忘れ去られた男の美学 ハンフリー・ボガード主演『カサブランカ』

★懐かしい洋画、ハンフリー・ボガード主演

 

・題名    『カサブランカ』

・公開    1942年 米国

・配給    ワーナー・ブラザーズ

・監督    マイケル・カーティス

 

1942年と云えば、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。勿論、私は生まれてません。ブログを見ている方も、数名かもしれません。

それ程古い映画「カサブランカ」。いまから凡そ77年前。それだけの長い年月を経ても、全く色褪せない映画とも言るかもしれません。何故でしょうか。

 

それは長い年月を経ても変わらないもの、そして映画中で見られる数々の名台詞、シーンのせいではないでしょうか。

今回、数ある名セリフ・シーンを改めて見てみたいと思います。

 

登場人物

 

◆リック・ブレイン  : ハンフリー・ボガード

◆イルザ・ラント   : イングリッド・バークマン

◆ビクター・ラズロ  : ポール・ヘンリード

◆ルノー警察署長   : クロード・レインズ

◆サム        : ドーリー・ウィルソン

◆シュトラッサー少佐 : コンラート・ファイト

◆フェラーリ     : シドニー・グリンストリート

◆ウガーテ      : ピーター・ローレ

 

あらすじ

 

第二次世界大戦中、ナチスドイツに占領される寸前のパリ。そのパリを脱出し、モロッコのカサブランカを目指す男女(リックとイルザ)。脱出する為、駅で待ち合わせをするが、女(イルザ)は来ず、置手紙だけを残し消えてしまう。

残された男(リック)は、パリで酒場の従業員(サム)と二人で、カサブランカに逃げ延びる。そこで新たにバーを経営していた。

 

或る日、いなくなったの女(イルザ)が、男(ラズロ)を連れ、パリで別れた男(リック)の経営するバーにやってきた。

女の言い分では、実はパリにいた時、既に結婚していて夫(ラズロ)は、反ナチ運動の指導者でだった。反ナチ運動の為、ナチスに捕まり、強制収容所行きになっていた。

絶望に打ちひしがれていた時、男(リック)に出会い、恋に落ちてしまったと告白。決して傷つける意思はなかったと訴える。

 

男女3人の気持ちが複雑に絡みあい、物語は展開していく。リックは葛藤に悩まされるが、最後はイルザを許し、イルザの夫の反ナチ運動の支援し、二人をアメリカに逃がし物語は幕を閉じる。

 

リックは二人のアメリカ行きの飛行機を見送った後、いつも惚けたような態度をとっていたカサブランカの警察署長と思わぬ展開をみせ、映画は終了する。終り方が意外性を帯びて、興味深い。

 

作品経過・要点

 

酒場でのリック

カサブランカでバーを経営していた。カサブランカに来る前、リックはパリで同じくバーを経営していた。

戦争中、ドイツ軍がパリに進駐。パリを占領する前日、リックと恋に落ちていたイルザは、バーのピアノの名手サムと供にパリを捨て、カサブランカに逃げようと計画していた。

二人はパリの駅でおち合う約束をするが、最終列車が出る間際になってもイルザは来ない。イルザが止まっていたホテルにサムを遣いにやるが、イルザは既に立ちさった後。リックに、「さよなら」を告げる置手紙を残して。

 

リックは失意のまま、訳が分からず、パリを立ち去る。リックとサムは、カラブランカに落ち延びた。カサブランカについたリックは、苦労するが徐々に店を切り盛りし、カサブランカでは一、二位を争うまでに繁盛させた。

成功を収め、カサブランカでは、そこそこ名のしれた人物になる。或る日、店の常連客ウガーテがやってきて、リックの人間性を信頼。暫くあるものを預かってくれと頼み事をした。

リックは初めは訝るが、預かり物とは、砂漠で殺されたドイツ人特使の二人が持っていた通行証だった。

通行証をある人物が、莫大な金を出し買いに来る。それまでの僅かな間、預かってくれという頼みだった。

 

