影響する為、先に触れておきたい。
リックは今迄のルールを破り、自分で酒を飲んで居る状態。
既にルノーとシュトラッサー、付き添いのドイツ軍人等が酒場にいた。
其の後、ラズロとイルザがやって来た。
映画の本筋と少し離れるが、面白い場面が織り込まれている。
その場面とは。ニックの隠れた人柄が描かれている為、書き綴ってみたい。
さりげないリックの優しさ
ブルガリア出身の若い夫婦が他の人と同様、カサブランカ足止めを喰らっていた。
2人は所持金がない為、通行証が買えなかった。2人は通行証の資金を、カジノで稼ごうとした。
しかし夫はカジノで惨敗。途方に暮れていた。夫人はリックに相談した。
リックに今迄の経緯を説明し、ルノーが信用に足るべき人物か、リックに相談した。
ルノーはお金がないが、場合によって何とかしてやれない事もないと、夫人に交渉を持ち掛けていた。
リックは、
「私には関係ない。2人でブルガリアに帰りなさい」と忠告する。
女性は涙乍らに訴えた。
「ドイツ軍に占領されたブルガリアには帰りたくない」と。
リックはそっけなく話を打ち切り、立ち去った。
そのまま見捨てるのかと思いきや、リックはカジノに行った。
リックはカジノで、女の夫に近づいた。
女の夫は負けが続き、お金が尽きかけていた。
・リックが男に近づき、そっと囁いた。
「22番に賭けなさい」
リックの言葉を聞いたディラーは、22番にルーレットが止まる様に手配した。
男はリックが囁いた番号にかけ、大儲けした。
・更にリックは囁く。
「同じ番号に賭けなさい」
またディラーが、同じよう手配した。
・リックが囁く。
「チップをお金に換えて、二度と来るな」
二回の大勝ちで男は、通行証が買えるだけの大金を手にした。
要はイカサマである。
リックはイカサマで、ブルガリア夫妻に通行証が買えるだけのお金を稼がせた。
その様子を見ていた夫の妻と店の支配人は大喜び。
何故なら、あぶく銭を若い夫婦の将来の為に遣った為。夫人はリックに感謝した。
その時のリックが発した言葉は
「彼は運が良かっただけだよ」。何とも言えない、カッコいい瞬間ですね。
リックと、ディラーとの会話がまた粋。
リック :「どうだい、儲かってるかい?」
ディラー:「今の負け分以外は」
リックの行為に、快く思わない人物が一人いた。
ルノーである。
ルノーは遠巻きに一部始終を眺め、自分の計画の当てが外れ、邪魔をされたと気づいた。
ルノーは、皮肉を込めてリックに云った。
「君はやはりセンチメンタリストだ」と。
因みにブルガリア夫婦は、映画冒頭、さりげなく登場している。
ドイツ軍機が、空港に降り立つ場面の際。
リックとラズロの会話。酒場での出来事
フェラーリから話を聞いたラズロは、リックと2人で直接話をしたいと申し出た。
リックは承知し、二人は事務所で話をする。
お金は幾らでも出すと提案する。
しかしリックは断った。お金の話ではない。理由は奥さんに聞いてみなさいと。
2人が事務所で会話を交わしている最中、酒場ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
ドイツ軍人たちがサムのピアノを占領。ドイツ愛国歌『ラインの守り 』を歌い始めた。
その様子を、ルノーとイボンヌが苦々しく見つめる。
ドイツ軍人たちが唄うのを聴いたラズロは、店のバンドマンたちの傍に駆け寄り、フランス国歌『ラ・マルセイエーズ』を演奏する様、命令する。
バンドマン達は一瞬たじろいだが、リックが目配せをした。バンドマンたちは、演奏を始める。
此のシーンは、一種の見所。
店内に『ラインの守り 』と、『ラ・マルセイエーズ』の合唱対決が始まる。
合唱が始まるや否や、周りの人間が一斉に立ち上がり、『ラ・マルセイエーズ』を大声で歌い始めた。
シュトラッサーは負けじと部下に発破をかけるが、次第に情勢不利となり、ついに諦めた。
