沈みゆく船中、人間の愛憎を描いた作品『ポセイドン・アドベンチャー』

★懐かしい洋画シリーズ
・題名 『ポセイドン・アドベンチャー』
・公開 1972年 米国
・提供 20世紀フォックス
・監督 ロナルド・ニーム
・製作 アーウィン・アレン
・脚本 スターリング・シリファント、ウェンデル・メイズ
出演者
◆フランク・スコット(神父) :シーン・ハックマン
◆マイク・ロゴ(警部補) :アーネスト・ボーグナイン
◆リンダ・ロゴ(ロゴの妻) :ステラ・スティーブンス
◆ジェームズ・マーティン(雑貨屋):レッド・バトンズ
◆ノニー・パリー(ジャズ歌手) :キャロル・リンレイ
◆マニー・ローゼン(元金物屋) :ジャック・アルバートソン
◆ベル・ローゼン(マニーの妻) :シェリー・ウィンタース
◆スーザン・シェルビー(姉) :パメラ・スー・マーティン
◆ロビン・シェルビー(弟) :エリック・シーア
◆エイカーズ(船員) :ロディ・マクドウォール
◆ジョン神父 :アーサー・オコンネル
◆ハリソン船長 :レスリー・ニールセン
◆リナコス船主代理人 :フレッド・サドフ
あらすじ
大型客船「ポセイドン号」は最後の航海に向け、ニューヨークからギリシャを目指し航海していた。
航海が予定より3日遅れ、船主側は経費が大幅に嵩み、ギリシャに早く着くことを望んでいた。
船の速度を速める為、船の底荷を積まずにいた。その為、船の重心が高くなり、横波に弱い状態だった。
船は現在、嵐の真っ只中。乗客の殆どは、船酔いの容態だった。
嵐が止み、船は地中海に入る。船は後れを取り戻そうと、フル・スピードで進んでいた。
船にて大晦日を迎えた。新年を迎える為、船中では盛大なパーティーが催されていた。
そんな中、ギリシャのクレタ島付近で大地震が発生。大津波が押し寄せてきた。
船室から知らせを受けた船長は急いで船室に戻るが、既に大津波は今にも船を呑み込もうとしている様子。
船は成す術もなく大津波に呑まれ、転覆。生き残った人間達の必死の脱出劇が始まる。
生存者は度々諍いを起こし、葛藤。数々の苦難を乗り越え、脱出を試みる。
もうあと僅かと言う処まで来た時、生存者達に悲しい結末を迎える。
その悲しい結末とは。
見所
主役の神父があまりに過激な考えの持ち主で、所属する協会から左遷される。
左遷されアフリカに向かう「フランク・スコット神父」の強烈なキャラが、物語にアクセントを添えている。
とても牧師とは思えない程の、力強さが漂う。アフリカ行きも自由を手に入れたと発言する等、豪放磊落な性格。
船上の説教の際、聴衆に自ら戦う事を説く。
神は自分自身の中にあり、神は戦い、挑戦する人間を好む。決して臆病者ではないと。
説教に参加している人物に注目すれば、船が転覆後に劇中に映る人達ばかりと判明。
パーティーの席での船員(ティンカム)。歌手グループの兄妹。シェルビー姉弟。ロビンの隣の人物は、パーティーの席でスーザンをダンスに誘う男性。雑貨屋のジェームズ・マーティン。船医と看護師等。
嵐の後、船は当に嵐の前の静けさともでいうのか。不気味な程、軽快に進む。
大晦日、船上パーティーが盛大に催される。パーティーの最中、クレタ島付近で大地震が発生。
緊急の為船長が急遽、船室に呼び戻される。
何気にロゴ夫人が船長に船名(ポセイドン)の由来を聞きた際、船長が
「地震・竜巻などの天変地異をもたらす短気な神」
と答えている。
コメントは、今後の船の行く末を暗示したもの(伏線)と思われる。
新年のカウントダウン後、モースル信号と船内に避難警報が発令される。
新年を迎えた乗客は浮かれ気分の為、まだ事の重大さに気付いていない。
次第に船が大きく傾き始めた時、漸く乗客は事の重大さに気づく。
今までの華やかなパーティーが一転。急転換する、運命の対比が見事に描かれている。
「明と暗」と言えようか。
新年を迎えた際、厳しい状況下で船長がさりげなく船員に対し「ハッピー・ニューイェアー」と呟くのが、何気に粋。
