オールスター揃いの脱走映画の名作『大脱走』 逃走編

目次
収容所からの脱出後
一夜明け、点呼が取られた。脱出した人数は76人。予定の3分の1以下。
しかし所長ルガーには、大失態。脱走者リストを受け取った際の顔に悲壮感が漂う。
捕虜側の司令官ラムゼイも、何か浮かれない顔に見える。
ラムゼイとしては予定以下の為、中途半端だったかもしれない。
発覚後、各々は計画通り逃げた。或る人間は徒歩、駅から列車、ヒッチハイクで移動する等。
駅では脱走トンネルのトラブルで、一つ前の列車に乗り遅れた連中が溜まっていた(バートレット、マック、コリン、ヘンドリー、ピット等)。
列車に乗り込んだ後、ゲシュタポやドイツ軍の検閲が続いた。
事前のドイツ語のレクチャーが功を奏し、バートレットとマックは何とか、ドイツ兵の尋問を搔い潜った。。
目が悪いコリンとヘンドリーは、ゲシュタポとドイツ兵の追跡を逃れる為、列車から飛び降りた。
ゲシュタポとドイツ兵を見つけたヘンドリーが、仲間に危険を知らせる為つぶやいた言葉「tallyho:ほ~ほ!」は、キツネ狩りで猟師が獲物を認め犬に掛ける際の、掛け声。
セジウィックは徒歩で逃た。、或る駅に着き、自転車を盗み逃走。
ヒルツは道端に罠を仕掛け、ドイツ兵が通過するのを待った。
ドイツ兵が通過しようとした際、罠に嵌りバイクごと転倒。そのままドイツ兵になりすまし、逃走を試みた。
ダニーとウィリーは徒歩で逃げ、川岸に到着。手漕ぎの舟を失敬して川を下り、海を目指した。
キャベディッシュは大胆にも、ヒッチハイクでドイツ軍のトラックに乗り込み、逃走した。
劇中ヒルツが大草原を、バイクで逃げるシーンがある。
検閲所でドイツ兵に見つかった後、必死で逃げる中、広大なアルプスの風景や草原が映像に映る。
必死に逃げるヒルツと自然の雄大な景色の対比が素晴らしい。名シーンの一つ。
マックィーン自身がバイク好きと言う事もあり、見事に役を演じている。
細かい話だが、ヒルツが大草原を疾走した際、バイクの轍が鮮やかに大草原に刻まれるのが見事。
自転車で逃げたセジウィックは、或る駅でフランス行きの列車を見つけ、列車の荷台に潜み逃走。
列車が駅に着いた際、冒頭でバートレットを収容所に連行して来たゲシュタポが待ち受けていた。
ゲシュタポは駅を通過しようとした、バートレットとマックを発見。逮捕しようとする。
その光景を見ていたピットは2人は助ける為、囮となりゲシュタポを殺害。逃走を図る。
逃走する際、ドイツ兵に撃たれ死亡する。一番初めの犠牲者。
次に拘束された人物は、キャベディッシュ。
まんまとドイツ兵が運転するトラックに乗り込んだが、そのままドイツ兵の駐屯所に連行され、御用となる。
脱走した76人は次々捕まり、臨時に作られた収容所に送られ、ゲシュタポの尋問を受けた。
尋問後、捕虜は各々に峻別されトラックで移送された。
峻別の基準、移送された経緯は定かでない。
列車から飛び降りたコリンとヘンドリーは、ドイツ飛行場の練習機を奪った。
アルプスを越え、中立国スイスに逃げようとする。間もなく飛行機は、アルプスを越える寸前。
アルプスを越えれば2人は、晴れて自由の身。
しかしアルプスを越える寸前、飛行機がトラブルを起こし、不時着陸。
燃え盛る炎から、変ドリーは目が不自由なコリンを先に避難させたが、逆にそれが災いした。
目が悪いコリンは、ドイツ兵が間近に迫っている事がわからない。
立ち去ろうとした瞬間、ドイツ兵に撃たれた。
コリンが撃たれ、必死にコリンに寄り縋るヘンドリー。劇中の哀しい場面の一つ。
ヒルツがバイクで逃げる際、広大なアルプスが映る。
飛行機で2人が逃げる時も、アルプスの映像が流れる。
映画の佳境に対比して、改めてアルプスが美しい景色と確認できる映像。
バイクで、必死に逃げるようとするヒルツ。スイス国境は目の前。
柵を越えれば晴れて自由の身。ヒルツは、バイクで国境を越えようと試みた。
一度目は成功。しかし二度目は銃撃にあい、終に国境を飛び越える事は出来なかった。
自転車から列車に乗り換え、逃亡したセジウィック。フランス領のカフェで、一息ついていた。
其処にドイツ兵達が遣って来た。カフェの給仕が愛想よく、ドイツ兵に接客する。
接客後、電話が掛かってきた。給仕は「セジウィックに電話だ」と告げる。