ラズロは基より、店内の女性歌手、フランス軍人、他のお客、当てつけにドイツ軍人と一緒にやってきたイボンヌすら、大合唱し始めた。
このシーンは、劇中での印象的なシーンの一つと思われる。
これだけ煙たがられていると気付かされたシュトラッサーは、怒りに満ちルノーに、バーを閉鎖するよう命じた。
ルノーもしぶしぶながらシュトラッサーの命に従い、理由をこじ付け、バーを封鎖した。
この時のワンショットも面白い。
ルノーがこじ付けで、バーを閉鎖するとリックに告げる
リックが
「理由はなんだ」と尋ねる。
ルノーは
「別室で賭博をやっているだろう」と。
するとルノー傍らに先程のディラーがやってきて、ルノーに
「今日の勝ち分です」とお金を手渡す。
ルノーは顔色を変えず
「ありがとう」と言い、お金を受け取る。誠に滑稽なシーンと思われる。
閉鎖後、リックの店で
閉鎖後、リックと店の支配人が今後の経営について話あった。。
その後、支配人は今晩は用事があると言って出かけた。
実は支配人も、レジスタンス。今夜秘密の会合があり、出席する事をリックは知っていた。
知っていても、観て見ぬ振りをしていた。会合には、当然ラズロも参加する予定だった。
支配人が出かけた後、リックは自分の部屋に戻った。
部屋の電気を点けた時、部屋にはイルザが居た。
イルザは通行証を譲って欲しいと懇願する。リックが断ると、リックに拳銃を向けた。
「通行証をよこして。さもなくば撃つ」と。
リックは
「撃つなら撃て」とイルザに告げ、近寄る。
イルザは手が震えリックを撃つ事ができない。イルザは葛藤と緊張感に押しつぶされ、終に断念した。
イルザは、パリの駅に理由を告げず別れた事。今迄の経緯を、全てリックに話した。
話を聞く内に、リックの心の中の蟠りが徐々に氷解。次第に、イルザに同情すら感じ始めた。
やがてイルザが云った。
「私はもうリック、ラズロどちらを愛しているのか分からない」と。
2人の会話中、階下の店で物音がした。
会合に出席していたラズロと支配人が、警察に追われ、命からがら逃げ伸びて来た。
状況を把握し、リックは支配人を呼んだ。
リックはラズロにバレない様、イルザをホテルに送るよう指示した。
ラズロとリックは再び2人で話合う。その会話も又興味深い。
ラズロがリックに云う。
「人には運命と云うものがある。運命にあがらう事はできませんよ」。
更に
「私達は運命的にも同じ女性を愛してしまった。経緯は問題ではありません。ただ妻の安全を確保して欲しい」と。
2人が会話中、警官が店にやってきてラズロの身柄を拘束した。
リックは僅かに、皮肉めいた態度と言動をした。
しかしリック心の中では、或る計画が犇めいていた。
昨夜の喧騒から一夜明け
昨夜の喧騒から一夜明け、リックは警察署のルノーの処に出向いた。
リックはルノーに提案する。
つまりリックはルノーに対し、
「逮捕できる根拠を見つけておくから、ルノーよ一人で俺の店に来い。そうすればラズロを逮捕でき、大手柄だぞ」
という話をけしかけた。
その変わり、「自分はイルザと一緒にアメリカに行くので、見逃して欲しい」との条件も付けるのも忘れずに。
ルノーは取引を承諾した。しかしリックは取引とは違う別の計画を目論んでいた。
フェラーリの店で
警察署をでたリックは、フェラーリの店に向かった。
自分がいなくなった後、サムの去就と報酬。店の行き末を話し合う為に。
リックはカサブランカを去る為、フェラーリに今後の処理を頼んだ。
フェラーリは快く承諾する。
夜、リックの店で
夜、リックの店にルノーがやってきた。
リックはラズロが通行証を買う為、間もなくやって来るとルノーに告げる。
・ルノーが驚いてリックに聞き返す。
「あれだけ店を捜索したが見つからなかった。一体、どこにあったのか」
・リックは答える。
「サムのピアノの中さ」
・再びルノー
「俺は音楽が好きでなかったから,発見できなかったのか」