ウガーテの頼みを聞き、リックは咄嗟にドイツ人特使の殺人犯がウガーテだと悟り、頼みを聞き入れ預かった。

リックは元来、もめごとが嫌いで、常に何事において中立的立場・態度を装い、どこか皮肉めいた処があった。それは表向きの顔であり、内心はセンチメンタルで弱者的立場に味方をする人間でもあった。

いつもは軽い軽蔑の目でウガーテをみていたが、ドイツ軍の特使を殺害してまで通行証を手に入れたウガーテを見直し、頼みを引き受けた。

 

酒場での印象深いシーンと台詞

映画中のウガーテとのやりとり迄、既に印象深いシーン、台詞が登場してる。具体的に取り挙げてみたい

①酒場内で宝石の売買をしている事。

この時代カサブランカはフランス領であった。欧州が戦争中で、市民は戦火を逃れる為、カサブランカに集まっていた。

カサブランカを中継地とし、リスボン→米国などに逃げていた。逃げて来た人間は、カサブランカでビザの許可が下りるのを待つ為、足止めを喰っていた。

中には密航する者、金でビザを買う者、生活費に困る者もいた。逃亡者の資金稼ぎの為、宝石売買が活発化していた。劇中では、密売人に買い叩かれている婦人の様子が描かれている。

②リックのドイツに対する、さりげない抵抗

酒場内のカジノにドイツ人が入ろうとするが、立ち入り禁止にする。さらに酒場でドイツ人が使った小切手を破り捨て無効にする。

③自分の好意を持つ女性に対するそっけない態度

自分に好意を寄せる女性(イボンヌ)に対するそっけない態度をとる。その時の台詞が素晴らしい。

 

女性がリックに尋ねる。

イボンヌ  :「昨日は何処にいたの」

リック   :「そんな昔の事は忘れた」

イボンヌ  :「今夜、あえない?」

リック   :「そんな先の事は分からない」

 

イイですね。男なら一度は言ってみたい台詞。リックが小切手にサインをし乍ら、視線を合わせないで呟く処が、またイイ。背中で会話をするというのだろうか。

この場面で既に、劇中でリックと云う人間のイメージが理解できる。

 

ウガーテを逮捕する為、現れるルノー署長

ウガーテを逮捕する為、カサブランカを統括するフランス人署長、ルノーが現れる(いかにも仏人らしい名前、車を想像する)。

同じく逮捕劇を監視すべく、ドイツ軍人少佐、シュトラッサーも現れる。

 

・ルノーはリックに忠告する。

「捕まえる際、決して逃走の手助けをするな」

・リックが呟く。

「俺は揉め事はごめんだ。関係ない。政治的に中立だ」

 

彼自身(リック)、自分のバーでは決してお客さんと一緒に酒は飲まない、政治の話はしないと言うポリシーを持っていた。だから今回も関係ないと。

ウガーテは、あっけなく逮捕される。逮捕される寸前、ウガーテはリックに助けを求めるが、リックは冷静に撥ねつける。

ウガーテが逮捕され連行された後、近くにいた男がリックに対し、さりげなく呟く。

「今度自分が捕まる時、助けて欲しいものだね」

要するに、リックの素っ気ない言動に対し、皮肉を込めて述べた言葉。

 

リックのバーに現れた、イルザとラズロ

ウガーテの逮捕後、何事もなかったかの様に、普段通りにバーは落ちつく。

その後、イルザとラズロが店に入ってくる。二人は先程の逮捕劇など露知らず。

 

ラズロはウガーテらしき人物を探すが、見当たらない。キョロキョロするうちに、ラズロに近づく男がいた。

男は宝石ビジネスを装う傍ら、正体は反ナチのレジスタンスだった。男は宝石売買すると見せかけ、ラズロにウガーテが既に捕まった事実をしらせる。

 

二人のやり取りの最中、ルノーが二人に近づく。男(レジスタンス)は立ち去り、ルノーとラズロは挨拶を交わす。

ルノーは言葉こそ丁寧だったが、ラズロにさり気なく

「あなたは監視対象人物です。お気を付け下さい」と云わんばかりの態度だった。そして明日、署に出頭するよう、ラズロに要請する。

 

