少年が成長する過程を描いたアニメ 松本零士『銀河鉄道999』

誰しも、少年から青年に成長する時期がある。

たまたま自分と同じ年代の少年が主人公であった為、毎回欠かさず見たアニメ『銀河鉄道999』を述べたい。

 

・作品       『銀河鉄道999』

・作者       松本零士

・出版社      少年画報社

・掲載誌      週刊少年キング

・掲載期間     1977年5・6合併号 – 1981年48号 

・コミック     ヒットコミックス 全18巻 

 

登場人物

 

◆星野鉄郎     :銀河鉄道999号で旅する少年。   

◆謎の女性メーテル :星野鉄郎と旅をする謎の女性。        

◆999号の車掌  :銀河鉄道999号の車掌で、鉄郎に暫し親切にしてくれる。

◆999号の機関車 :銀河鉄道999号の頭脳とも言える存在。

◆プロメシューム  :銀河鉄道の最終駅に登場する惑星。メーテルの母。  

◆星野鉄郎の母   :地球にて、機械伯爵の人間狩りの獲物にされる。

◆星野鉄郎の父   :貧困で働きずめで体を壊し、亡くなる。

 

作品概要

 

地球に住む未来の人類は機械化人間に支配され、階級化が進み、人類は機械化人間に虐げられる存在だった。

「星野鉄郎」は心優しい父母の間に生まれた少年だが、3人は貧困にあえいでいた。毎日の食事も欠く有様。

父は貧困の為、働き続けるが無理が祟り、体を壊し亡くなる。

 

或る日、鉄郎と母は機械伯爵たちが行なう「人間狩り」の獲物にされ、鉄郎の母は機械伯爵たちに殺害された。

鉄郎は吹雪の中で死にかけた時、謎の女メーテルが鉄郎の命を救った。

 

女の名前は「メーテル」。メーテルは何故か、鉄郎のことを知っている様子。

鉄郎は地球での惨めな生活に嫌気がさし、機械の体をタダでくれる星を目指し、旅をする決意を固める。

 

決意したのは良いが、いま地球に停車している「銀河鉄道」に乗り込む為にはパスが必要。

あいにく鉄郎には、パスを買うお金がない。

パスは非常に高価なもの。嘗て父はパスを手に入れようと必死に働き、挙句に命をおとした。

 

メーテルは何故か鉄郎に、無料でパスを譲ると言い出した。

鉄郎には願ったり、叶ったり。しかし鉄郎は、高価なパスをタダでくれるメーテルを不思議に思った。

 

鉄郎にタダでパスをあげる条件としてメーテルは、自分も一緒に旅することを願い出た。

 

鉄郎はメーテルの真意は分かりかねたが、パスを無料でくれる為、二つ返事で了承した。

此れが、二人の初めての出会いだった。

 

母を殺された鉄郎は機械伯爵たちに復讐する為、機械伯爵の屋敷に向かった。

屋敷で機械伯爵たちは、狩りで手に入れた鉄郎の母を剥製にして(原作では既に剥製となっていたが、アニメでは流石に憚ったのか剥製前だった)、宴を催していた。

 

機械伯爵達の宴の最中に鉄郎は屋敷に踏み込み、機械伯爵を倒し復讐を果たした。

復讐後、鉄郎は屋敷に火をかけ、立ち去った。結果、鉄郎は機械が支配する地球にて、お尋ね者となる。

お尋ね者になった鉄郎に、機械警察の追手が迫る。追っ手から逃げる鉄郎。

 

捕まる寸前、鉄郎は再びメーテルに助けられた。追手から逃れた二人は、銀河鉄道999に乗り込んだ。

此れが長く続く、二人の旅の始まりとなる。

 

旅を続けていく中、鉄郎は各駅(惑星)に停車。色々な体験を積み重ね、人間として成長していく。

やがて列車は最終地点、プロメシュームに到着する。

 

鉄郎が地球から旅して機械の体をタダで手に入れる星に行くと決意し、辿り着いた最終駅で鉄郎を待ち受けていた運命とは。

 

見所

 

大概1話1話で話が完結するが、前編・後編とある場合もある。

話の中に、鉄郎が少年から青年に成長する過程で、必ず経験しなければならない何か人生の教訓のようなものが含まれている。

 

教訓は少年から青年。更に大人の人間に成長する為に、大変貴重なモノと云える。

様々な体験を重ね、鉄郎は人間として成長。逞しく育っていく。

 

メーテルが登場。鉄郎に無料で銀河鉄道のパスを渡し、一緒に旅をする目的が子供の頃は理解できなかった。

鉄郎が最終駅プロメシュームに到着した際、漸く目的が判明するが、それでも当時は理解できなかった。

 

当時、メーテルの存在意義と役割が理解できなかったのかもしれない。

メーテルは鉄郎の良き保護者(母)であり、姉であり、又恋人だと思っていた。

 

しかし子供心にも漫画の重要なテーマは

人に生まれた事が幸せで、機械と違い時間は永遠でない。

 

人は限りある生命だからこそ、自分や他人を愛おしく思う。人間の心と時間の大切さを教えてくれた漫画だと理解できた。

 

つまり「命は限りがあり、時間を大切にし、最後まで精一杯生きよ」と言うメッセージが込められているのが、子供ながら理解できた。

 

地球は人類が生み出した機械に逆に支配されるようになり、人間の生命が機械に脅かされるといったテーマが、既にこの頃からなされていたのが驚き。

 

