人類を脅かすウイルスの存在 『アウトブレイク』

年末年始から現在に至り、中国武漢市で発生した新型ウイルス(コロナウイルス)が、世界各国で猛威を奮っている。

日本は近隣諸国である為、発生地中国に次ぐ、世界第二位の感染国となった。一刻も早い事態の収拾が望まれる。

今回のウイルス騒動を見た時、ふと昔似た映画を見た記憶が蘇った。

それは1995年に公開された米国映画、『アウトブレイク』。今回は時期的な意味もあり、この映画を紹介したい。

 

・題名       『アウト・ブレイク』

・監督         ウォルフガング・ペーターゼン

・脚本      ローレンス・ドゥウォレット、ロバート・ロイ・プール

・製作      ゲイル・カッツ、アーノルド・コペルソン

・公開         1995年 米国

・音楽      ジェームズ・ニュートン・ハワード

・配給      ワーナー・ブラザース

 

出演者

 

◆ダスティン・ホフマン:サム・ダニエルズ大佐

アメリカ陸軍所属のアメリカ陸軍感染症医学研究所に勤務する大佐。アフリカ大陸ザイール国、モダーバ川流域でおきた謎の伝染病を調査する為、現地に飛ぶ。

現地調査の結果、事態は余談を赦さない状況であると判断。軍上層部・アメリカ疾病予防管理センターに喚起を促すも、却下される。

 

其の後、アフリカから密輸入された猿から伝染病が発生。軍の命令を無視して、現地住民を救うべく同士と供に現地に飛び、調査・治療にあたる。

伝染病に対する新型ワクチンを開発しようと試みるも、軍上層部から執拗な妨害を受ける。

数々の苦難を乗り越えながら、必死に感染した住民と元妻ロビーを救うべく奮闘する。

 

◆レネ・ルッソ:ロビー・キーオ

アメリカ疾病予防管理センターに勤務する、ダニエルズ大佐の元妻。伝染病の調査にアフリカに飛んだダニエルズ大佐からの報告を聞くも、初めは消極的な態度をとる。

しかしアメリカ国内で伝染病が広がるや否や、ダニエルズ大佐と供に、人命救助に協力する。

治療中、感染して死亡した友人、シュラー少佐の採血をした際、誤って自分の腕に注射して羅患してしまう。

 

◆モーガン・フリーマン:ビリー・フォード准将

サム・ダニエルズ大佐の直属の上司。アフリカザイールで伝染病が発生した際、ダニエルズ大佐に調査を命じる。

調査を命じたダニエルズ大佐から、事の重大さの報告を受けるが、何故か消極的な態度をとる。

しかし最後は、医者としての良心の呵責からであろうか、事実の隠蔽を図ろうとした軍上層部を告発する。

 

◆ケビン・スペイシー:ケイシー・シュラー少佐

ダニエルズ大佐と同じく、人道的立場で軍上層部の命令を無視。必死に発症したシダー・クリークの住民の治療にあたる。

治療に当たるも自分自身が感染。死亡してしまう。

 

◆キューバ・グッディング:ソルト少佐

ダニエルズ大佐と同じく、人道的立場で軍上層部の命令を無視。伝染病を発症したシダー・クリークに飛び、人命救助に当たる。

何度も軍の妨害に遭いながらも、ダニエルズ大佐と供に窮地を脱し、シダー・クリークの住民を救う。

 

◆ドナルド・サザーランド:ドナルド・マクリントック少将

今回の伝染病の正体をしる、軍上層部の数少ない人物。伝染病を細菌兵器として利用する事を企み、事実の隠蔽を図ろうとする。

その為、ダニエルズ大佐達の必死の人命救助の行動を妨害する。

 

あらすじ

 

映画冒頭は1967年のアフリカ大陸、ザイール(現コンゴ)国モダーバ川流域で内戦中の傭兵部隊で発生した、謎の伝染病の場面から始まる。

アメリカ陸軍特殊部隊は、罹患したアメリカ人傭兵の血液を採取。アメリカ本土に持ち帰る。

 

血液採取後、アメリカ軍は伝染病の拡大と事態の隠蔽を図る為、特殊爆弾で傭兵キャンプを抹殺(除去)した。

そして事態は、何事もなかったように月日が過ぎた。

 

或る時、再びアフリカ大陸モターバ川流域の小さな村で、謎の伝染病が発生する。

事態を重く見たアメリカ陸軍は、特殊部隊を派遣。調査に乗り出す。

 