この会話も何気に粋な会話と言える。
リックはラズロが来るまで隠れているよう指示する。ルノーは事務所に隠れた。
やがてラズロとイルザがリックの店に現れた。勿論リックから、通行証を譲ってもらう為。
イルザはリックと一緒に、カサブランカを出国する心算だった。
ラズロがリックに話掛けている時、隠れていたルノーがラズロを逮捕する為、現れた。
ルノーは窃盗容疑として銃を突きつけ、ラズロを逮捕しようとした。
しかしリックが逆にルノーに銃を突きつけ、斯う告げた。「まだ早い逮捕するのは。もう少しまってくれ」と。
ルノーは初めは理解できなかったが、自分がようやくリックに騙された事を理解した。
リックがルノーに命令する。「今から飛行場に行くため、搭乗の手配をしろ」と。
ルノーは仕方なく受話器を取り、連絡をする。
しかし連絡先は飛行場ではなく、シュトラッサーのオフィスだった。
最後の飛行場で
最後のシーンは、この映画を彩る名セリフと名シーンが満載。
とくにリックとイルザの別れのシーンは、映画史上の名シーン。
色々な場面でも使われている。映像を見れば、見た事がある方も多いと思う。
それ程、名シーン・名セリフが満載。
「カサブランカ映画」で検索すれば、サムネイルで必ず出てくる。
それでは詳しく見てみよう。
4人は車で飛行場に移動した。雨の夜霧の中、飛行場に到着する。
ラズロが荷物を飛行機に乗せる為、3人から離れた。
その間にリックはルノーに、通行証に2人分のサインをするよう命令した。
「通行証に記入する名前は、ラズロとイルザの2人にしろ」と。
イルザ、ルノーは驚いた。
2人ともリックとイルザが、カサブランカを出国するのもと思っていた為。
イルザも店に来た時、その心算だった。
・リックがイルザに告げた。
「君はラズロと一緒に行け。その方が良い」。リックはイルザを説得する。
・イルザ
「私をここから追っ払う気。昨夜、二度と離れないと言った筈よ」
・リック
「そうじゃない。もう君は彼の一部だよ。彼の仕事に君が必要なんだ」
「君がラズロと一緒に行かなければきっと後悔するだろう」
「後悔はおそらく今日、明日ではない。しかし後の人生で何時かきっと後悔する日が来る」
「俺たちにはパリの思い出があるじゃないか」
まだ戸惑うイルザに対してリックは、
「イルザ、自分は決して誠実な男ではない。しかし俺にもしなければならない事がある。君がいたらできない。今のおかしな世の中を、黙って見過ごす事はできない。」
「それを考えれば、私達3人の関係など、取るに足らない問題だよ」
目に涙を浮かべ乍、うつむくイルザの顔をリックは優しくそっともちあげ、
この言葉が、映画の中の一番の名セリフかもしれない。
劇中で既に登場していたが、この場面が一番当て嵌まると思い、今迄説明しませんでした。
(既出場面は、パリでのリックとイルザの回想中)
何故こまごまと詳しくセリフを明記したのかと云えば、上記したセリフは劇中での名セリフとして、多くの人に認知されている為。
この場面と台詞が、映画史上に残る名シーンと云われている。
何か世間を冷めた目で見ていたリックも、実はハートが熱く、人情的で涙もろく、心憎い人間であった事が判るシーン。
日本人的価値観で云えば、浪速節とでもいうのか。
日本映画で云えば「フーテンの寅さん」のようなイメージかもしれない。
本当は好きだが、他にもその人の事を好きな人がいて、他人の為に自分の大切な人を譲ってしまう心境。
「男のやせ我慢」とで云えば良いのだろうか。昔の日本は、暫し見られた光景だった。
昔の日本人は、似た感覚を誰しも待ち合わせていた。だからこそ、この映画に共感がもてるのではないだろうか。
流石に現代社会では、なかなか通用しない感情かもしれないが。
寧ろ今では、その様な感覚を持てば持つ程、生き難い世の中になっているのが現実。
忘れ去られた昔の美学とでも言うのだろうか。此の場面が映画の最高の見所、クライマックスと言える。