ラズロがレジスタンスと会話中、イルザは店内のサムの存在に気付く。サムはイルザがパリでリックと恋に落ちていた時、更にパリを脱出する寸前まで一緒にいた人物だった。

 

サムとイルザの会話

イルザは店のボーイに、サムと会話できるよう要請する。サムはイルザが店に入って来た時から、イルザの存在に気付いていた。二人の会話が興味深い。

 

イルザ :「サム、お久ぶりね」

サム  :「そうですね、いろいろな事がありました」

イルザ :「リックはどこにいるの?」

サム  :「さあ、わかりません。今夜はあってません」

イルザ :「いつ戻ってくるの?」

サム  :「今夜はこないでしょう。家に帰ったのかも」

イルザ :「こんなに早く」

サム  :「そうですね、女がいるんです。きっと女の処にいったのでしょう」

イルザ :「サム、嘘が下手になったわね」

サム  :「あなたはリックに不幸を招くお方だ。 そっとしておいて下さい」

 

一瞬、サムの言葉にイルザがたじろぐ。しかし気を取り直し、イルザはサムに言う。

 

イルザ :「サム、あれ弾いて。昔の曲」

サム  :「何のことかわかりません」

イルザ :「昔のあれよ。時のゆくまま/As Time Goes By」

 

サムは一度は断るが、観念したようにピアノを弾き、曲を歌い出す。実はこの曲は忌まわしい過去の為、リックから今後は弾かないように厳命されていた。

 

カジノから出てきたリックが、サムが弾いている曲を聴き

カジノ部屋から出てきたリックは、嘗て封印した曲をサムが弾いているのを聴き、驚いてサムに近寄る。そして叫ぶ。

「サム、その曲は弾くなといった筈だ」と。

 

サムが目くばせをする。

サムが目くばせした先には、嘗て互いに愛し合いながら、自分の許を何も理由を告げずに立ち去ったイルザの姿があった。

 

互いに思いもよらぬ再会。二人は驚き戸惑いを見せるが、必死に冷静さを保とうとする。やがて二人のテーブルに、ラズロとルノーがやって来る。二人は関係を悟られまいと必死に取り繕う。

ラズロは瞬時に、二人の関係に薄々気付いた様子。シリアスな3人とは対照的に、ルノーが惚けたピエロ役を演じているのが、何か滑稽。

 

暫く四人で談笑するが、夜も遅いとの理由で、二人はホテルに帰る。二人がタクシーで帰った後、ルノーの顔が何故か真顔になるのが、印象的だった。

 

バー閉店後、荒れるリック

普段はニヒル・ダンディに決めているニックもやはり、人の子だった。全く予期せぬ出来事。昔恋し、理由も告げず一方的に自分の許から立ち去った女が、突然自分の経営するバーに現れた為。それも男連れで。

 

リックが呟く

「世界に沢山のバーがある。何故かイルザは俺の店にやってきた!」

 

大抵の男であれば、怒り取り乱すのも無理はない。酒を飲んでくだを巻くリック。サムは必死に宥め、励まそうとする。「もう過去の事であり、忘れましょう」、「しばらくカサブランカを離れましょう」と。

 

サムはリックを励まそうとピアノを弾く。リックの中で、パリにいてイルザとの淡い恋の記憶が蘇る。記憶の中で、パリで別れた悲しいシーンも同時に。

回想に耽っている時、突然ホテルに帰った筈のイルザが入り口のドアに現れた。

イルザはリックに以前自分が何故リックの許を去らねばならなかったのかを説明しに来たのだった。イルザがリックの許を立ち去らねばならなかった理由とは。

 

イルザの弁明

イルザは、実はパリにいた時、既に結婚していて夫(ラズロ)がいた。夫は反ナチのレジスタンスであったが、反ナチ運動でナチに捕まり強制収容所に送られ、イルザは死亡したと聞かされていた。

イルザは悲しみに打ちひしがれていた時、リックに出会い、心の隙間を埋めるかの様に恋に落ちてしまったとリックに話す。

 