現地調査に赴いたサム・ダニエルズ大佐(ダスティン・ホフマン)は、伝染病の致死率・感染率の高さを実感する。

事態を重く見たダニエルズ大佐は、軍の上層部と「アメリカ疾病予防管理センター」に勤務する元妻ロビー・キーオ(レネ・ルッソ)に緊急警戒を発令することを進言するが、却下される。

 

失意にくれたダニエルズ大佐は、軍と喧嘩別れをする。

時を同じくして、アフリカで捕獲。密輸入された一匹の猿が、米国カリフォルニア州の片田舎の町(シダー・クリーク)に持ち込まれた。

密売人はペットショップに持ち込み、店に買い取りを求めるが、店主は密売人の要求をすげなく拒否する。

ペットショップの店主は、その時猿に顔をひっかかれた。

 

猿を売りそびれた密売人は、猿を持て余し森に放つ。これが今回の悲劇の始まりだった。

猿はアフリカモターバ川の村で発生した伝染病の保菌者(猿)?だった。

伝染病は密売人、猿に顔をひっかかれたペットショップの店主を介在し、忽ち町全体に広まってしまう。

 

事態は映画のタイトルの如く、アウト・ブレイク(悪疫等たちの悪い流行病・感染症の突発的発生の事)となる。

町は住民全体を巻き込んだ、パニック状態に陥る。

 

伝染病発生の報を聞いた軍上層部は、即座に以前ザイールで起きた謎の伝染病である事に気付く。

しかし軍上層部は、事態の収拾に消極的だった。

軍上層部の意向に反し、伝染病から住民を救おうとするダニエルズ大佐は、命令を無視。心を共にした同士達と町に乗り込む。

 

治療法の研究と感染ルートの特定を進めていたダニエルズ大佐だが、友人のケイシー・シュラー少佐(ケビン・スペイシー)が不慮の事故で感染、死亡してしまう。

更にシュラー少佐から血液採取をしようと試みた、ロビー・キーオも誤って感染してしまう。

元妻ロビーを助けるべく、ダニエルズ大佐は軍上層部の妨害を振り切り、必死で感染源の猿を捕獲しようと試みる。

 

さてダニエルズ大佐と元妻ロビー、そして町の住民の大半が感染したシダー・クリークの運命は如何に?

 

見所

 

今回、改めて映画を見直した際、感じた事は、得体の知れないウイルスの脅威。

それに伴う、一般市民の情報の無さ故の混乱(パニック)。

 

アメリカ軍上層部は既に20以上前、ウイルスの脅威を把握していたにも関わらず、患者(検体)の血液サンプルを搾取したのみだった。

あろう事か証拠隠滅の為、伝染病に感染した傭兵・キャンプ諸共、化学兵器で消滅させた。

 

証拠隠滅後、持ち帰った血液サンプルを秘密裏に研究。研究を重ねた結果、病原菌に対するワクチンまで開発していた。

しかしそれは、当時の軍上層部の一部のみが知る事実だった。事実は隠蔽され、次世代へと引き継がれた。

 

今回、悪役を演じた「ドナルド・マクリントック少将」を演じる「ドナルド・サザーランド」は、数少ない当時の事実を知る人物。

ドナルド・マクリントック少将は何故、極秘に処理しょうとしたのか。

当時アメリカ軍は、モダーバ川付近で発生した伝染病のサンプルを採取。

軍はサンプルを基に、病原菌に対する研究を進め、ワクチンまで開発していた。

 

皆様の中には、ワクチンまで開発していたにも関わらず、何故軍は隠蔽していたのかと思われるかもしれない。

疑問を持たれて当然。

一般市民であれば、そう思うのが当然の成り行き。しかし軍首脳部・為政者(権力者)はそう思わない。

 

理由は、全世界でまだ未曽有の病気が発生した時、イニシアチブ(主導権)を握るのは、いち早くその伝染病に対するワクチンを開発した組織(人間)。

イニシアチブを握れば、他の人間に対する生殺与奪を握った事を意味する。

逆に言えば、ワクチンが無ければ、人を殺める強力な武器となりえる。

 

敵対する組織・人間に対する、強力な武器(テロの為の有効な武器)となる。

軍は伝染病に対するワクチンまで開発していたが、他国に対し優位性を保つ為、事実を隠蔽した。

それ故軍は身内のダニエルズ大佐に対し、執拗に妨害工作をする。

 

此れは何処の組織にも云えるが、「現場と上層部との意識の違い」と云える。

今回たまたま伝染病の発生源が輸入された猿だったが、此れは猿に限らず、対象は何にでも当て嵌まるであろう。

 