半信半疑のセジウィックは電話に出るが、応答なし。
やがて一台の車がカフェの前に到着。車から銃撃され、ドイツ兵たちは射殺された。
店員の正体は、レジスタンスだった。
レジスタンスと分かったセジウィックは、自分は脱走兵であり、スペイン経由で逃げたいと申し出た。
レジスタンスはセジウィックの要求を受諾。セジウィックに協力する。
川で小舟を拝借。川を下り港に辿り着いたダニーとウィリーは、港に係留していた船に乗り込み、無事脱走を遂げる。
バートレットとマックは、バスで逃走しようと試みる。
しかしマックは、ドイツ兵の誘導尋問にひっかかり、正体がバレてしまう。
皮肉にもマックは、収容所で他の捕虜のレクチャー際、捕虜に誘導尋問で相手に英語で話しかけた。
捕虜は直前に流暢なドイツ語が話せた為安心し、つい思わず英語で答えてしまった。
収容所で捕虜をひっかけたとは逆に、今度は自分自身が敵の誘導尋問に掛ってしまった。
マックは逃走を試みるが、虚しくも捕捉される。
バートレットも何とか逃げ回るが、とうとうドイツ軍の将校らしき人物に捕まってしまう。
ドイツ兵が2人に誘導尋問をしたのは、おそらく今まで流暢なドイツ語を話していたが、ドイツ兵が最後に投げかけた言葉を2人は理解できず、返答がなかった為と思われる。
因みに2人が逃げだした際、尋問したドイツ人が咄嗟に、「ローチ」と叫んでいるのが聞き取れる。
ローチとは、英語で「ゴキブリ」の意味。
つまりドイツ人にとり英語圏の人間は、害虫だったという認識だろうか。
更に2人が逃げ込んだ町の一区画が、何故か閉鎖されている。
当時ドイツが採用した隔離政策、つまり「ゲットー」だった可能性が高い。
理由は、誰も住んでいない地域の為。もしそうであれば、何気に細かい描写と言える。
逃走したマックは自転車にぶつかり、捕捉される。
バートレットは屋根裏つたい逃げるが、とうとう捕まってしまう。
マック、バートレットは供に捕まり、一時収容所に送られる。
2人はゲシュタポの尋問を受ける事なく、即座に峻別された。
峻別された脱走兵はトラックに乗せられ、移送される。
捕虜になった皆は再び、元の収容所に戻されるものと思っていた。
トラックが或る場所に停車。ドイツ兵は捕虜に、「一時休憩だ」と告げた。
皆は休憩の為、トラックから降りた。
バートレットとマックは、会話を交わした。
バートレットは、自分は「トンネルを掘り、捕虜を脱走させる事が生きがいだ」と呟いた。
バートレットがマックに言葉を呟いた後、離れた場所から冷たい乾いた音が響いた。
それは捕虜を始末する為に準備された、機関銃の音だった。
其の後、乾いた銃声が鳴り響いた。
脱走に手を拱いたドイツ兵は、見せしめの意味も含め、処刑した。
会話を検証すれば、この時点で、まだ21人の行方が不明。
逆に言えば、脱走した76人中、55人は既に拘束されていた。
後日、処刑された捕虜のリストが届いた。
更に脱走していた11人が捕まり、再び移送されてくるとの事。
処刑された捕虜と合計すれば、66人となる。
所長ルーゲルは、バツの悪そうに捕虜の代表者ラムゼイに告げた。
ラムゼイが残った捕虜の前で、リストの死亡者を読み上げる。
ダニーとウィリーは、係留中の船に乗り込み脱出成功。
セジウィックもレジスタンスの協力で成功した。
結局、映像では僅か3人しか成功しなかった。
再び収容所に戻ったヘンドリーが、司令官ラムゼイに問いかける。
ラムゼイが答える。
この時点で、ラムゼイが撃たれた人数を語るのが50人。
若干バートレットの人数とは5人の開きがある。ヘンドリーと一緒に戻ってきた捕虜が11人で、合計61人。
3人が逃げ延びたとすれば、76人-64人=12人が行方不明と言う事。
後にヒルツが戻る為、11人が消息不明。
会話中、ドイツ軍司令部から伝令が届く。
映像をよく見れば、司令部の伝令を届けたドイツ軍将校は、街中でバートレットを捕らえたドイツ将校。
伝令の結果、所長ルガーは解任。副所長が昇格する。
所長を解任され連行されると同時に、ヒルツが車で護送されてきた。
2人は交差する。会話で元所長ルガーが
「どうやらヒルツ(君)が先に、ベルリンを見るのが先になりそうだ」
と述べたのが印象的。
元所長と別れた後、ヒルツは再び独房に入る。