リックとパリから逃げ延びる為、駅でおち合う約束をしたが、ホテルに戻った時、ラズロが生きていて、怪我をしてパリ郊外にいるという連絡が入った。

連絡を聞き、ラズロを見過す事ができず、仕方なくあなた(リック)と別れたと告げる。

 

理由を説明するイルザだが、リックはイルザの言葉を冷静に受け入れる事ができなかった。酔いも手伝ってであろうか、自嘲気味にそして半ばからかいながらイルザに話掛ける。

「まるで安っぽい小説だね」

リックの言葉と態度に居たたまれなくなったイルザは、その場を立ち去ってしまう。

 

カサブランカの実力者「フェラーリ」の店にて

ラズロとイルザは翌日、警察署に行きルノーとシュトラッサーの尋問を受ける。尋問中、昨日逮捕されたウガーテが獄中で亡くなった事実を知らされる。

更にルノーが出国の許可サインをしない限り、カサブランカを出国できないのも知らされる。

 

出国できないと知ったラズロとイルザは通行証を求め、闇市にいく。闇市のボスは「フェラーリ」であり、彼の許に行けば手に入るのではないかとの情報を得る。二人は通行証明を求め、フェラーリの店に行く。

フェラーリの店では商談の為、リックがいた。フェラーリは、逮捕後ウガーテがドイツ人特使から奪った通行証を持っておらず、逮捕される直前にリックに預けたのではないかと睨んでいた。

フェラーリはそれとなく尋ねるが、リックはさり気なくかわす。

 

二人が会話中、窓からラズロが店に来るのが見え、リックは立ち去ろうとする。出入口付近でラズロに出会い、リックはラズロが店に来た要件を理解していた為、ラズロにフェラーリの人物像を伝える。そのシーンが何気に面白い。

店外ではイルザがラズロを待っていた。リックは昨夜の非を詫びる。イルザも再会があまりに突然だった為、気が動転していたと詫びる。

イルザは改めてパリでリックに出会った時、既に結婚していた事実を告白する。

 

リックが立ち去った後、ラズロ・イルザ・フェラーリの三人は、通行証の件で話合う。

フェラーリが云うには、イルザ一人なら何とか出国可能だが、ラズロは不可能だと。ドイツ軍の監視がある為、出国は出来ないと。

しかしフェラーリはこの時、重要な手がかりを二人に与える。ウガーテは逮捕される寸前、おそらくリックに通行証を預けたのではないかと。

「あたってみる価値はありますよ」と二人に助言する。

 

再びリックの店で

突然の再会から二日目、リックの酒場では急展開を見せる。見所も随所に見られる。

昨夜リックにすげない態度を取られた女性(イボンヌ)が、これ見よがしにドイツ軍人と一緒に店にやって来た。態と陽気に振舞い乍。後にも影響する為、先に触れておきたい。

 

リックは昨日から今迄の自分が決めたルールを破り、開店と同時に、他のお客さんと同様、酒を飲んで居る状態。

既にルノーとシュトラッサー、その他のドイツ軍人たちは酒場にいて、其の後ラズロ、イルザがやってくる。

映画の本筋と少し離れるが、面白い場面が織り込まれている。その場面とは。ニックの隠れた人柄が描かれている為、書き綴ってみたい。

 

さりげないリックの心遣い

ブルガリアから逃れた若い夫婦が、他の人間と同様、カサブランカ経由でアメリカに逃れる計画をしていた。

しかし夫婦は、所持金が足らず通行証が買えなかった。二人は通行証の代金を、カジノで稼ごうとしていた。しかし夫はカジノで負け、途方に暮れていた。夫人がリックに相談する。

リックに今迄の経緯を説明し、ルノーが信用に足るべき人物か、リックに相談した。ルノーはお金がないが、場合によって何とかしてやれない事もないと、夫人に交渉を持ち掛けていた。

 

リックは、

「私には関係ない。二人でブルガリアに帰りなさい」と忠告する。

女性は涙乍らに訴える。

「ドイツ軍に占領されたブルガリアには帰りたくない」と。

 

