最後の花嫁強奪と主題歌が有名 ダスティン・ホフマン主演『卒業』
1960年代、アメリカ映画が「ニューシネマ」と云われた時代に、一つの名作が誕生した。
映画のラストシーンは衝撃的だった。
そのシーンに負けず劣らず主題歌も見た人間を魅了。とても印象深い曲で、皆の耳朶に谺した。
今回はダスティー・ホフマン主演、『卒業』を取りあげてみたい。
・題名 『卒業』
・公開 1967年 アメリカ
・配給 エンバシィー・ピクチャー
・監督 マイク・ニコルズ
・製作 ローレンス・ターマン
・脚本 バック・ヘンリー、カルダー・ウィリンガム
・音楽 ポール・サイモン、ディブ・グルーシン
目次
登場人物
◆ベンジャミン・ブラドック :ダスティン・ホフマン
大学卒業後、目標を失い、自堕落な生活を送る
◆ミセス・ロビンソン :アン・バンクロフト
ベンの両親の馴染みの婦人
◆エレーン・ロビンソン :キャサリン・ロス
ロビンソン夫妻の娘。ベンとは幼馴染み
◆ミスター・ロビンソン :マーレイ・ハミルトン
ミセス・ロビンソンの夫
◆ミスター・ブラドック :ウィリアム・ダニエルズ
ベンの父親
◆ミセス・ブラドック :エリザベス・ウィルソン
ベンの母親
◆カール :ブライアン・エイビリー
ホテルのフロント係
あらすじ
大学を優秀な成績で卒業したベンは、両親が住む自宅に戻った。
自宅に戻ったベンは将来を期待され、両親の歓迎を受けた。
しかし大学を卒業したベンは、次の目標を見い出せないでいた。
そんな或る日、ベンの為に両親が歓迎パーティーを催してくれた。
パーティーの席でベンは、昔から顔馴染みであったロビンソン夫妻に出会う。
夫妻は嘗ての幼馴染みであったエレンの両親だった。
ロビンソンの妻は、立派に成長したベンを誘惑した。あまり出来事に驚き、ベンは断った。
しかし現在の目標が定まらない生活と虚ろな心の隙間をつかれ、ベンは誘惑に負けてしまう。
ロビンソン夫人との逢瀬を重ねるベンであったが、ベンがあまりにも自堕落な続けるのを見かね、ベンの両親は、休みで現在帰宅しているロビンソン夫人の娘、エレンを誘うよう説得する。
両親の説得されエレンを誘うが、ベンはエレンの母であるロビンソン夫人に夢中になり、敢えてエレンに嫌われるように仕向ける。
しかしエレンのあまりの純粋さを知り、ベンは悩んでしまう。
ロビンソン夫人は、ベンに今迄の関係を暴露すると迫る。
ベンは葛藤に耐え兼ね、自らエレンに話してしまう。
エレンは憤慨してベンの許を立ち去り、大学に戻ってしまう。
エレンが去り、ベンはその時初めて、エレンが好きだったと自覚する。
ベンはエレンを説得する為、エレンの大学まで押し掛ける。
エレンに会い好きだと告白するが、エレンは「他の人と婚約した」とベンに告げる。
或る日、エレンはベンに何も告げず退学していた。両親が薦めた相手と結婚する為に。
ベンはエレンを取り戻すべく、エレンの結婚式場に乗り込む。
会場に乗り込み、ベンはエレンの名を叫び、会場からエレンを無理やり連れ出す。
二人は周囲の制止を振り切り、会場を飛び出した。
エレンは結婚式の衣装のまま飛び出し、ベンと一緒にバスに乗り込む。
バスに乗り込んだ二人は、周囲が驚きの目で二人を見つめるのも気にせず、一瞬の幸福に浸る。
しかしやがて今後訪れる二人の将来の不安が頭を過り、バスが揺れるのに身を任せる二人だった。
見所
何と言っても見所は、最後のベンの花嫁強奪シーン。
映画史上でも名場面の一つに数えられている。
このシーンが暫しサムネイル等で使われる事が多い。
TV番組等にも、暫しこのシーンを捩った映像が使われている。
それだけ印象に残るシーンと言えよう。
式場を脱出した二人がバスに乗り込み、後部座席に座る。
初めは二人供、陽気で明るい表情をしていたが、徐々に笑顔が消え不安と焦燥を帯びた顔つきになるのが分かる。
これは二人の将来が決して、輝ける未来とは限らない事を暗示している。
それを表現する為、撮影の際、敢えて監督以下・スタッフがなかなかOKサインを出さず、二人が徐々に不安になっていく表情を捉えた映像。
ダスティン・ホフマンは左程、不安な表情をしていないが、キャサリン・ロスが不安に駆られ、徐々に顔が曇っていくのがハッキリ分かる。
尚、バスの揺れは、二人に将来の心の動揺を暗示したものかもしれない。
映画冒頭から流れる音楽が、とても印象的。敢えて説明するまでもないと思う。
映画が紹介される際、必ず一緒に流れてくる有名な曲。
『サウンド・オブ・サイレンス/The Sound of Silence』
この映画のヒットでダスティン・ホフマンは、一躍スター街道を突き進む。
それまでの彼は嫌と云うほど、下積み生活を続けていた。
売れるまで色々な職を転々とし、食うや食わずの生活を続けていたのは有名な話。
以前も述べたが、ダスティン・ホフマンが演劇学校で学んでいた時、同じクラスにジーン・ハックマンがいた。
ジ―ン・ハックマンも売れる迄、相当苦労した。
ほぼ同時期に僅か数作に出演した後、早逝した「ジェームス・ディーン」も所属していた。
追記
前述したがダスティン・ホフマンは、この映画をきっかけにスターダムの道を駆け上がる。
後の『クレイマー・クレイマー』『レイン・マン』はあまりにも有名。
意外な役回りで、異色のR指定映画『真夜中のカーボウイ』、コミカル映画『トッツィー』なども出演している。
本音を言えば、私自身2000年ぐらい迄、ダスティン・ホフマンの姿を映画で見ていた。
しかし2000年以降、あまり見なくなった。心に残る作品が少なくなった。
ロバート・デニーロの様に、年相応な役を熟すというよりも、何か昔の童顔のイメージがあった所為なのか、あまり印象が薄い。
あまり売れた映画の役が強すぎ、他の役を演じても、売れた映画の役がオーバーラップするのかもしれない。
因みに1988年作:『レイン・マン』の時点で、既に51歳だった。
それを基に計算すれば、1967年の本作公開時、ダスティン・ホフマンは30歳となる。
今回の作品は「ニューシネマ」と言われたアメリカの映画時代。
以前紹介した映画『俺たちに明日はない』と並ぶ代表作とも云える。
公開された年が、同じ1967年であるのは、決して偶然ではないと思う。
不思議と優れた作品というものは、重なる事が多い。
尚、1967年度のアカデミー賞を受賞した作品は、此れも以前紹介したシドニー・ポワチェ主演『夜の大捜査線』だった。
因みに『招かざる客』も同年度の作品。本当に名作が重なった年だったと言える。
(文中敬称略)