独房に入る寸前、同じアメリカ軍人ゴフが、グローブを渡すのが面白い。
独房に入った後、また壁を相手の1人キャッチボールが始まる。
それはヒルツの飽くなき反骨心の表われ。
映画はここで幕を閉じる。
ヒルツを独房にいれ、ヒルツのキャッチッボールの音を聞くドイツ兵の表情が印象的。
或る意味で感心というのか、尊敬とでも言うのであろうか。
追記
スティーブ・マックイン、ジェームス・コバーン、チャールズ・ブロンソンは周知の如く、「荒野の七人」のガンマン役でも共演している。
映画も素晴らしいが、劇中で流れる音楽、エルマー・バーンスタインが作曲「大脱走のテーマ」も見事。
一度聞けば忘れられない程の印象深い曲で、ある時ふと、耳にこだまするような曲。
マックィーンがバイクで国境を越えるシーンがある。マックィーン本人は実演を希望したらしいが、保険屋が拒んだらしい。
その為、友人のバド・イーキンズが代行した。バド・イーキンズはマックィーンがバイクで逃げる時、ドイツ兵役でも出演している。
尚、最後の鉄条網はゴム製だった。
劇中で登場した収容所は実際の証言を基に、ほどんど同じ様に再現した。
実際に収容所にいた人間は、昔の収容所がそのまま目の前に現れたと述べた。
ヘンドリーがドイツ兵に近く為、タバコの火を借りるシーンがある。
ヘンドリーがタバコを吸い、ドイツ兵にも勧めるが、このやり取りが興味深い。
当時ドイツを支配していたのはヒトラーであるが、ヒトラーは大のタバコ嫌いだった。
ドイツでは禁煙が暗黙の了解だった。
その為、ドイツ兵はヘンドリーからタバコを貰った際、勤務が終わったら吸うと発言している。
因みにドイツがソ連に侵攻され、ベルリンが陥落寸前、ヒトラーは地下壕で自殺する。
ヒトラーの自殺後、近臣者たちは今までヒトラーに遠慮していたが、一斉にタバコを吸い始めたと言われている。
ヘンドリーが手にいれた書類で収容所の場所は「オーディン」と判明。
詳しく調べた処、どうやら「スタラグ・ルフト収容所」の模様。
※第二次世界大戦中に、ドイツ空軍が運営していた捕虜収容所。捕虜とした敵国の空軍軍人(航空機搭乗員)を収容。
場所は、ベルリンの南東約160キロメートルの低地シレジア県、ザーガン(現在のポーランド、ジャガン)の街の近郊にあった。
収容所で3人のアメリカ人が密造酒をつくり、皆に酒を振る舞う。
独立記念日を祝う為、ヒルツは「独立に乾杯」と言うが、イギリス人のラムゼーは、「植民地に乾杯」と言う処が面白い。
何気に自国の立場と、プライドが垣間見える。同じ連合国側でも、それぞれ立場の違いが表れたシーン。
ヒルツが1人で脱走。情報を得た後、態と捕まり独房に入る。劇中では既に3回目の独房入り。
流石に3回目となり、独房係が呆れるというよりも、半ば感心というのか、ヒルツの飽くなき脱走を企てる精神の強さ、独房に入っても怯む気配のないヒルツの姿に見入るのが印象的。
ドイツ占領下フランスのカフェで、セジウィックがドイツ兵と鉢合わせる。
レジスタンスの人間が、セジウィックを助ける為、電話がかかって来た振りし、セジウィックを呼び出す。
セジウィックはフランス語で答えるが、電話に出た際、英語で答えていたのが愉快。
この時点で鋭いドイツ兵ならば、セジウィックの正体に気付いた。
劇中での収容所の所長役を演じたハンネス・メッセマーは、フレデリック・フォーサイス原作「オデッサ・ファイル」でもドイツ人として出演している。
同じくイタチの渾名で間抜けなドイツ兵、ベルナー役のロベルト・グラフも、同映画でドイツ兵として出演している。
ベルナーは波止場で主人公の父が同じドイツ将校に撃たれる場面で、伝令兵の役を演じている。
以上、2度に渡り映画を振り返りましたが、如何でしたでしょうか。
当にスタッフ・出演者が一丸となった、名作と言えるかもしれません。
大昔のTVの番組改編期、夏休み、年末年始等の比較的時間のある時期、暫し放送されていました。
何度放送されて映画の結末が分かっても、思わず見てしまう映画と言えるでしょう。
いつもハラハラさせてくれる映画でした。
私たちの次の世代にも是非、語り継いで欲しい映画の一つと思い取りあげました。
今では映画に係った関係者が殆ど、この世にいないのが頗る残念です。
(文中敬称略)