リックはそっけなく話を打ち切り、立ち去る。そのまま振り切るのかと思われたが、リックはカジノの部屋にいく。カジノ部屋で女性の夫の側に行く。女性の夫は負けが続き、お金が尽きかけていた。

 

・リックが男に近づき、そっと囁く。

「22番に賭けなさい」  

リックの言葉を聞いたディラーが、22番にルーレットが止まる様に手配する。男はリックが囁いた番号にかけ、大儲けする。

 

・更にリックが囁く。

「同じ番号に賭けなさい」

またディラーが同じよう手配する。

 

・リックが囁く。

「チップをお金に換えて二度と来るな」

 

二回の大勝ちで男は、通行証が買えるだけの大金を手にする。要はイカサマである。リックはイカサマで、ブルガリア夫妻に通行証が買えるだけのお金を稼がせたのである。

 

その様子を見ていた夫の妻と店の支配人は大喜び。あぶく銭を若い夫婦の将来の為に遣った為。夫人はリックに感謝する。

 

その時のリックが発した言葉は

「彼は運が良かっただけだよ」。何とも言えない、カッコいい瞬間ですね。

 

リックとディラーとの会話がまた粋。

リック :「どうだい、儲かってるかい?」

ディラー:「今の負け分以外は」

 

リックの行為に、快く思わない人物が一人いた。ルノーである。ルノーは遠巻きに一部始終を眺め、自分の計画の当てが外れ、邪魔をされたと悟る。

 

ルノーは皮肉を込めてリックに云う。

「君はやはりセンチメンタリストだ」と。

因みにブルガリア夫婦は、映画冒頭、さりげなく登場している。ドイツ軍機が空港に降り立つシーンの時。

 

リックとラズロの会話。酒場での出来事

フェラーリから話を聞いたラズロは、リックと二人で直接話をしたいと申し出る。リックは承知、事務所で話をする。

 

ラズロはリックに通行証を譲って欲しい。お金は幾らでもだすと提案する。しかしリックは断る。お金の話ではない。理由は奥さんに聞いてみなさいと。

 

二人が事務所で会話を交わしている時、酒場ではちょっとした騒ぎが起こっていた。

ドイツ軍人たちがサムのピアノを占領。ドイツ愛国歌『ラインの守り 』を歌い始めた。その様子をルノー、イボンヌが苦々しく見つめる。

 

ドイツ軍人たちが唄うのを聞き、ラズロは店のバンドマンたちの傍に駆け寄り、フランス国歌『ラ・マルセイエーズ』を演奏する様、命令する。

バンドマン達は一瞬たじろぐが、リックの了承を得、演奏し始める。此のシーンは一種の見所かもしれない。

 

店内に『ラインの守り 』、『ラ・マルセイエーズ』の合唱対決が始まる。合唱が始まると周りの人間が一斉に立ち上がり、『ラ・マルセイエーズ』を大声で歌い始める。

シュトラッサーは負けじと部下に発破をかけるが、次第に情勢不利となり、ついに諦める。

 

ラズロは基より、店で歌う女性歌手、フランス軍人、他のお客さん、当てつけにドイツ軍人と一緒にやってきたイボンヌすら、大合唱し始めた。このシーンは劇中での印象的なシーンの一つと思われる。

 

これだけ煙たがられていると気付かされたシュトラッサーは、怒りに満ちルノーに、直にバーを閉鎖するよう命じる。ルノーもしぶしぶながらシュトラッサーの命に従い、理由をこじ付け、バーを封鎖する。

この時のワンショットも面白い。ルノーがこじ付けで、バーを閉鎖するとリックに告げる

 

リックが

「理由はなんだ」と尋ねる。

ルノーは

「別室で賭博をやっているだろう」と。

 

するとルノー傍らに先程のディラーがやってきて、ルノーに

「今日の勝ち分です」とお金を手渡す。

ルノーは顔色を変えず

「ありがとう」と言い、お金を受け取る。誠に滑稽なシーンと思われる。

 