因みに猿は、アフリカに居た時、血液・体液等による感染のみであった。

アメリカに密輸入された後、病原菌は覚醒を遂げ、空気感染(エアゾル感染)も可能となる。

アフリカ時に比べ、更に発達した強力な病原菌となった。

 

猿は今回のアウト・ブレイクを鎮める意味で、重要な意味を持つ。

普通であれば病原菌に侵された場合、猿は真っ先に死亡する。

猿が死亡しないと言う事は、猿は病原菌の発生源と同時に、病原菌に対する抗体も持ち合わせているという事を意味する。

つまり猿を捕獲して、猿の抗体を採取。抗体を基に、ワクチンを作れば良いとの結論に至った。

 

ダニエルズ大佐は調査を進めるにつれ、軍は過去に伝染病の存在を認知。ワクチンまで開発していた事実を突き止める。

ダニエルズ大佐は町の人々、元妻ロビー・キーオを救うべく孤軍奮闘する。

 

軍上層部は、嘗てザイールの村を除去した如く、軍の爆撃機でダニエルズ大佐・関係者・村全体の壊滅を図ろうと試みる。

しかし軍上層部の命令を受けた爆撃機の操縦士は、ダニエルズ大佐の心(人道的立場)に打たれ、態と狙いを外す。

爆撃機が狙いを外した為、ダニエルズ大佐は新型ワクチンを患者に提供。村の人命・元妻ロビーを救う。

 

良心の呵責からか。今迄軍上層部の意向に従っていた、ダニエルズ大佐の直属の上司「ビリー・フォード准将」は、事実の隠蔽を目論んだ上層部を非難。

最後に軍の上司で事実の隠蔽を企んだ人物、ドナルド・マクリントック少将を告発する。

 

結論を述べれば、

政府機関の軍上層部の一部が暴走。

 

表立ってはいないが、此れは過去の歴史において決してアメリカのみではなく、世界各国で何度も繰り返されて来た出来事。

今回もその一部に過ぎない。

一般国民は、知らないだけ。日本でも十分起こりえる事象であり、実際過去に何度かあったと思われる。

 

この時期、不思議と似たような内容の映画がつくられたと記憶している。

1997年作:『陰謀のセオリー』、1998年作:『エネミー・オブ・アメリカ』等は、似たような内容の話。

或る政府機関が「国家安全保障」の名の下、暴走してしまう内容。

 

系統は少し違うが、1995年:『暴走特急』も似た内容かもしれない。政府機関が極秘に進めた開発兵器が、悪用されてしまう例。

 

不思議と映画界には、ある同時期に似たような映画が量産される事がある。

1960年代、ハリウッド映画でミュージカル映画が多数製作されたような状況も同じ。

それは当時の売れっ子のスタッフが、殆ど同じ人物であり(監督・脚本・製作等)、似た内容になるのかもしれない。

 

追記

 

今回の悪役ドナルド・マクリントック少将を演じたドナルド・サザーランドは、1991年作:『JFK』で主役ジム・ギャリソン(ケビン・コスナー)に重要な情報を与える、X元大佐役を演じている。

ドナルド・サザーランドは、大の親日派の役者として有名。日本の俳優、故三船敏郎を尊敬している。

尚、三船敏郎とサザーランドは、私のお気に入りの俳優。

 

今回、ケビン・スペイシーが、ケイシー・シュラー少佐として出演。モーガン・フリーマンが、ビリー・フォード准将として出演している。

実は二人は、同年公開された名作『セブン』で、モーガン・フリーマンは退職真近の老刑事、片やケビン・スペイシーは、殺人犯を演じている。

セブンは公開年を明確に記憶していたが、まさか二つの映画が同じ年とは思いもしなかった。

セブンの方があまりにも印象が強すぎ、今作品の印象が薄れていたのかもしれない。

 

今回のウイルス騒動が無ければ、私も思い出す事もなかったかもしれない。

因みに、私の好きな映画『レオン』も米国では1994年公開だったが、日本公開は翌年の1995年だった。レオンも私の好きな映画の一つで、その事も影響しているかもしれない。

 

しかし改めて出演者を眺めれば、確かに豪華。

珍しく、ダスティン・ホフマンが出演した映画にしては、あまり印象が薄かった映画と言える。

 

レネ・ルッソも以前紹介した映画『リーサル・ウェポン』シリーズの第3、4作に出演。

素晴らし演技を披露しているが、今回は不思議とあまり話題にならなかったと言える。

逆に今であれば、爆発的ヒットが望めたかもしれない。

ある意味、時期を間違えたのかもしれない。

 

(文中敬称略)