船長が双眼鏡で大津波を確認。大津波が船に迫る寸前、船長を始めとした船員等の諦めの表情が印象的。
大津波が船に迫り転覆するシーンが、この映画の最大の見せ場。
船がひっくり変えるシーンは、何度もスタッフ・出演者がリハーサルを繰り返した。
その甲斐あり、リアルで迫力満点。人々の阿鼻叫喚。
現代と違い、CG等なかった時代。如何に苦労したのか分かる。
ひっくり返った天井から人が落ち、船が停電するシーンがある。よく見れば落ちた男性は、スーザンをダンスに誘った人物。
劇中で所々、キリスト教に関係した事柄が伺える。
クリスマスツリーが倒れる、ツリーを昇る。
ボイラーが爆発、船室に水が溢れてくるシーンは「旧約聖書 創世記」にある「ノアの箱舟」の大洪水を意味する。
後述するが、最後場面でスコット神父が、バルブにしがみつくシーンも同じ。
スコット神父を始めとした数名は船が転覆した為、救助は船底から来るであろうと予測。
船上に行く事により、生存する確率が上がると推測。船室からの脱出を試みる。
しかし他の乗客はパーサーの発言を信じ、現在の場所に止まり救助を待つ事を選択する。
既に此の頃から、スコット神父とロゴ警部補の確執が表れている。劇中の各場面で、二人の言い争いがたびたび続く。
クリスマスツリーを運ぶのを手伝った人々が多々いるが、何故一緒に行かなかったのか疑問が湧く。
スコット神父、マーティン(雑貨屋)の必死の脱出の呼びかけにも、誰も応じない。
唯一応じたのは、兄を失ったバンドのボーカルの「ノニー」のみだった。
スコット神父は同僚のジョン神父に、一緒に脱出するよう勧める。しかしジョン神父は、此処(船室)で皆と救助を待つ事を選択する。
スコット神父の言葉を聞きいた時、思わず私は諺にある「天は自ら助くる者を助く」が頭に浮かんだ。
クリスマスツリーを昇ったスコット神父が、最後の呼びかけをするが誰も応じない。
スコット神父が叫んだ直後、ボイラーが爆発。船室が浸水し始めた。皆はパニックを起こし、ツリーに殺到する。
まさに地獄絵と化す。思わず人間の極限状態を見せつけられた様相だった。
あまり一度に人が殺到した為、ツリーが倒れてしまう。まさに「生と死」を分けた瞬間。
ツリーが倒壊後、取り残された人間の悲痛な叫びを聞いた時、思わずぞっとした。
スコット神父の表情が印象的。
諦めの極致でドアを閉め、気を取り直し、次に進もうとするスコット神父。ある意味、スコット神父の精神的逞しさが示されていて、素晴らしいと感じた。
脱出を試みるグループ中に、少年(ロビン・シェルビー)がいる。この少年は船の造りに詳しく、しばし脱出が窮地に陥った時、少年の機知が皆を救う。
計10人での脱出劇となるが、途中で様々な困難が待ち受けていた。
所々で人間のエゴ、憎しみがぶつかりあいながら、一つ一つの試練をクリアしていくシーンが見もの。
機関室に向かう為、換気塔の階段を昇る場面がある。
キリスト教では梯子は、「天国と地獄」を行き来するもの。
階段を昇るという行為は、天国に繋がるという意味。
船の爆発の振動で、船員のエイカーズが梯子から落下。落命する。1人目の犠牲者。
換気塔を昇った時、他にも多くの生存者がいる事が判明。スコット神父は皆に、船尾に行くことを勧める。
しかし他の生存者は、船医と看護師の言葉を信じ、船首に行く事を選択する。
エイカーズ(負傷した船員)が死んだ事で、スコット神父とロゴ警部補は喧嘩を始める。
スコット神父は考えた結果、
「自分が先に行き機関室の様子を見にいく。もし戻らなかったら、他の皆と一緒に、船首に向かって進め」
とロゴに指示する。
皆に宣言して先行したスコット神父だが、行き詰まりに突き当たり、進退極まり思わず苦悩する。
其処にスーザン・シェルビー(姉)が現れた。スーザンは神父の事が心配で、後をつけてきた。
困難な状況の下、神父に対する淡い憧れのような恋心であろうか。
二人はやる気を取り戻し、色々な出口を探索。漸く一つの出口と思われる通路をみつける。