閉鎖後、リックの店で

閉鎖後、リックと店の支配人が今後の経営について話あう。話の後、支配人は今晩は用事があると言ってでかける。

リックは支配人も実はレジスタンスであり、今夜秘密の会合があり、出席する為である事を知っていた。知っていても、知らぬふりをしていた。会合には、ラズロも参加する予定だった。

 

支配人が出かけた後、リックは自分の部屋に戻る。部屋の電気を点ければ、イルザがリックの部屋に居た。

イルザは通行証を譲って欲しいと懇願する。リックが断ると、リックに拳銃を向ける。

 

「通行証をよこして。さもなくば撃つ」と。

リックは

「撃つなら撃て」とイルザに告げ、近寄る。

 

イルザは震えリックを撃つ事ができない。イルザは葛藤と緊張感に押しつぶされ、断念してしまう。

イルザは、パリの駅に理由を告げず別れた事。今迄の経緯をリックに話す。

話を聞く内にリックの心の中の蟠りが徐々に氷解、イルザに同情すら感じる。

 

やがてイルザが云う。

「私はもうリック、ラズロどちらを愛しているのか分からない」と。

 

二人の会話中、階下の店で物音がした。会合にでていたラズロと支配人が警察に追われ、命からがら逃げ伸びて来た。

状況を把握し、リックは支配人を呼び、ラズロにバレない様、イルザをホテルに送るよう指示する。

 

ラズロとリックは再び二人で話合う。その会話も又興味深い。ラズロがリックに云う。

「人には運命と云うものがある。運命にあがらう事はできませんよ」

更に

「私達は運命的にも同じ女性を愛してしまった。経緯は問題ではありません。ただ妻には安全を確保して欲しい」と。

 

二人が会話中、警官が店にやってきてラズロの身柄を拘束する。リックは僅かに皮肉めいた態度と言動をする。しかしリック心の中では、或る計画が犇めいていた。

 

昨夜の喧騒から一夜明け

昨夜の喧騒から一夜明け、リックは警察署のルノーの処に出向く。リックはルノーに提案する。

 

今のままではラズロを正式に逮捕する事はできない。それよりも自分がラズロを罠にかけ、君に逮捕させるように仕向ける為、彼を釈放しろ。君が私の店にきた時、ラズロを逮捕できる手筈を整えておくからと。

 

つまりルノーに「逮捕できる根拠を見つけておくから、ルノーよ一人で俺の店に来い。そうすればラズロを逮捕でき、大手柄だぞ」という話をけしかける。

その変わり、「自分はイルザと一緒にアメリカに行くので、見逃して欲しい」との条件も付けるのも忘れず。

ルノーはその条件を承諾する。しかしリックは取引とは違う別の計画を目論んでいた。

 

フェーラリの店にて

警察署をでたリックはフェラーリの店に向かった。フェラーリと自分がいなくなった後のサムの去就と報酬、店の行き末などを話し合う為に。

リックはカサブランカを去る為、フェラーリに今後の処理を頼んだ。フェラーリは快く承諾する。

 

夜リックの店で

夜、リックの店にルノーがやってきた。リックはラズロが通行証を買い取りに、間もなくやって来る事をルノーに告げる。

 

・ルノーが驚いてリックに聞き返す。

「あれだけ店を捜索したが見つからなかった。一体、どこにあったのか」

・リックは答える。

「サムのピアノの中さ」

・再びルノー

「俺は音楽が好きでなかったから,発見できなかったのか」

 

この会話も何気に粋な会話と言える。

 

リックはラズロが来るまで隠れているよう指示する。ルノーが事務所に隠れる。

やがてラズロとイルザがリックの店に現れる。ラズロはリックに通行証を譲ってもらう為。イルザはリックと一緒にカサブランカを出国する決心で。

 

ラズロがリックに話掛けている時、隠れていたルノーがラズロを逮捕する為、現れる。殺害されたドイツ人特使通行証窃盗容疑として。

銃を突きつけ、ルノーは逮捕しようとするが、リックがルノーに銃を突きつけこう告げる。

「まだ早い逮捕するのは。もう少しまってくれ」と。

 