最後のシーンで
リックがイルザを説き伏せた後、ラズロが飛行機に荷物を積み終え3人の処に戻って来た。
その時、リックはラズロに今迄のイルザとの経緯を説明する。
ラズロはリックに対し、敢えて説明は求めてませんよと云ったにもかかわらず。
何故リックが敢えて説明したのか。
それはイルザの名誉を守る為だったと思われる。更には、自分自身の心に言い聞かせる為に。
説明を聞きラズロは納得し、リックに対し謝意を示した。
ラズロは更に今迄、中立的立場にいたリックが、反ナチ側に立った事を祝福した。
反ナチ運動のリーダー的の役柄もあろう。劇中では、なかなかの度量の持ち主として描かれている。
ラズロとイルザはリックに別れを告げた後、飛行機に乗る為、夜霧の滑走路に消えていく。
互いに無言で、何か後ろめたさを残しながら。
2人が立ち去った後
ラズロ・イルザが立ち去った後、ルノーがリックに
「やはり君はセンチメタリストだ」と。そして「君を逮捕せねばならない」と。
リックは
「いいだろう。しかし飛行機が飛び立ってからにしてくれ」と。
会話中、シュトラッサーが車で飛行場にやって来た。
前述したが、リック達が飛行場に来る前、ルノーが電話したのは、シュトラッサーのオフィス。
シュトラッサーはルノーに聞いた。
「電話の意味はなんだ」。
ルノーは答えた。
「飛行機でラズロが飛び立とうとしています」
シュトラッサーは訝しげに、
「何故止めんのだ」と聞き返す。
ルノーが再び答えた。
「リックに聞いてくれ」
シュトラッサーは管制塔に連絡し、飛行機の離陸を止めようとした。
リックは「止めろ」と叫ぶ。シュトラッサーは、リックに銃口を向ける。
リックは怯むことなく、持っていた銃でシュトラッサーを撃った。
シュトラッサーは絶命する。絶命後、ルノーの部下達がやって来た。
ルノーは一瞬リックの顔を見た。
しかしルノーは部下達に「シュトラッサーが撃たれた、犯人を逮捕しろ」と命じ、部下達を立ち退かせた。
リックは驚く。
ルノーは普段とぼけていたが、実はルノーも隠れレジスタンスの一員だった。
最後までリックの真意を確かめる為、今迄リックの企みに付き合っていた。
ルノーがリックに云う。
ルノーはタバコを吸いながら、側にあった水を飲もうとした。
しかし瓶のラベルに「ビッシー」と貼ってあるのを発見。飲むのを止め、瓶をゴミ箱に入れ蹴とばした。
説明する迄もないが、「ビッシ―」とはパリがドイツ軍に占領された後、ビッシー地域に存在した政府。
フランス軍人「ペタン」が指導者だったが、ペタン政権とは言わず、ビッシ―政権と言われるのが通例。
フランスの歴史としては、屈辱の暗黒史だったのかもしれない。
不名誉政権との認識でルノーは、ビッシ―ラベルの水を飲むことを拒み、蹴とばした。
いよいよ最後のシーン。お互いに真意を確かめ合ったリックとルノーは、
と会話をかわし、互いにフランス義勇軍部隊に加わる事を決意、二人で夜霧の闇に消えていく。
最後に
イルザと別れのシーンは悲しみが押し寄せたが、最後は何か清々しい気持ちにさせる終わり方だった。
繰り返すが、男のダンディズム、やせ我慢、そして今では忘れ去られようとしている「人情」とでも言うのだろうか。
何か殺伐とした昨今、何時の間にか忘れてしまった「人の心のやさしさ」に触れたような気がした。
余談だが、主演した「イングリッド・バークマン」は映画出演から完成まで、この映画にあまり良い印象をもっておらず、公開後も全く観ていなかった。
映画完成から数年経ち、初めて映画を見た際、バークマン自身が
「なんて素晴らしい映画なの」と感想を漏らした。
何度も述べているが、「映画を見た当初、何も感じず、映画のすばらしさが理解できない」が、年月が経ち見直せば、その映画の本来の素晴らしさが理解できる場合がある。
出演者にも、全く同じ事が言えるかもしれない。
(文中敬称略)