スコット神父はスーザンに、
「もし自分が戻って来なければ、皆と一緒に行け」と告げ、機関室への通路を探しにいく。
なかなか戻ってこないスコット神父にスーザンは不安になり、皆の処に戻り状況を説明する。
其処にスコット神父が戻ってきて、機関室に行ける道を見つけたと皆に告げる。
皆は神父の言葉を信じ、機関室を目指して進む。
しかしスコット神父の案内で辿り着いたまではよかったが、先程まであった通路は海水に溢れていた。
その為スコット神父が潜水し、ロープを繋ぎ皆で泳ぐ試みをする。
潜水中、スコット神父は倒れて来た鉄板に挟まり、身動きが取れなくなる。
何かトラブルが生じたと察した皆が右往左往している時、いままで皆の足を引っ張っていたベル・ローゼン(夫人)が、見事な泳ぎを披露。スコット神父を救いだす。
しかし年齢的衰えであろうか。救出後、ローゼン夫人は急性心不全で落命する。2人目の犠牲者。
後から泳いできたマニー・ローゼン(夫)は、深い悲しみに包まれる。
船底に繋がる最後の狭い道を、生存者の7人が歩き出す。船底の直前まで来た時、再び船に爆発が起こる。
爆発の振動で、ロゴ夫人が炎の中に落下。3人目の犠牲者。
その衝撃と悲しみのあまりロゴの神父に対する、今迄の怒りが爆発する。
ロゴの神父に対する怒りは頂点に達し、集団は空中分解する寸前。
あくまで私の意見だが、ここ迄来れたのは神父のおかげだと云う事を何も考えず、よくも抜け抜けと文句が言えるものだと思った。
誠に身勝手と言うべきか。
人間、極限状態に陥れば、エゴ・憎しみが歪んだ形で噴出するという現実。
一瞬同じ妻を亡くした二人の男(ロゴ、マニー)が一緒に映るが、何とも言えない皮肉。
それとも、態々映像にしたのであろうか。
再び船が爆発。爆発でバルブが緩み蒸気が噴出し、船底までの道が閉ざされてしまう。
その時のスコット神父が叫ぶセリフが意味深い。
と叫び、蒸気を止める為、バルブに飛びつく。神父はバルブにしがみ付きながら、蒸気を止める。
バルブを閉め、蒸気は止めたが、既に神父には体力は無かった。
神父はロゴに皆の後を託し、力尽き炎の中に消えた。4人目の犠牲者。
蒸気を止めようと、バルブにしがみついたスコット神父の姿は、「キリストの磔」をイメージしたもの。
バルブは「十字架」、スコット神父は「キリスト」を捩っている。
それとも「約束の地」を目指し、直前で亡くなった「モーゼ」かもしれない。
スコット神父が炎の中に落ちた際、先程のロゴと同じリアクションをスーザンもするのが、又やるせない。
救助員がバーナーで船底を開けている際、船底に辿り着いた人々が、「これで助かった」というような安堵の表情で見つめるバーナーの光は、キリストの光背を意味したもの。
船底はさしずめ「モーゼ」が率いる集団が(モーゼは直前で亡くなったが)、最後に辿り着いた「約束の地」であろうか。
そうすれば直前で命を落としたスコット神父は、やはりモーゼがモデルかもしれない。
助かったと思った直後、ロゴが何を思ったのか、一瞬機関室を振り返るシーンがある。
あれは何を思って振り返ったのであろうか。
上記の何れであるのか、心の中で未だに納得した答えが出ていない。
最後に全員が救助された後、ヘリコプターのドアを閉める「ひげもじゃの救命員」が一瞬映るが、救命員はおそらく「イエス・キリスト」を意識したものと思われる。
追記
船長役のレスリー・ニールセン。コメディー映画「裸の銃を持つ男」で有名な俳優だが、映画ではなかなかシリアスな役を演じている。
劇中のロゴ夫妻は夫が警部補で、妻は元ストリートガールだった。夫は妻に客を取らせない為、6回も逮捕した。
新年を迎えた後、外国では「蛍の光」を唄うのが意外に思われた。
映画を見る限り、カトリックなのかプロテスタントか、私には区別がつかない。
今回「神父」と表記したが、プロテスタントであれば「牧師」と表記するのが正しいかもしれない。
(文中敬称略)