10年以上前、公開された映画『マトリックス』も同じテーマだったと思う。

他にも多くの映画で、似たようなテーマが見られる。しかし何れも似たような教訓。

 

まさに現代はAI(アルゴリズム)などで、既に機械が人間を凌駕。支配する社会になりつつある。

まさに未来を先駆けした作品と言えるかもしれない。

 

原作・アニメにも、機械が人間を支配する話題を具体化した回が存在した。

人間がする事は機械がする。人間はただ機械を操作するのみ。

その為、人はブクブク太り、何もしない話の作品が登場した。

1話1話を思い出せば、人間の寓話・醜い部分・心の闇を映した作品が多かった。

 

逆に人間らしい心を持った、心温まる作品も存在した。

例えば

「16話:蛍の街」「31話:怒髪星」、「45話:これからの星」、「60話:大四畳半惑星の幻想」

等は秀作。

 

最後のプロメシュームが典型かもしれない。

プロメシュームはメーテルを遣わし、今迄数多くの人間を騙し最終駅に連れてきた。

その後、自らの野望の為に利用した。

 

メーテルが何故、黒い服を着ているのか。

それは自分がプロメシュームに連れてきて別れた、人間達へのレクイエム(鎮魂)だった。

つまり、魂を弔う為の喪服と分かった。

 

鉄郎もメーテルにとり、数多くの中の一人に過ぎなかった。

しかし鉄郎と旅を重ねるにつれ、鉄郎の優しさ、人間性に惹かれ、母なるプロメシュームに反抗。

プロメシュームの破壊を決意、実行する。

 

メーテルは、遂に母からの決別。

鉄郎はメーテルに対し、「母の頸木から離れ、メーテル自身の意思で生きていく力」を与えたとも言える。

 

鉄郎は

「自分は機械の体よりも、今の自分の体が大切だ」

と気付くと同時に、メーテルに生きる意義を教えた。

私も大人になり、漸く気づいた。更に実は無意識だが、鉄郎も母から脱却したといる。

何故なら、機械の体になり永遠の命を持つのは、鉄郎の母の夢だった為。

つまり母の願望であり、決して鉄郎の願望ではなかった。

結果として二人は、母からの脱却ができたということ。

 

 実は作品のメインテーマが「実は生身の体が一番幸せであり、時間を大切に」とすれば、もう一つの隠れたテーマは「母からの脱却」なのかもしれない。 

 

『機動戦士ガンダム』も同様。

ただの戦闘アニメではなく、何か人間臭く、人間の心の機微を対象としたアニメだと気付くのに多少の時間を要した。

或る意味、大人向きの漫画かもしれない。

 

プロメシュームの「一つ前の駅:惑星こうもり」に戻った鉄郎とメーテルは、それぞれの目的と未来に旅立つ為、別れを告げる。

 

二人が再会した際、二人が更に人間として成長している事を匂わせるシーンで、アニメは終了している。

だいぶ月日が経ち続編が連載されたが、あいにく続編は見ていない為、その後は分からない。

時間があれば、読みたいと思う。

 

しかし大概、続編というものは失敗が多い。

何故なら、観ていた当時からかなり時間がたち、価値観や感受性が変化している為。

更に初めてみた印象やイメージを崩したくないという防衛反応や拒否反応もあるかもしれない。

 

尚、銀河鉄道999(初期アンドロメダ編)はDVD、ブルーレイでも視聴が可能。

レンタル屋に行けば、簡単に観れる。時間があれば、全巻観たい。

 

以上が『銀河鉄道999』に纏わる思い出話。

冒頭でも述べたが、アニメが流行った時、自分が主人公と似た年齢だった。

その為、感情移入が激しく、知らず知らずにのめり込んでいた。

主人公の星野鉄郎と、自らを重ね合わせていたのかもしれない。そんな思いがする漫画・アニメだった。

 

良いアニメは音楽と同じで、常に時代を超える。時代を超えても決して色褪せる事はなく、寧ろ新鮮さが漂う。それは何時の時代も人にとり、生きる上での大切なテーマを含んでいる為かもしれない。

 

アニメのオープニングの歌詞の最後に

「きっといつかは 君も出合うさ 青い小鳥に」

という言葉の意味が大人になり、漸く理解できた。

 

鉄郎は銀河鉄道に乗り、機械の体をタダで手に入れる星を目指すが、それは所詮「青い鳥」を探しに行ったに過ぎない。

大昔のミュージカル映画、「オズの魔法使い」も同じテーマ。夢を追い旅に出るが、実は幸せは身近にあったということ。

古今東西、実は夢とは幻想であり、実社会の身近な処にあるのだというメッセージなのかもしれない。

 

青い鳥:小説
★モーリス・メーテルリンクの作品。
主人公チルチルとミチルが、幸福の象徴として青い鳥を探しにいくが、実は幸福は身近にあったと言う話。鉄郎と一緒に旅する女性の名は「メーテル」。つまり作者「松本零士」は青い鳥の作者の名を捩って付けたと思われる。

 

尚、You Tubeにて、版権元の東映アニメの公式サイトが見つかりましたのでリンク先を貼っておきます。第一話「出発のバラード」になります。

公式サイト:https://youtu.be/d0iwi6sZ5LE

 

(文中敬称略)

 

追加

令和3年7月26日付、公式サイトにて、期間限定で一話一話の公開が始まりました。

現在、第2話が公開されています。是非、ご覧下さい。