ルノーは初めは理解できなかったが、自分がようやくリックに騙された事を理解する。

リックがルノーに命令する。

「今から飛行場に行くため、搭乗の手配をしろ」と。

ルノーは仕方なく受話器を取り、連絡をする。しかし連絡先は飛行場ではなく、シュトラッサーのオフィスだった。

 

最後の飛行場にて

最後のシーンはこの映画を彩る名セリフ・名シーンが満載。とくにリックとイルザの別れのシーンは映画史上の名シーンであり、色々な場面で使われている。

映像を見れば、見た事がある方も多いと思う。それ程、名シーン・名セリフが満載。

「カサブランカ映画」で検索すれば、サムネイルで必ず出てくる。それでは詳しく見てみよう。

 

四人は車で飛行場に移動する。雨の夜霧の中、飛行場に到着する。ラズロが荷物を飛行機に乗せる為、三人から離れる。

 

その間にリックはルノーに通行証に二人分のサインをするよう命令する。

「通行証に記入する名前は、ラズロとイルザの二人にしろ」と。

 

イルザ、ルノーは驚く。二人ともリックとイルザの両人が、カサブランカを出国するのもと思っていたからだ。イルザも店に来た時から、そのつもりだった。

 

・リックがイルザに云う。

「君はラズロと一緒に行け。その方が良い」。リックはイルザを説得する。

 

・イルザ
「私をここから追っ払う気。昨夜、二度と離れないと言った筈よ」

 

・リック
「そうじゃない。もう君は彼の一部だよ。彼の仕事に君が必要なんだ」

「君がラズロと一緒に行かなければきっと後悔するだろう」

「後悔はおそらく今日、明日ではない。しかし後の人生で何時かきっと後悔する日が来る」

「俺たちにはパリの思い出があるじゃないか」

 

まだ戸惑うイルザに対してリックは、

「イルザ、自分は決して誠実な男ではない。しかし自分にも仕事がある。君がいたらできない。今のおかしな世の中を、黙って見過ごす事はできない。」

「それを考えれば、私達三人の関係など、取るに足らない問題だよ」

 

目に涙を浮かべ乍、うつむくイルザの顔をリックは優しくそっともちあげ、

「君の瞳に乾杯!」と囁く。

 

この言葉が、映画の中の一番の名セリフかもしれない。劇中で既に登場していたが、この場面が一番当て嵌まると思い、今迄説明しませんでした。(既出場面は、パリでのリックとイルザの回想中にて)

 

何故こまごまと詳しくセリフを明記したのかと云えば、上記したセリフは劇中での名セリフとして、多くの人に認知されている為。この場面・台詞が、映画史上に残る名シーンと云われている。

 

何か世間を冷めた目で見ていたリックも、実はハートが熱く、人情的で涙もろく、心憎い人間であった事が判るシーン。

日本人的価値観で云えば、浪速節とでもいうのか。日本映画で云えば「フーテンの寅さん」のようなイメージかもしれない。

本当は好きだが、他にもその人の事を好きな人がいて、他人の為に自分の大切な人を譲ってしまう心境。「男のやせ我慢」とで云えば良いのだろうか。昔の日本でも暫し見られた心境だった。

 

昔の日本人には似た感覚を、誰しも待ち合わせていた。だからこそ、この映画に共感がもてるのではないだろうか。

流石に現代社会では、なかなか通用しない感情かもしれないが。寧ろ今では、その様な感覚を持てば持つ程、生き難い世の中になっているのが現実。

忘れ去られた昔の美学とでも言うのだろうか。此の場面が映画の最高の見所、クライマックスと言える。

 

最後のシーンにて

リックがイルザを説き伏せた後、ラズロが飛行機に荷物を積み終え、三人の処に戻ってくる。

その時、リックはラズロに今迄のイルザとの経緯を説明する。ラズロはリックに対し、敢えて説明は求めてませんよと云ったにもかかわらず。

何故リックが敢えて説明したのか。それはイルザの名誉を守る為だったと思われる。更に自分自身の心に言い聞かせる為に。

 

説明を聞きラズロは納得し、リックに対し謝意を示す。ラズロは更に今迄、中立的立場にいたリックが、反ナチ側に立った事を祝福する。反ナチ運動のリーダー的の役柄もあろう。劇中、なかなかの度量の持ち主として描かれている。

 

ラズロとイルザはリックに別れを告げた後、飛行機に乗る為、夜霧の滑走路に消えていく。互いに無言で、何か後ろめたさを残しながら。

 

二人が立ち去った後

ラズロ・イルザが立ち去った後、ルノーがリックに

 

「やはり君はセンチメタリストだ」と。そして「君を逮捕せねばならない」と。

リックは

「いいだろう。しかし飛行機が飛び立ってからにしてくれ」と。

 

会話中、シュトラッサーが車で飛行場にやってくる。前述したがリック達が飛行場に来る前、ルノーが電話した先は、シュトラッサーのオフィスだった。

 

シュトラッサーはルノーに聞く。

「電話の意味はなんだ」

ルノーは答える。

「飛行機でラズロが飛び立とうとしています」

 

シュトラッサーは訝しげに、

「何故止めんのだ」と聞き返す。

ルノーが再び答える

「リックに聞いてくれ」

 

シュトラッサーは管制塔に連絡し、飛行機の離陸を止めようとする。リックは「止めろ」と叫ぶ。シュトラッサーはリックに銃口を向ける。リックは怯むことなく、反対にシュトラッサーを自分が持っていた銃でシュトラッサーを撃つ。

 

シュトラッサーは絶命する。絶命後、ルノーの部下達がやってくる。ルノーは一瞬リックの顔を見るが、部下達にシュトラッサーが撃たれた、犯人を逮捕しろと命じ、部下達を立ち退かせる。

リックは驚く。ルノーは普段とぼけていたが、実はルノーも隠れレジスタンスの一員だった。最後までリックの真意を確かめる為、今迄リックの企みに付き合っていた。

 

ルノーがリックに云う。

「君も愛国者になった。いい機会かもしれないな」。

 

タバコを吸いながら、側にあった水を飲もうとする。しかし瓶のラベルに「ビッシー」と貼ってあるのを発見、飲むのを止め、瓶をゴミ箱に入れ蹴とばす。

説明する迄もないが、「ビッシ―」とはパリがドイツ軍に占領された後、ビッシー地域に存在した政府。フランス軍人「ペタン」が指導者であったが、ペタン政権とは言わず、ビッシ―政権と言われるのが通例。

 

フランスの歴史としては、屈辱の暗黒史だったのかもしれない。不名誉政権との認識でルノーは、ビッシ―ラベルの水を飲むことを拒み、蹴とばしたのだと思われる。

 

いよいよ最後のシーン。お互いに真意を確かめ合ったリックとルノーは、

「これが素晴らしい友情の始まりだな」

 

と会話をかわし、互いにフランス義勇軍部隊に加わる事を決意、二人で夜霧の闇に消えていく。

 

最後に

 

イルザと別れのシーンは悲しみが押し寄せたが、最後は何か清々しい気持ちにさせる終わり方だった。

繰り返すが、男のダンディズム、やせ我慢、そして今では忘れ去られようとしている「人情」とでも言うのだろうか。何か殺伐とした昨今、何時の間にか忘れてしまった「人の心のやさしさ」に触れたような気がした。

 

余談だが、主演した「イングリッド・バークマン」は映画出演から完成まで、この映画にあまり良い印象をもっておらず、公開後も全く見ていなかった。

映画完成から数年経ち初めて映画を見た際、バークマン自身が

「なんて素晴らしい映画なの」と感想を漏らした。

 

何度も述べているが、「映画を見た当初、何も感じず、映画のすばらしさが理解できない」が、年月が経ち見直せば、その映画の本来の素晴らしさが理解できる場合がある。映画の出演者にも、全く同じ事が言えるかもしれない。

(文中敬称略)